【田沢湖の激震】レイネ氏、まさかのノロケ死!? 次回作にご期待ください。
田沢湖の湖岸を、杏とレイネは並んで歩いていた。
風が湖面を撫で、水音が心地よく響く。
陽光が降り注ぎ、湖はきらきらと輝いている。
「ねぇ、レイネ」
杏は、ふと、レイネに問いかけた。
「そういうレイネはどうなの?向こうで結婚とか、彼氏とか」
「ふぇ? き、聞いちゃう? 聞いちゃうの?」
レイネは、杏の言葉に、大きく目を見開く。
なぜか、ひどく動揺している様子だ。
そのリアクションが妙に新鮮で、杏は少し面食らった。
だが、面白がって口元を緩めた。
「ちょっとぐらい教えてよ」
レイネのいた世界は、中世ぐらいの文化レベルだったはず。
恋愛とか制度とか、あまり自由じゃないかもしれない。
──でもきっと、それも上手くいかない世界なはず……
レイネが自分と同じように、何かを諦めたり、手放した経験があったなら。
きっと、それを共有できるはずだと──思っていた。
しかし──
「このネタ、10時間くらいしゃべり続けちゃうよ。あ、2、3日かも」
レイネにしては珍しく早口だった。
「彼氏いるの? どんな人?」
杏は、動揺を打ち消すように畳みかけた。
「彼氏っていうかー、両親同士が仲良くてーぇ」
語尾がやたら伸び始める。
えー、なんていうかーでへへと照れくさそうにハンカチで顔を隠す。
「勝手に決めたっていうかぁー」
特徴的な耳の先まで、真っ赤。
「えー、親が決めたって。今時許嫁的なー? 現代にもあるー?」
杏は、驚きと興奮が入り混じった声を上げた。
「現代人、3ヶ月ちょっとですー」
レイネは、ハンカチで顔を隠したままそう言った。
まさかの親に無理やり決められた展開ーッ。
さすが異世界級──!?
「え?大丈夫なの?」
杏の言葉で動きが止まるレイネに食い下がった。
「レイネはそれでどう思っているの?」
ハンカチを顔から外したレイネ。
その表情は、真剣そのものだった。
「めっちゃ好き」
レイネは、真顔で、しかし力強くそう言った。
「めっちゃ好き。めっちゃかっこいい」
レイネの顔は、真っ赤。
でもニヤニヤ、緩みまくっている。
「あーもー、杏が変なこと言うから、思い出しちゃったじゃない」
となぜか地団駄を踏む。
「やだ、会いたい、今すぐ会いたい。──でも、弘前公園の桜を見たい」
突如しゃがみ込むと、何やらぶつぶつ言っている。
「理性だ、我慢だ、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、レイネ……」
そんな言葉とはうらはらに、理性はもはや微塵も残っていないようだった。
すっくと立ちあがるとハンカチを振り回し始める。
近くを歩いていた人が、『おっと』と避けて通る。
それすら全く気付かないレイネ。
「まだ帰らないんだもん。桜見るんだもん。──あれ? でも、もっかい転移すればいいのか、ハッ、それは名案だ!いったん帰って、また来れば……」
頭を抱える。
「いや、魔力が足りない、どうしよう……」
真剣なまなざしで遠くを見る。
「でも、ラブラブしたい。ちゅーってしたい。おかえりレイネとか言われちゃって、ハグされたら……。ああ、とろけちゃいそう」
くねくねと体をねじった後、はっとなって空を見上げる。
「そうか、次のページで弘前公園のシーン入れて、次で感動的な帰還のシーン入れて、ささっと終わりにして、あとはラブラブ、うふふ。うふふ、うふふ」
レイネの顔は真っ赤。
両手を頬に当て、身悶えしながら、支離滅裂な呟きが止まらない。
「うふふ、第二部レイネのラブラブ旅行記……うふふ」
その様子は、恋に焦がれる乙女そのものだった。
「レ、レイネ……」
杏は、呆然と彼女の名を呼んだ。
レイネは、ハッと我に返り、恥ずかしそうに俯いた。
「あ、取り乱しました……」
変わらず田沢湖の湖面は風で揺れ、水面に映る辰子姫像はきらきらと輝いていた。




