「真面目に働け」背中で語るブラウニーとぽんこつ女神
スピリチュアル・アクセサリーショップ『ミザリィ』
その正体は、異世界の女神が下心満載で始めた俗物の塊。
開始10分で落札され、意気揚々のレイネ。
商品を梱包し、発送を済ませた数日後の事だった。
「ついでに、売れた商品の評価でもチェックしとこーっと」
レイネは追加の商品掲載をし終えると、評価欄を開く。
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【評価:★★★★★】
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先日、投稿から10分で落札されたピアス。
あれは、確か「ピンクローズで恋愛運アップ」のやつだった。
「おぉ、五つ星。しめしめ」
思い描いた通りだ。
『ちょっと』の魔力で顧客を引き寄せ、『ちょっと』の魔力付与をして、効果を利かせている。
とはいえ、マナが薄いこの世界では、想定よりもコントロールが難しい。
「──10分で落札されるとはね。『ちょっと』が行き過ぎていたかも……」
そんな軽い反省。
しかし、コメント欄を見て絶句する。
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このピアスのパワーはすごいです。本物です!!!
身に着けて3時間で、3人の男性からLINEが来て、付き合うことになりました!!!
同時進行中です♡♡♡♡
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「──ぁ...」
レイネは、小さく声を漏らす。
その表情から、さっと血の気が引いた。
額に、じわりと冷や汗が滲む。
他の落札商品の評価も確認する。
どれも星5がついており、絶賛コメントのオンパレード。
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急遽転職することになりました!
やりたかった仕事で、給料もUP!
神様ありがとう!!
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神様ありがとう!!......いえ、どういたしまして。
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待ち受け画面にしてたら、街で知らない人に花束もらいました!
別の日に、プロポーズされ、玉の輿確定!これ、マジです!
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「やべ、魔力付与、やりすぎちゃった……」
本当に、ほんの『ちょっと』だけのつもりだった。
この世界のマナ濃度は低いし、魔力の反応も鈍い。
軽く触れただけのつもりだったのだ。
だが──
神の『ちょっと』は、やっぱり人間界の『全力』を優に超えていたらしい。
「これ、向こう帰ったら怒られるやつだよね──?」
片付け途中のブラウニーに言うが、この精霊は特に意思もない。
レイネの心知らず、作業を続けるブラウニー。
淡々と作業をこなしていく後ろ姿は、「真面目に働け」と背中で語っているかのようであった。
* * *
仕事帰りの夕暮れ道。
小鳥遊杏は、ゆっくり歩きながら、この数週間の出来事を頭の中で反芻していた。
冷蔵庫から現れた、異世界人レイネ。
最初はただの奇天烈な事件だったはずが──いつの間にか、彼女との生活は、杏の日常を静かに、でも確実に変えていた。
箱根旅行では、温泉やロープウェイ、大涌谷の景色に、レイネは目をきらきらと輝かせてはしゃいでいた。
その無邪気な笑顔を見ているだけで、杏の胸にも、久しく感じていなかった『楽しい』という感情が、ぽつぽつと芽吹いていくのを感じた。
レイネの行動ははしゃいでいるようにも見えながら、言葉ひとつ、行動ひとつに、どこか深い考えや優しさがにじんでいて──
『違う思いを抱いたり──そういう余裕が、いいんじゃないのかな』
杏は彼女の「ものの見方」に、知らず知らず、影響を受けていた。
知識の吸収力もすごかった。
難解な哲学書を読破して、社会制度や法律、技術についてもあっという間に理解してしまう。
かと思えば、旅館の押入れを探索し、引き出し一つ一つを開けては『本が入ってた』と報告してくるし、コンビニスイーツに「これは味覚革命……?」と感動したり。
そのギャップがたまらなく愛おしくて──レイネは、杏の生活の中で、いつの間にかかけがえのない存在になっていた。
そして、何よりも──あの優しさ。
あの日、例の炎上プロジェクトがついに崩壊し、杏が燃え尽きて帰ってきた夜。
その瞬間、限界だった何かがぷつんと切れて、杏は床に崩れ落ち、泣きじゃくった。
泣いて、泣いて、子供みたいに、泣いた。
そんな杏を、レイネは責めもせず、何も言わず、ただ黙って抱きしめてくれた。
ゆっくり、優しく、頭を撫でながら──。
どんなときも冷静で、穏やかで──自由で。
杏は、マンションの玄関にたどり着き、鍵を開ける。
いつもの穏やかな「おかえりなさい」が、きっと今日も聞こえるだろう。
「ただいま」
きっと、レイネは私のように人前で泣いたり、取り乱したりしないんだろうな……。
「お”か”え”り”な”ざ”い”ーぃ!!」
って、なに?ひどいダミ声──!?
レイネ、号泣してるーー!?
なにごとーー!?




