もやし何袋だよ!!
もやしをあきらめ、ナンバーズ4を購入した日の翌朝。
トーストを頬張りながら、杏はなんとなくスマホを手に取った。
「ナンバーズ、当たった?」
レイネは隣で、ジャムを塗ったパンにかぶりつきながら無邪気に聞いてくる。
「当たるわけないでしょ。まだ見てないけど」
「みてみようよ。どきどき!」
──いや、こっちはドキドキなんてしない。
そもそも当たると思っていない。
当たるわけがない。
レイネが選んだ『1・1・4・5』は、ただの直感か悪ふざけだ。
杏は、宝くじ公式サイトにアクセスして「ナンバーズ4」の当選番号ページを開いた。
【本日の当選番号:1・1・4・5】
「……えっ?」
杏の指が止まった。
目が一瞬、情報を受け入れるのを拒否した。
何度見ても、画面に表示された数字は──
「1、1、4、5……!? 当たってるっっ!!??」
椅子からずり落ちそうになりながら、杏は叫んだ。
「え!?ちょっ……ちょちょちょちょ……ナンバーズ4の、ストレートってやつだよね!?え?え?これマジ!?」
「うん、マジだよ」
いつのまにか横から覗き込んでいたレイネが、にこにこしながら答えた。
「やったね、あーちゃん!」
「やったねって……え、ちょ、金額は!?」
杏は慌ててスクロールする。
【当選金額:約982,315円】
「きゅ、きゅうじゅうまんえん!?」
謎のSE「ファンファーレ(脳内)」が響いた。
カードの支払いも、家賃も、レイネとの生活費も……下手すればちょっと旅行だって行けてしまう額。
もやしなら、何袋だ?
ぱっと暗算できない。
夢じゃない。
これ、現実。
「え、私……本当に当たったの?いや、これって運? いや、ていうか、え、なに?」
大混乱のまま、杏はレイネの顔を見る。
当のレイネは、もう興味を失ったのか、パンに追いジャムをしている。
「あの……レイネって……もしかして、ほんとに『幸運の女神』とか……?」
「ふぇ? まさか」
レイネは首を傾げて笑った。
「すごい……私、ちょっと最近ツイてる気はしてたけど……これは、やばい!」
これはマジで、幸運体質になったのでは?
杏は度重なる奇跡に手が震えてきた。
──こうして、純金の文鎮はお蔵入り。
かわりに、たった200円の夢が、現実を支える柱になった。
なお、2026年2月現在、30Kgの純金の買取相場は末端価格でおよそ8.2億円也
もやし1袋29円(税込)として、約28,290,000袋分である。
※所得税、手数料は勘案していません。
* * *
週末の朝。
小鳥遊杏はちょっと浮かれていた。
服を選びながら、気持ちが自然と弾んでしまうのは──
『レイネとの初・外出』だからだ。
彼氏以外の誰かと出かけるなんて、いつぶりだろう。
『お前には飽きた』などと言い、別れ話をしておきながら、ひとりでの外出を許さなかったタケシ。
愛情だと思っていたあの頃の思いは心の枷だったのだろうか──ひどく重かった。
それに比べ、今は違う。
不思議と『女の子同士の気楽さ』みたいなものがあって、気を使わなくていい。
そして何より、財布に余裕がある。
──ナンバーズ当たったからね!レイネの直感、神レベル!!
これはもう、お出かけするしかないでしょ!
杏の心は晴れやかだった。
「あーちゃん、いつものスーツと違ってかわいい」
レイネがワンピース姿の杏を見て、にこやかに言った。
自分もAmazonで届いたばかりのワンピに、杏のボアコートを羽織って上機嫌だ。
「レイネも似合ってるよ。ちょっと大人っぽい感じ」
「ほんと? うれしい~!このコート、あったかいし!」
レイネはボアに頬ずりしながらいう
「これなら寒冷地戦でも、どんとこいだね」
──寒冷地? どこ行く気?駅前のイタリアンに行くんですけど!?
そんな彼女の様子を見て、杏は引きつった笑みがこぼれる。
「あのね、レイネ」
「なに?」
「外に出て、変な人がいても、蹴散らしちゃ、ダメよ」
「うん。大丈夫!わかった。安心して」と満面の笑み。
──いや、心配しかない
無事につくだろうか。
街中には家の中以上に、『異世界に無いもの』が溢れているはず。
何に興味を抱き、何をしでかすかわからない…。
そんな一抹の不安もあるけど、それ以上に──楽しみもあった。
ランチに行くお店のあのカルボナーラ。
あれを食べたら、レイネどんな顔するんだろう?
誰かと出かけるというのは、こういう気持ちだったなって思い出す。
レイネが来てから、世界にほんの少し彩りが戻ってきた気がする。
「さあ、行こうか。レッツ・外界デビュー!」
杏は深呼吸して玄関のドアを開けた。
「おーっ!」
レイネが元気よく拳を上げた。
こうして、異世界人とのおでかけが始まった──。
始まった──?
あ、いや……。
どなたかブクマとPt、ありがとうございます。
他の方も、ぜひ遠慮なくブクマしてくださいw
あ、あと。
いろいろなツッコみもお待ちしております。




