秀麗騎士様を助けたい2
とりあえず、私たちは人目を避けるようにしながら急いで子爵邸に戻ってきた。そのまま、ジェフリーを私の部屋に連れ込む。ジェフリーは主の私室に入ることに躊躇っていたようだけど、そんな場合じゃないでしょう、と諭してそのままソファに腰かけさせた。
ジェフリーは変わらず胸元を隠して俯いているけれども、その手にはほとんど力が入っていないようで、ジェフリーが隠したいであろうものはばっちりと見えてしまっている。
私はジェフリーの向かいに座って、首を傾げる。
「……その、大丈夫? ジェフリー……」
私を狙っていたであろう刺客は、私の前に立ち塞がるジェフリーが邪魔だとしてジェフリーを切りつけるが、ジェフリーに怪我を負わせられずそのまま去って行ってしまったみたいだ。そのジェフリーが切りつけられた場所というのが、胸元なんだけど……。
「……すみません、まだ少し……、気が動転しているみたい、で……。俺は、主であるお嬢様に卑しい隠しごとをしていたというのに……。その説明もまともにできないで……」
私は大丈夫。大丈夫だから、さあ、早くその秘密と私への気持ちを暴露してしまいなさい……! 楽になれるわよ!
「ゆっくりで大丈夫だから、話したいことがあるならいつでもいいから私に話して……?」
本心と真逆の言葉が口から出て来るけど、まあ心優しいヒロインを目指すならそんな二枚舌を使うことくらい難なくこなしていかなければな!
「……いえ、これ以上お嬢様の優しさに甘えることはできません。話します、それがけじめだと思うから……」
ジェフリーがゆっくりと顔を上げる。その目は決意に満ち溢れていて、しかと私を見つめていた。
「もう察されていることかとは思いますが……」
ジェフリーが、切りつけられて露わになっていた胸元を掴んで引っ張る。そこには、分厚い胸筋――ではなく、真っ白なさらしがあった。
「お嬢様、俺実は、女なんです……!」
な、なんだってー⁉ ……ってまあ、知ってましたけど。
「そう、だったのね……」
一応それっぽいリアクションをとりつつ、ジェフリーの顔色を窺う。ジェフリーは僅かに涙を滲ませつつも、話をやめる気はなさそうだった。
「俺がこんな格好や口調で男のフリをしている理由……。聡いお嬢様なら薄々察されているかもしれませんが、当代にて生まれた子どもはみな女でしたから、後継者がいないことを両親が危惧しまして……。次に生まれた子どもが男でも女でも後継者に相応しいように育てよう、となった結果生まれたのが俺だったのです」
相応しい、ということはつまり、女ならば男のように育てよう――という意味が含まれているんだろう。現代日本でそんなことを聞けば眉をしかめる人もちらほら存在するだろうが、『春の行く末』はそういう時代を舞台にしているのだ。
――というか、私がベル○ら好きだからこういう設定にされてるんだけどね!
涼ちゃんによると、ジェフリーの存在は私がベル○らはもちろんのことウ○ナやリボ○の騎士やホ○ト部や花ざか○の君たちへが好きだから誕生したらしい。
彼女らのどういう部分が好きなのか、なんてこと細かにインタビューされて、その結果お出しされたのがジェフリーだった。あんだけ色々聞かれたんだから『春の行く末』に出て来る誰かは男装の麗人なんだろうな~とは思ってたけど、ジェフリーが女の子だとはルートに入って発生したイベントを読むまでマジでわからなかった。
私が好きな男装の麗人の要素が全部盛り盛りで、マジ最高だよジェフリー&涼ちゃん! 金一封貢がせさせて~!
「男として育てられることになんら不満はなかったんですが、所詮秘密は秘密……。後ろ暗いことは本当のことで。俺を嘲笑うかのように、胸元に聖痕ができて」
ジェフリーがちらりとさらしの上のほうをちらりとめくって、聖痕の一部を見せてくれる。原作ではこのイベントのさらに後にあるシナリオで、性別記号がお洒落な感じで象られているマークをがっつり見せてくれた。
ジェフリーはそれまで淡々と真実を語っていたが、ふと思い詰めたような表情になって、俯いた先に影ができる。
「……その……、嫌、ですよね……。女に好かれるなんて……」
――キマシタワー。ってこれ本人が言うやつか?
でも、でもでもでもっ、これ絶対フラグ立ってますよね~!
「――そんなの、そんなの気にしないわよ……!」
切なげな態度を見せるジェフリーの両手をとって、私は勢いよく語りかける。
俯いていたジェフリーは顔を上げて、うるうるとした瞳で私を見つめてきた。
「本当、ですか……?」
「ええ、もちろん!」
ジェフリーが私の返事を聞いて、勢いよく立ち上がる。あまりの圧に思わず背中を反らした。
「本当に本当ですか⁉ オランジュは俺が女とわかっても変わらず接してくれると思いますか⁉」
……は? オランジュ? オランジュってあのオランジュ?
「は、へ、えへぇえ?」
驚きと困惑で、言葉にすらなっていない声が口を衝いて出た。