女神は無慈悲に黒歴史を掘り起こす
金曜日の午後。
小鳥遊杏は、職場での仕事を終え、自宅への道を急いでいた。
「ふー…週末って、なんでこう疲れるんだろ」
エレベーターの中で小さくため息をつく。
脳裏には、例の金の延べ棒のことが浮かんでいた。
あれさえ売れれば、生活に余裕ができるはず。
だが、その方法が思いつかない。
「ああ、このままではボーナスが生活費に消える……」
やっぱりタケシと別れた時に、引っ越せばよかったかなぁ、と思いながらも、あの時はそんなこと考える余裕もなかった。
とはいえ、ナンバーズが当たった勢いで旅行に行ったことは後悔はしていない。
あれはあれで、充実した時間だった。
──どうにか、お金を工面しないと…...副業?
私に、副業ってなにができるかな?
そんなことを考えているうちに自宅につく。
「ただいまー」
マンションの玄関を開けると、部屋の中からレイネの声が聞こえてきた。
「おかえりなさーい!」
しかし、姿が見えない。
リビングを覗き込んでも、ソファにもテーブルにもレイネの姿はない。
声が聞こえるのは、どうやらレイネの部屋(もとタケシの部屋)らしい。
(珍しいな。いつもはリビングにいるのに)
杏は少しばかり訝しみながら、扉に近づいた。
扉は少し開いており、中から何やらコトコトと、細かい作業をしているような音が聞こえてくる。
「レイネ?何してるの?」
杏が声をかけると、中の作業がピタリと止まった。
「あ、ごめん。ご飯作ってなかった」
レイネは、申し訳なさそうに言った。
部屋にこもっていたのは、夕食の支度を忘れるほど夢中になる何かをしていたのだろう。
「いや、いいんだけど」と杏は言い、レイネの作業を見る。
机の上には、見慣れない道具と、小瓶やキラキラ光るパーツが散らばっている。
レイネの手には、透明なパーツと金具のようなもの。
「お守り作ってた」
そう言って、くるりとこちらを振り向く。
手元には、レジンで作られたピアスのような小物があった。
「すごい、めっちゃ可愛い!」
透明な樹脂の中に、小さな石やパーツが封じ込められ、角度によって光が反射して煌めいている。
手作りとは思えない仕上がりだ。
「レイネ、ほんと何でもできるんだね!」
「時間は余っているからね」
レイネはあっさりと答えた。
「故郷で小物づくりは、暇つぶしでよくやってたし」
そう言って、レイネはいくつかのピアスを見せてくる。
「あーちゃんにも一個あげる……て、あーちゃんピアスしてないか。今度違うの作るね」
「あ、ありがとう──それ作ってどうするの?」
杏は素朴な疑問をそのまま口にした。
「これをね、メル〇リで売ろうかと思って」
「メルカ〇? 売れるといいけどね」
応援はしたいけど、世の中簡単にはいかないよと杏は思う。
「売れたらいいね」
レイネは笑顔で応える。
* * *
レイネがアクセサリーを作り始めて数日後。
「あーちゃん!見て見て!」
レイネが、興奮した様子で杏にスマートフォンを差し出してきた。
画面には、〇ルカリの出品画面が表示されている。
「出品してみた!」
「おおー!」
杏は画面を覗き込む。
まさにあの手作りのピアスが美しい写真付きで表示されていた。
「へぇ、ちゃんと売り物っぽく見えるじゃん……ん?」
杏の眉がぴくりと動いた。
「なにこのショップ名──『ミザリィ』? 随分と外側を攻めてきたね…」
「カッコいいでしょ?ちょっと神秘っぽくて、ジャンプしたくなるでしょ!」
レイネは得意げに言った。
なぜか、その長い髪が片目を隠すように垂れている。
「──へぇー、どれどれ…」
果たして、90年代ジャンプ漫画のパロディが伝わるのかと思いながら、ショップ紹介欄を杏は見る。
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ショップ《ミザリィ》の説明
✨不思議なパワーが込められたアクセサリーで、あなたの運命が変わる!
✨効果は約3か月間。使用者によって持続は異なります。
商品①:新月の加護で願望成就
商品②:ピンクローズの力で恋愛運アップ
商品③:大地の力で仕事運ブースト(待受壁紙)
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「ス、スピリチュアル……?」
杏は思わずつぶやいた。
さきとは違う意味でのぎりぎりを攻めている。
「うん。普通に売るよりキャッチーかな、と思って」
相変わらず天然炸裂してるなと杏は思う。
「ちょっと、スピリチュアルとか売って大丈夫なの?」
「え?だって、それっぽいの、あーちゃんの本棚に有ったよ」
えぐるな、頼む。
その天然で、これ以上えぐらないでくれ──杏は顔を伏せた。
杏は、あまりにもダメンズほいほい過ぎて、一時期スピリチュアルにハマっていたことを思い出さざるを得なかった。
「そ、そういうことじゃなくて」
「なに?」
「不思議な効果がありますって言って、売っていいの?」
「ああ、それね。大丈夫、『景品表示法』とかいうやつも確認済み。あくまで『個人の感想』としてお届けしてますってスタンスでいけば大丈夫らしいよん」
景品表示法?
いつの間にそんなことまで調べたのよ…
「そ、そうなんだ」
杏は、レイネの吸収力とその知識の偏りに思考停止寸前だった。
なんとか「売れるといいね」と言う。
「ね。売れるといいね……」
と、その時だった。
──ピコンッ!
レイネのスマートフォンから、軽快な通知音が鳴り響いた。
画面を見ると、出品していたピアスの一つに、「落札されました」の文字が表示されている。
しかも、その金額を見て、杏は目を大きく見開いた。
「……いち、いちまんえん!? うそ!? しかも投稿してから10分も経ってないよね!?」
幸先良いね、とレイネは静かに微笑んだ。
アウターゾーン
だいぶ古いですが、ご存知の方いらっしゃいますかね?




