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前人未踏の同時攻略を目指す3

 友人は私の好みにある程度即して『春の行く末』を作り上げてくれたんだけど、私は友人には言っていない趣味(せいへき)がひとつだけあった。それはやはりというかなんというか、逆ハーを築く願望があるということで。


 乙女ゲームには逆ハーエンドがたまに用意されていたりするけど、『春の行く末』には私が攻略した限りそのようなエンドはなく。それに、逆ハーエンドって私的には腑に落ちないことが多くって。せっかくゲームの世界に入ったからには、ゲームではシステム上不可能であろうひとつのセーブデータ(一度の人生)でキャラ全員を攻略し、キャラ全員の真エンドを達成して、全員と恋人関係になってやるのだ……!


 ぐへへへと気持ち悪い笑顔を浮かべながら、るんるん気分で騎士団の訓練場に向かう。こういう嬉しいことがあるとき、私はあるひとの顔が見たくなる。


「……一同、やめ!」


 高く広い空に響く凛とした声がして、私は武器庫の影からちょろっと顔を出す。


「みんな、休憩に入ろうか。お疲れ様」


 甲冑のヘルメットを外して、汗を払うように頭を振る麗しきひと。細くて透明感のある乳白色の髪が舞う。飛び散る汗さえ美しくて、なんなのこのひと、本当に人間か……?


「……あれ、プリマ様? いらしてたんですね」


 甲冑を慣れたように脱ぎつつ、麗しきひとが私に声をかけてくる。やべっ、バレた。私は開き直ったように笑みを浮かべて前へ出る。


「あ、お、お疲れ様、ジェフリー」


 かの者はジェフリー・ブライトマン。私の専属騎士だ。言わずもがな『春の行く末』の攻略対象のひとり。

 ブライトマン家は代々メイヤー子爵家の持つ騎士団の団長を務めており、ジェフリーもまた騎士団長になることが約束されている。ジェフリーには五人の個性的な姉がおり、その姉妹と関わることも多いジェフリーのルートは、ジェフリーの紳士的な人柄を差し置いてコメディタッチで描かれることも多かった。 とはいえ、強気な姉妹に押されてたじたじになってるジェフリーがかわいいんだけどね……!


 ジェフリーとプリマは付き合いも長いだろうし、私の人柄も鑑みてくれているのか、ジェフリーは主従関係であることを感じさせないくらい、私に気安く接してくれている。だから私と会話しつつ後片づけなんかをすることも特段珍しいことではなかった。


「お嬢様は、どうしてこちらに?」

「ああ、えっと……。嬉しいことがあったから、ジェフリーに言いたくて」


 他の攻略対象とデートの約束をしたことを攻略対象に言うのもどうかと思うけど、あえて嫉妬させるのも醍醐味だよね~! と思って嬉々として口を開く。


「おや、そうなんですか? オランジュからお嬢様が落ち込んでいるという話を聞いたんですが、嬉しいことがあったのならよかった」

「あ……、も、もう知られていたの? 話が伝わるのが早いわね……」

「ええ。それに、お嬢様……。目許が赤くなっています」


 ジェフリーが少しだけ身を屈ませる。麗しすぎる顔面が間近に迫って、口から心臓が飛び出そうになった。


「俺だったらそんな顔、させないのにな……」


 ほああああ! CGゲット……! 美しすぎるって……! 頼むからここで暗転してくれるなよ、絶対キモい顔してるから、私……!

 それに、この繊細で優美そうな見た目して一人称が俺なのが、本当にさいっこうで……! 友よ、私のツボを知り尽くしすぎて怖いよ……!


 私が歩んでいる人生は、原作沿いのストーリーとそうじゃないものが半々といったところだ。ゲームはいわば主人公が歩んでいる人生のハイライトみたいな部分が描かれているだけなので、その間を補完するような箇所も当然存在している。その日常パートを歩むのが大変面倒くさいんだけど、こういう感じで積極的にキャラと関わっていればゲームで見られなかったようなキャラとの会話も可能ってわけ……!


 ……でも、そういえばジェフリールートではまさかのオランジュが恋敵だったんだよな……。ふと我に返ってしまって口角がだだ下がる。オランジュがライバルなことが嫌なわけではないんだけど、こうしてオランジュと実際に会話していたと聞かされるとなんだか微妙な気分だ。嫉妬させるつもりだったのに私がこんな気分にさせられるなんて、恐るべしジェフリー・ブライトマン……。


 ところで、『春の行く末』は友人とその友人である絵が描ける人がふたりで制作したものなので、声まではついておらず。こうしてゲームの世界に入るまで彼らの声を聞いたことがなかったんだけど、どれも解釈一致ボイスすぎて耳が幸せ~! 高音質ヘッドホンで聞きたい! え、直接聞いたほうがいいって? それだとちょっと距離が遠いでしょうが!


「ちょうどいま休憩に入ったところなので、そうだな……。あそこの木陰にあるベンチでお話しましょうか」


 ジェフリーが自然な流れで私の腰に腕を回す。リアル王子、ロイヤルナイトの称号が相応しすぎるな、さすがに。


 ――攻略対象全員を手玉にとって逆ハーを築くと言っても、実は私は数多い攻略対象からすでにフラれたり、嫌われたりしてきている。好意でやったことが原作では功を奏していたから、同じことを再現しているのになぜか嫌われ。バッドエンドやノーマルエンドをすでに迎えており、エンドを迎えていない攻略キャラは残すところあと三人となってしまっていた。つまりは、逆ハーレムの構成員は、最大三人であるということ――


 ええい、三人でも逆ハーは逆ハーだい! 『春の行く末』は本当に攻略キャラが多いから、その全員を構成員にしたかったけど、できなかったことは仕方がない! ハーレムがないよりはあったほうが断然ハピネス!


 何度も選択肢をミスって色んな乙女ゲーで攻略対象に殺されたりしてきたのに比べたら全然このゲームは平和だし、バッドエンドを迎えるたびに色んな方法を試してやり直しを繰り返してきたこの胆力があれば、私はこの逆境を乗り越えられる……!


 私の逆ハーレム構築奮闘記は、まだ始まったばかり――!

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