【号泣】女神さま、特番「ヨシくん」に感動して鼻水が止まらない。
「お”か”え”り”な”ざ”い”ーぃ!!」
鼻水まじりの号泣ボイスで、ティッシュ1箱を持ちながらレイネが出迎える。
「えっ!? ちょ、なに!? チョ、マテヨ。何があったの!?」
「かっ……かくかくしかじかっ!」
ひきつけ混じりの嗚咽で、何とか説明しようとするレイネ。
落ち着け。まず深呼吸して。
何とか聞き取れた断片を繋ぎ合わせると──
・杏の外出中にテレビを観ていた(さっき終わったばかり)
・内容は、小児ガン病棟のドキュメンタリー番組
・主人公は「ヨシくん」、小学2年生の男の子
・笑顔を絶やさず、懸命に闘病していたが、最期には命を落とす──という構成らしい
「髪の毛が、抗がん剤で全部なくなってて…でも笑顔なんです...ひぐっ……」
レイネは顔面ぐちゃぐちゃのまま、ティッシュで涙と鼻水を拭う。
そして、その使用済みティッシュを隣に控えるちっちゃい精霊にパス。
ブラウニーは受け取り、無言でゴミ箱へポイッ。
──手、伸ばせば届くよね……と杏は思った。
「それだけじゃないんです……」
しゃっくり混じりの声で、レイネは続ける。
が、その隣で、ブラウニーが新しいティッシュをレイネに運搬。
──いや、だから、手、伸ばせば届くよね..。
そんな杏の心情はお構いなしにレイネは続けた。
病気と闘う子どもたちだけでなく
・寄り添う親の葛藤と苦悩
・影で支える医師や看護師の献身
・誰もが泣きたい気持ちをぐっとこらえ、それでも笑顔で過ごそうとする姿──
何よりも、”その短い一生を費やしながらも、世代を超えて医学を発展させ、意思を継ぎ、誰かのために、想いを紡ぐ人間たちの姿”をレイネは称賛した。
「こっちの世界は、子供を大切にするんですね」
レイネはそう言って、涙を拭い続ける。
その横で、ちっちゃいおじさんが律儀にキビキビと働く。
普段の杏なら、感化され一緒に感動の波に飲まれそうだった……が。
横のブラウニーの『マメすぎる動き』がどうにも目に入って集中できない。
──ブラウニー、どこまでリアルタイムなんだよ。しかも、手、届くよね?
「私の世界では、そんな高度な、”未来のために何かを残そう”とか”誰かのために何かをしよう”なんて思いはなかなか生まれない。それを生み出すための経済基盤も無い」
ああ、羨ましい、とレイネは言い続ける。
「何か私にできること、ないんでしょうか……」
うん、まずは自分でごみ箱に入れようね。
ブラウニー、ゴミ箱に落ちそうになってるから……。
そう思いながら、抗がん剤と言えば、と杏は思った。
「そうだ。ヘアドネーションって、知ってる?」
「へあ……どねーしょん?」
レイネは潤んだ瞳で杏を見つめてくる。
「髪を寄付するボランティアよ。治療で髪を失った子どもたちのために、かつらを作るの」
「レイネ、する。ヘアドネーションしたい!」
判断が早いな……
「とりあえず、ちゃんと調べてからにしよ。えーっと……」
杏はスマホを取り出し、「ヘアドネーション」で検索をかける。
「──へぇ」
杏は改めて知ることもあるわね……と思った。
・活動自体は広がっているが、実行した人はまだ少数派
・ウィッグの製作には31センチ以上の髪が必要
・団体ごとに送付方法や条件も異なる
・協力美容室も決まっていることが多い
「……ちゃんと切るなら、美容室で相談した方がいいね」
杏は行きつけの美容室に電話し、事情を説明。
「ヘアドネーションOKだって。予約取ったよ」
「やったー」
「──ついでに私も予約した」
こうして、女神の気まぐれが世間を揺るがすのであった……。




