表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一部完結】同居人は異世界の女神さま!? 男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について  作者: yururitohikari


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/96

蕪嶋の潮風は、おいてけぼり

 八戸市博物館と根城──。


 車から降りてほっとしたのもつかの間。

 レイネは入口前に飾られている銅像を見るなり、馬と具足(甲冑のこと)に足が止まる。

 馬の肉付きが良いだの、甲冑(具足)の本物を見たいだのと言い始める。


 中に入るやいなや、レイネは展示物ひとつひとつに足を止める。

 「うわ、土器だ。どきどき」だの飢饉の歴史を見て「やはりこの世界にも飢饉は有るんだな……一体どうやって克服しているんだ?」とだのレイネはぶつぶつと呟きは続く。


 ──始まった。


 入館10分後には、杏はもうすでに、げんなりし始めていた。

 いったい、何がそんなに気になるのだろう。

 なるべく付き合ってあげたいが、それでも遅い。


 進まない。


 「もー、早く行こうよー」

 思わず声が漏れる。


 「はーい……って、うおー、具足!ホンモノあった!!」

 甲冑に目を輝かせてる。


 進まない、全然進まない。


 「あーちゃん、盾ないよ!盾!」

 レイネはぽかーんと口を開けながら甲冑に見入っている。

 「……うん、すごいね……」

 「これ、欲しい! あーちゃんも欲しくない?」


 欲しくないです……。


 何かで釣って進めるしかないか、杏は思う。

 とはいえ、あるのは『復元した城』

 「あっちにお城跡があるみたいだからさー、早く行こうよー」

 物は試しだ。


 「城? 行く行く」


 ──釣れた。まさかの「城」で。


 ウッキウキな感じでレイネ。

 「あの具足着てたら、がっしゃんがっしゃん音がするんだろうな」と独り言。

 「がっしゃんがっしゃん」


 え?


 杏は振り返る。


 「がっしゃん、がっしゃん」

 レイネは満面の笑みでそう言いながら、後をついてくる。


 ──なにこの人……。

 さっきハグした人と、ほんとに同一人物なのだろうか……


 根城跡に着くと、レイネが感心したように呟く。

 「居住系かぁ……木造なんだね」


 「──そう、木造。このお城は、1334年、南部師行が——」

 隣から声が飛んできた。


 見ると、眼鏡をかけた小学生男子。

 手には『週刊・日本の名城』。

 おそらく城博士ちゃん。


 ──うわ、来た。このパターン……!


 杏は、ゾワっと嫌な予感がした。

 レイネ、だめよ。お願いだからその子に絡まないで。


 お願い、お願い──


 「へぇー、1334年って何年前だ?」とレイネ。

 「約700年前ですね!」眼鏡をクイっとあげる博士ちゃん。


 ──アウトォ!


 そこからはもう、少年との城についての熱い論戦が始まる。

 根城と出城の違い、日本の現存天守と復元天守、攻城戦の戦術……


 ──ちょっともうー、誰ときてると思ってんのよー!


 博士ちゃんとの白熱教室が終わるとレイネは満足そうに言った。

 「あーちゃん、現存12天守※巡りしたい!」

 ※江戸時代以前に建てられ、現在まで残っている12の天守(城)のこと


* * *


 城博士ちゃんと別れ、車で移動して蕪嶋神社へ。

 二人は、散策をしながら、杏は「興味ある事には見境ないなぁ」と小言を言う。

 「ごめん。ごめん」

 レイネは肩をすくめる。


 「連れてきたのは私だけど、完全においてけぼりじゃない」

 杏にとっては、いつもの会話のつもりだった。


 近所の子供と蟻の話をしていたとき。

 居酒屋店員や、中華街で店員と話しているとき。

 いつも、ちょっとした『おいてけぼり』があって、過ぎてみれば、なんだか楽しい。

 自分が保護者になった気分。


 気を引こうなんて、微塵にも思っていなかった、いつものようなセリフ。


 レイネもいつものように、杏の腕をとる。

 「ごめんね」とレイネはいつものように、子供みたいにぎゅっと抱きついてくる。

 暖かくて、いつもより心地が良かった。


 「菜の花、きれい」

 レイネの声が近くで聞こえる。

 「写真撮るから、あそこに行って!」

 そう言って離れた瞬間、さっきまであった体温がすっと消える。


 ニャァニャアと騒いでいるウミネコ。

 「この辺りでいい?」

 鳴き声の中に擦れたレイネの声が遠くに聞こえる。


 うん。そのあたり。杏はそう言って、カメラを構えた。

 青空と、黄色と緑のコントラスト。

 その中に、透明感のある彼女の姿が切り取られる。


 潮風が吹くと、先ほどまでレイネが触れていたあたりが、ひんやりと冷えた。


 さっきまで隣にいたのに……。

 ファインダー越しに見ると、いつもより遠くに感じる。

 まるで、置いてけぼりにされたような感覚だと、杏は思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ