【絶許】異世界の女神さま、黄金の文鎮を持て余しタイトル改変の危機!!
箱根旅行明けの月曜日。
月曜日というのだけでも憂鬱なのに。
──はぁ……どうしようかなぁ。
日曜日との落差が激しい。
職場のデスクでお弁当のふたを開けながら、小鳥遊杏はため息をついた。
目の前には、栄養バランスばっちりな炒め物や煮物がずらり。
ちゃんとした手作り弁当だ。
(とりあえず、今月はナンバーズ当たって助かったけど……あれ、一回こっきりだもんなぁ)
家計簿の数字を思い出すだけで、胃が痛くなる。
2LDKの家賃の折半?
それ、もうない。
食費?
二人分になった。
収入?
増えない。
──完全に赤字ルートまっしぐらである。
(あの金の延べ棒……どうすんのよ、ほんと)
杏の脳裏に、リビングの片隅で無言の存在感を放つ『純金の文鎮』がよぎる。
触れると冷たくて、ずっしり重たい、純金の延べ棒。換金すれば一発逆転のはずが。
現実は非情だった。
あんなもの、素性を証明できなければ売れるはずもなく。
ましてや「異世界から来た魔法少女が持ち込んだアイテムです」なんて言った日には、警察より病院に通報されそうだ。
──ああもう、金はあるのに、金がないってどういうことよ!
そのとき。
「杏さんって、お弁当持ってくることありましたっけ? 忙しい月曜に自炊とか、マジ尊敬します!」
隣の席から、いつものおしゃべり好き──中野嶋 美緒が声をかけてきた。
「いや、これ、私が作ったんじゃないの。同居人が作ってくれたの」
「えっ! 同居人!? もしかして男!? 彼氏!?」
まるで恋バナレーダーが発動したかのように、急接近してくる中野嶋。
「違う違う。女性。最近一緒に住むことになったのよ」
「ええ〜!? 嘘でしょ!? 写真見せてくださいよ〜。でないと信じませ〜ん!」
食いつきがすごい。
このままだと話が広がりすぎて危険だ──そう判断した杏は、しぶしぶスマホを取り出す。
写真フォルダを開くが、ため息が出そうになる。
──変顔だらけじゃん…
さまざまな顔ハメパネルで変顔を決めるレイネの写真一覧をみて、杏はスマホをそっと伏せた。
(ダメだこれ見せたらさらに変な誤解生む)
必死に探して、やっと見つけたのは後ろ姿の写真。
遠くから撮ったもので顔は見えないが、細身のシルエットや髪型から女性らしさは伝わる。
「……あれ? この人、外国の方?」
異性ではないとわかった瞬間、中野嶋は明らかに興味を失っている。
ちょうど、他の同僚が彼女を呼び、会話はそこで終了した。
杏は、心の中でガッツポーズを決める。
(ふぅ……めんどくさい展開にならなくて助かった)
彼女はそっと、スマホの画面をスリープに戻した。
* * *
その頃、杏の自宅──。
「へー、八尺様ってのがいるのね」
レイネはテレビのオカルト特集をぼんやり眺めながら、納豆をぐるぐるとかき混ぜていた。
”八尺様──約2.4mの女性型妖怪。若い男を魅了し、やがて喰らうという”
そんなナレーションを聞きながら、どうしたものかと思案にふける。
……ただの無用の長物だなぁ。
触れば冷たく、持てばやたら重い。
そして、何より──役に立たない。純金30kg。
本来ならば、この金塊は旅の資金として、ささっと売却して、心強い味方になるはずだった。
だがこの世界は違った。
文明社会・日本において、突然現れた謎の金塊を売るのは、ほぼ無理ゲー。
鑑定、証明書、税務署、場合によっては警察へGO!
『事前にもっと調べてから来ればよかった』
ちょっとした後悔が、レイネの胸をチクチク刺す。
彼女のいた世界では、貴金属や宝石は通貨とほぼ同義。
だがここは、超文明・紙と電子の国、日本。
法と制度と厳しいチェック体制が整った資本主義社会だった。
資金は出すといったものの、黄金の文鎮ではどうにもならない。
それどころか、自分が文鎮以上の『生活の重し』になってしまう。
まさに極つぶし。
排泄物製造機ではないか。
このままでは、
『同居人は異世界の女神さま!?』
じゃなくて──
『同居人は異世界のニートじゃん↓↓』
になってしまう。
副題すら変わる……
『男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について』
からの
『女神にたかられた件について』
だな。
笑えない。
これでは、時空の女神ではない。
貧乏神ではないか……。
そんなことをレイネは思いながら、メタ認知から元に戻る。
ナンバーズを一回当てたのは確かに手っ取り早かった。
でも、『未来予知』で毎回当てるのも明らかにおかしい。
競馬や競艇で荒稼ぎする方法もあるにはあるが……。
──それをやった未来が、暗い。
見えたのは、大金を得た直後から周囲に群がる怪しい人々。
元カレ軍団
ニューダメンズ軍団
親せきの増殖
借金の相談
投資話
謎の宗教
よくわからない勧誘。
どんどん巻き込まれて、杏の生活がめちゃくちゃになっていく未来図が、はっきりと浮かぶ。
──杏は、そんな未来を望んでいない。
だからこそ、これ以上安易な金儲けは避けるべきだった。
彼女の人生に、余計な影響を与えるべきではないと思うのと同時にレイネは思う。
──なぜ望まないほうの選択を杏はするのか……
レイネには理解しがたかった。
「元の世界に帰るのもなぁ……」
ふと、そんな逃げ道が頭に浮かぶ。
が、それも現実的ではなかった。
魔力を行使するのは本人の才覚もあるが、そもそも『マナ』というエネルギーが必要である。
マナはそこら中に存在するもののはずだが、この世界では、そのマナがほとんど存在しない。
つまり、帰還には膨大な魔力と体力を消費する。
もし帰った瞬間に敵対勢力に襲われでもしたら、即アウトである。
(帰るにしても、準備がいる。エネルギーの蓄積と安全確認、それが最優先)
限られた手札の中で、未来予知も防御魔法も、緊急用に温存せざるを得ない。
──カードゲームで言えば、ジョーカーを引いた状態で残り手札は1枚。
タイミングを誤れば、即ゲームオーバー。
死と隣り合わせの灰と青春だ。
「さて、どうしたものか……。やっぱり、からし? オリジナル出汁醤油?」
うふふ、納豆ちゃーん。と思いながらレイネは青のりをかけ、脳裏では杏に影響を与えず、自分の存在がプラスになるような方法を考えていた。
「正解は、普通のお醬油でしたー」
片付け中のブラウニーが、チラとレイネを見る。
ひとりでも楽しそうなレイネであった。
テレビは変わらず、オカルト番組がついており、八尺様がポポポポポとしゃべっている。




