カリスマ美容師『上木理人』と、うろんな客は天然が過ぎる
俺の名前は──上木 理人。
横浜駅前のオシャレ美容室で日々その腕を磨き、今や指名数ナンバーワン。
いずれ“超カリスマ美容師”として、表参道を颯爽と歩き、芸能人の髪型をプロデュースする存在に──俺はなる!
すべてのお客様を、いや、世界中の人々を垢抜けさせてやるッ!
──土曜の夜。
「小鳥遊様、2名様でご予約...ヘアドネーションか。珍しいな」
上木は予約リストを確認し、メモを見つめた。
今日の担当は新規客。
名前は「レイネ」。
おそらく、外国人。
英語……話せない。
ヤバいかもしれない。
いや、落ち着け。
グローバルなカリスマになるには、どんな相手でも完璧に対応できなきゃダメだ。
しかし、今日に限って、ヘアアイロンで自爆した。
手の甲には火傷の痕。
じんじんと痛む。
──だが、これも試練。これも勲章。
薬剤でボロボロの手。
カットで疲弊した手首。
すべては美容師の誇り!
痛みを乗り越えてこそ、俺は『本物』になる──!
* * *
同じ頃。
杏とレイネは、美容室の店内に入った。
「わぁ、すごい……いっぱいある!」
レイネは待合スペースでさまざまな雑誌を前に、目を輝かせている。
杏はスマホを操作しながら、ちらりと横目でレイネの様子をうかがう。
見た目は落ち着いて見えるけど、中身はきっと好奇心でいっぱいなんだろうな。
まるで、知識を吸収しまくる小学生みたい。
私は、こんなふうに夢中で何かを見つめたこと、最近あったかな……
レイネの「なんで?」「どうして?」という素朴な疑問は、杏自身の目線も変えていった。
いつもの街並みが、彼女を通すとまるで別物になる。
ふと、自分の生活を思い返す。
言われたことをこなすだけ。
毎日、同じ時間に起きて、同じ道を歩き、同じ仕事をこなして。
「大人になるって、こういうことだったっけ……」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟いた。
やがて、レイネがカット台に通された。
担当する美容師は、上木理人という。
”かみきりびと”って読める。
名は体を表すな、と杏は思った。
* * *
その頃、カット台の準備をしていた上木に、アシスタントが耳打ちする。
「外国人っぽい方、すごく日本語うまいですよ。ほぼネイティブです」
「マジか、助かった!」
上木は軽く安堵し、姿勢を正す。
「本日担当する上木です──」
鏡越しに、お客様を見た瞬間、上木の脳内は機能停止した。
な、なんだ……。
え?どういうこと?
その客の出で立ちといったら……
腰まで伸びた銀髪。
水色と白のメッシュが入っている。
アクセントの様に、ピンクも混じっている。
とことん整った顔立ちと、透き通るようなグリーンの瞳。
見るからにアジア系ではない──というか、ファンタジー寄り。
そして何よりも、耳。
とんがった、長い耳。
どういうこと?
──コスプレか? え?シリコン製?
「よ、よろしくお願いいたします」
なんとか上木は声を絞り出す。
「よろしくお願いいたしまーす」
相手は流暢な日本語で返事をしてくる。
「あ、あの。失礼ですけど、お客様のそのお耳は、コスプレですかね?」
聞いていいのかわからなかったが、カットの邪魔になりそうだと思い上木は尋ねる。
「え? 天然ですね」
レイネはきょとんとした表情で言った。
「天然……?」
──え?まじ。何言ってんのこの人……。
上木は、混乱しながら言う。
「え? あ、ちょっとだけ触ってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
──ぷにぷにしてる! 冷たいけど、ちゃんと体温もある!
「……あ、やだ、ちょっとくすぐったいです」
レイネは首を傾げる。
上木はすぐに手を引っ込め、思わずぺこぺこと頭を下げた。
「失礼しました。カット中に触れちゃうかもしれませんが、その時はご容赦ください」
「はーい」
朗らかに返され、上木の背筋はますます伸びた。
今日はなんて日だ。
上木は思った。
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