ぶしゅって!ぶしゅーーって!なんか出てきて──!
異世界人がウォシュレットを初体験。
異世界人にトイレの使い方を教える。
いったい、どんな世界線なんだと杏は思った。
「まず、ここのフタをあげます」
杏は便座の前で、まじめな顔でレクチャーを開始した。
「ふたをあげる」
レイネは繰り返し、杏の動作の真似をする。
「便座に座る」
「ベンザに座る?……座るって、どうやって?」
どうやって?
え?どうやって?
トイレの座り方に選択肢があるの?
杏はうろたえつつも「ええっと、こうね」座ってみせる。
異世界人から見下ろされる構図。
羞恥プレイか、何かのコントか……
「なるほど」
レイネはふむふむと頷き、杏の動きをじっくり観察。
「……で、これが、ウォシュレットね。前と後ろがあって」
と杏が言いかけると
「前と後ろ?」
レイネが止める。
「大きいか、小さい、とか…?」
言わせんな恥ずかしいと思いながら、直接的な表現を避ける。
「小さい…。──あ、あー。なるほど。やだ、あーちゃん恥ずかしい」
こっちもだ、と思いながら続けて説明する。
「で、ここの紙を使って拭いて、流すボタンは──ここ!」
「これは……紙?布ではないのですね?」
「そう。ふわふわの紙。トイレットペーパーね」
「なんと……この柔らかさ。食べれそうですね」
「食べないでね」
それ以外にも電気のつけ方、鍵のかけ方を教える。
レイネの真剣そのものの表情。
こんなにまじめに話を聞く人を見るのは、インターン生のOJT以来だなと思う。
「じゃあ、あとは実践あるのみ!」
「……はい。行ってきます!」
レイネは緊張した面持ちで、トイレの扉を閉めた。
* * *
キッチンに戻った杏は、ベーコンと卵をフライパンに並べ、朝兼昼ごはんの支度を始める。
──ジュウゥッという焼ける音。
ちょうどその時。
「きゃっ!」
トイレの中から、レイネの悲鳴が響いた。
「えっ!?だ、大丈夫!?」
駆け寄ろうとしたその瞬間──
ザーッっと水流音とともに、
「すごーーーい!!」
ものすごく嬉しそうなレイネの声が続いた。
「……どうやら、無事だったらしい」
ほっと胸を撫でおろす杏。
だが、しばらく待ってもレイネは出てこない。
「……まだやってるの?」
と思ったら、
ザーッ(2回目)
──水流音、再び。
「ちょっと待って!遊んでない!?それ!」
バンッと扉が開いたかと思えば、レイネが両手を広げて飛び出してきた。
「すごいよあーちゃん!!あれ、すごい!びっくりした!びっくりしたけどすごかった!」
「落ち着いて、落ち着いて!」
なにごとよ。
「座っても冷たくない!あったかい!神仕様!」
「冬は冷えるからね……」
冷たいのやだよね。
「あと、あのボタン押したら──ぶしゅって!ぶしゅーーって!なんか出てきて──!」
「うん、それウォシュレットっていう文明の力なんだけども」
「めっちゃ、清潔!」
「水、流すじゃないですかー」
もういいよ、と言いたくなるぐらい興奮しながらレイネは続ける。
「ばしゃーって、水が流れる。で、自動で水が滔々と貯まる。凄くないですか? 魔力の片鱗も感じないのに」
どうやってるんだろう?と言いながら、トイレに向き直るレイネ。
「もっかいやろー♪」
「ダメダメダメ、節水、節水!!」
レイネはもう、目がキラッキラ。
キラキラな目で、トイレを観察している。
異世界から来た緑眼・銀髪のとんでもない美女が、
モエ袖彼シャツを着ながら、
トイレの前で四つん這いになり、
陶器を大事そうに抱え、
TOTOの文字を凝視しているという光景が目の前に。
杏は、自分の人生に、一体何が起きているのだろうと改めて思う。
そんな主人公をさておき、
「この技術、あっちの世界に持ち帰りたい」とレイネは真剣な声音で呟やいた。




