微塵にも希望は無いあの言葉
「……ああ、宝くじでも当たらないかな」
杏は天井を見上げたまま、ぼそりとつぶやいた。
世間話しより軽く、ため息と一緒に流れていくような空気のセリフ。
年末ジャンボのCMを見るたびに誰もが口にする「当たったらマンション買おうかな」的な、あのノリである。
希望を語るようで、微塵にも希望は無いあの言葉。
「宝くじってなに?」とレイネが言う。
「運試し。お金を払って数字の札を買って、当たればお金がもらえるってだけ」
「へぇー! すごいね」
「いやいや、簡単に当るもんじゃないから」
杏は苦笑する。
宝くじとは、確率と現実の挟み撃ちに遭う、夢と幻想のコンテンツである。
──夢を買うためのいくばかりかのお金で、もやし5袋が手に入る。
それが庶民のリアル。
しかし、レイネはタブレットを使い、宝くじを調べ始めている。
「ねえ、あーちゃん。買ってみよう? “ナンバーズ”ってやつが良さそう!」
「ナンバーズって……自分で数字選ぶやつ? それって、さらに当たらないやつじゃ──」
そんな夢より、『5袋のもやし』と杏は思った。
「えーお願い!ナンバーズ4買おうよぅ」
「もっと当たらないやつじゃん、ダメ」
いいかい、レイネ。
私たちは、食べていくのもやっとなんだよ、
もうここは現世。
世知辛い、罪深い世界なのだよ。
夢なんか見ちゃダメ、そんなことより『5袋のもやし』。
生きていくための、食べるための200円。
と杏は思った。
「レイネ、なんばーず、ほしい」
さっきまで豚(熊)のジャージを着ていた美女が力なく呟く。
その光景は『お姉ちゃん、アイス欲しい』と袖を引っ張る小さな頃の妹を思い出させる。
──ああ、もう。妹に借りるか。情けないお姉ちゃんでごめん。
泣きたい思いを跳ねのけ、杏は起き上がる。
「一回だけだからね!」
夜職に売り飛ばそうと、一瞬でも変な気を起こした杏は、せめてもの罪滅ぼしと思い、『5袋のもやし』を諦めた。
杏はスマホを取り出す。
宝くじ公式アプリにアクセス。
「ナンバーズ4」を開き、数字選択画面を表示した。
「で、どの数字にする?」
「えーとね……これ!『1・1・4・5』!」
レイネは即答した。
……なんでその番号? しかも即答。
もう少し悩むとかしなさいよ。
悩んだとて意味はないけど。
杏は腑に落ちなかったが、数字を入力し、購入ボタンをタップした。
『ご購入ありがとうございました』
というメッセージが画面に表示される。
いえ、どういたしまして。
さよなら、200円。さよなら、『5袋のもやし』。
これが『どぶに捨てる』でなければ何だというのか。
「はいはい、買ったよ。これで満足?」
もはや、投げやりだ。
スマホごと投げ飛ばしてやりたい。
「うんっ! あーちゃん、ありがとっ!」
レイネは、目を輝かせてお礼を言った。




