【横浜の余韻、全滅】スピリチュアルパワーと懸賞生活当選1号。
横浜中華街での夢のような二日間が終わる。
小鳥遊杏は再び、いつもの日常に戻っていた。
休日の昼下がり。
自宅リビングでパソコンを開き、杏は旅行の写真データを整理していた。
デジカメからコピーした画像が、大きなモニターに次々と表示されていく。
レイネと写るツーショット。
中華街の小籠包。
芦ノ湖の夕日。
旅行の思い出が、一枚一枚の画像として、画面に鮮やかに蘇ってくる。
──が。
「……あれ?」
ふと、杏は写真の違和感に気づいた。
どの写真にも、レイネのまわりに、うっすら白い光の粒が舞っている。
「レンズ汚れてたかな……」
一度はそう思ったが、風景だけの写真には何も写っていない。
昼でも夜でも、屋内でも屋外でも──レイネが写っている写真に限って、その光が必ずあるのだ。
「……もしかしてこれ、“オーブ”?」
杏は思わず画面を覗き込んだ。
スピリチュアル系の雑誌を読み漁っていた『黒歴史』が、こんなところで役に立つとは。
「レイネ、これ見て。なんか写ってるんだけど...オーブ?」
声をかけると、レイネがパソコンに近づき、画面を見る。
「あらま。これね、精霊だよ」
レイネは、何でもないことのように言った
「へ?」
「これが風の精霊で、こっちは光の精霊。あ、これは植物に宿ってるタイプだねー」
レイネは次々と指をさして、白い光の正体を言い当てていく。
(……全部、ただの白いポチに見えるけど!?)
杏の頭の中には、ツッコミが飛び交っていた。
「ねえ、これが写ってると“いいことある”とか、そういう感じ? パワースポット的な?」
スピリチュアルの血が騒いだのか、杏は少し期待をこめて聞いてみる。
「ないない。精霊に意思はないし、何かしてあげようとか、思ってないよ。ふわふわしてるだけ」
あっさりバッサリ、夢は潰えた。
「……そっか」
杏は、落ち着きつつも、自分が“精霊が写ってるかもくらいでは動じなくなっていることに気づく。
それもこれも、レイネと一緒に過ごしているせいだ。
「──あーちゃん、この夕日、すごく綺麗」
レイネがぽつりとつぶやいた。
画面には、芦ノ湖の水面を真っ赤に染めた、旅のラストショット。
茜色の空と湖が混じり合う、まさに絶景だった。
「ふふっ。そう言ってくれると、なんだか嬉しいな」
思わず杏の頬が緩む。
写真の中の夕焼けのように、心にもじんわりとあたたかい色が広がっていった。
* * *
リビングでは、杏とレイネが並んでパソコンの画面を見ながら、旅行の写真を選んでいた。
「鯛のポワレ美味しかった。また食べたい」
「ねー、やっぱり”天然”だしね!」
そんな他愛ないやり取りが続く中──
ピンポーン♪
突然、玄関のチャイムが鳴った。
「ん? 何か頼んだっけ?」
首をかしげながら、杏は玄関へ向かう。
ドアを開けると、宅配業者が封筒サイズの荷物を手渡してきた。
差出人は──
『腰痛原市観光協会』
「おおっ!? 当たった! ついに来たー!」
封筒を見た杏は、飛び跳ねそうな勢いで歓喜の声を上げた。
これは、先日ネットで応募した懸賞のやつだ。
前回の福引きに続いて、まさかの当選。
「また当たったの?」
「懸賞生活、ついに始まったわね……!」
──サイズ感から、まさかの旅行券!
わくわくしながら、杏は封筒にカッターを入れる。
「じゃじゃーん! ……あれ?」
中から出てきたのは──
針師をモチーフにした老人ゆるキャラ謎のステッカー。
しかも50枚。
「……え、なにこれ。想像の2億光年下いってない?」
杏は呆然としながら、同封されていた手紙を読む。
『この度はご応募ありがとうございます。
誠に恐縮ながら、末賞として“腰痛バスター爺”ステッカー50枚をお届けいたします。
ぜひ、わが市へお越しください。』
「行くかーっ!!」
叫びが、マンションの天井を突き抜ける。
「もう完全にぬか喜びじゃない!!」
期待値が高かっただけあって、苛立ちもひとしお。
「でもさ、貼れば腰痛治るかもよ?」
「貼って治るなら医者いらないわよ!」
ステッカーの山を前に、杏の“懸賞生活”は早くも試練を迎えていた。
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腰痛バスター爺の詳細はこちら(参考画像があります)
https://kakuyomu.jp/users/yururitohikari/news/16818792436201505919




