新人社員
ある女性はスマホを手に持っていた。
「通知が来たわ。」
携帯を確認する。
「面接結果みたいね。」
恐る恐る確認する。
「合格…やったー!」
飛び上がっているのはクロエ・デンゼル、31歳だ。彼女はイギリス国籍で、一人でロンドンに暮らしている。
「明日、ニューヨーク行きの飛行機に乗らないと。」
彼女は荷造りをして、次の人ロンドンを去った。
「今日から入社するソフィア・アップルヤードよ。宜しく。」
ソフィアは情報部の社員として入社することになった。
「あんた元々探偵やってたわけ?」
「そうよ。10年はやってたわ。」
「情報部はあんたみたいな人材を欲しいと思ってたのよ。」
「あーもう!今日も激務過ぎる。」
「マリ、ちょっとは仕事慣れてきたようね。」
かつてケイジが運営してたゲームに参加していた雪田マリも情報部に入って一年が経った。
「マリ、ベーグルとコーヒー持って来たわ。」
「サンキュー!」
あんなに悪どかった彼女も今や情報部の難しい仕事をこなしている。
「ソフィア、私達情報部はここの社員の情報を管理してるの。人事も一緒に行ってるのよ。」
この会社には人事部と言うのはなく、情報部が管理している。
「それとこの会社でゲームを運営するのにプレイヤー達の情報を予め私達が調査するの。まさに探偵みたいにね。もちろん我が社の最先端のソフトなども使って体重や身長、身体能力なども分析するのよ。このソフト使いこなせるようになるのには結構な時間がかかるわ。」
「あのソフト、私は1年でやっと使いこなせるようになったよ。」
雪田マリは他の社員よりソフトを使いこなせるまで時間がかかった。
「あとゲームはこんな感じに行われるのよ。過去のデータだけど。」
「これは!やめて!」
かつての雪田マリが映っていた。
「言い忘れたけど、マリはかつてのプレイヤーよ。情報部の仕事はハードだから、ケイジらしい罰の与え方ね。」
「まずはソフトについて教えるわ。」
「サミュエル!データは勝手に持ち出さないで。」
「悪いな!ジェイの為に特別に公開したんだよ。」
情報部にも新しい風が吹く。
「結局、あの人を情報部の社員にしたんだな。」
ジェイは言った。
「こんな人材を入れない方がもったいないことだ。」
ケイジは答える。
「ケイジここにいたのね。ゲーム推進部だけの入社パーティーを行うのよ。」
裏NPO法人社会的ダスト更生プロジェクトのゲーム推進部だけは他のアメリカの企業や会社の他の部署と違い、10期生の時から大きな入社パーティーが行われる。
「食べ物を並べてくれる?私の手作りよ。」
「悪くないな。」
ベンがつまみ食いをした。
「あまり食べ過ぎ無いで。」
料理はクリスティーナとジェイ、9期生と11期生が作ったものだった。
「飲み物買ってきたからな。」
ケイジは急いで買い出しに行った。
「これくらいあれば十分だろ。」
「領収書を経理部に渡して。」
「税金払ってない会社なのに領収書なんているのか?」
「経理部はお金に関してすごいシビアなのよ。」
「ジェイ、飾りつけを頼む。」
フエンがジェイを呼んだ。
「こんな感じか?」
「あんた意外とセンスあるわね。」
「パーティーはガキの頃よくやってたもんだからな。」
「カミーユ、唐辛子をこっちに撒いて。」
「分かったよ。」
準備は9期生、10期生、11期生が中心だった。
「この装置はすぐに隠して!新入社員のサプライズよ。」
私は会場の様子を確認した。
「料理はちゃんと蓋をして。冷めて不味くなるわ。あとは特に言う事は無いわ。よくやったわ。」
彼らは優秀に成長した。
「やべー、入社パーティーはじまるのに渋滞だ。」
ヘンリーは一度車を出た。
「動く気配なしだな。」
彼は車を放置して走った。
「何とか間に合った!」
不思議な入口に入って彼は消えた。
「ゲーム推進部、新入社員の皆さんはこっちに待機してください。」
7人の新入社員は待機した。
「いよいよ入社パーティーだな。俺、ヘンリー・フォスターだ。宜しく。」
「入江太一だ。太一って呼んでくれ。」
「よろしく。」
ヘンリーと太一はすぐに打ち解けた。
「今頃大騒ぎになってるだろうな。」
ケイジはかすかに笑った。
「何でよ。」
「入江のことだよ。」
「かつてのプレイヤーの入江美奈子の息子ね。それがどうしたって言いたいわけ?」
「あいつはどんなに能力があろうと無かろうが、入江カンパニー社長の息子である事実は消えない。つまり世間はもう入江太一がいなくなって騒ぎ出してるわけだ。」
ケイジの予想通り、入江太一が疾走したと言う情報はテレビや新聞だけではなく、動画サイトやソーシャルメディアなど様々な媒体で拡散した。
「太一お坊ちゃま、どこにいるの?」
「太一さん、出て来てください。」
屋敷中騒ぎになった。
「クソ、後継ぎがいなくなるなんてどう言うこと何だよ!」
社長であり、太一の父、入江宗一郎は机を強く叩いた。
「見つけた者には懸賞金を出してやる。」
アメリカにいることは父親は全く知らない。
「何話してるの?」
「入江カンパニーの息子が疾走だって。」
「大企業の息子が消えるなんて騒ぎだよな。」
「入江太一って誰?」
「話聞いてないのか?入江カンパニー社長の長男。将来時期跡取りの候補だって噂なんだぞ。」
「ちょっとはニュースくらいチェックしろよ。」
「ねえこの人かっこ良くない?」
「これって入江太一じゃん。」
「将来こんな金持ちの旦那捕まえたいわ。」
「それはあんたじゃ無理でしょ。」
「入江太一が行方不明なの知らないの?」
「見つけたら懸賞金が300万よ。」
いたるところで太一のことが騒ぎになっていた。
「入江太一はフランスにいるらしいよ。」
「え?それ本当?俺はオーストラリアで休暇を過ごしてる話を聞いたけど。」
「どれもデマでしょ。」
正しくない情報も日本中で出回った。
「たった数日消えただけでこんな大騒ぎするなんて、有名人を入社させたものね。」
クリスティーナは言った。
「広報部が入江を広告塔にするような真似をしないように釘をささないとな。入江がここにいるって知られたら会社の存続も危うくなる。」
ケイジの言う通りだ。大企業のお坊ちゃまをこんな裏社会で働かせてるのが分かったら世間と我々の会社が戦争することになる。
「親の七光りかどうか確かめて見ようじゃないの。」
「お前らも入江太一の話か。大企業の坊っちゃんがこんなゲーム会社に入ったくらいで驚くことじゃ無いだろ。」
ジェイは言った。
「クリスティーナが言うみたいに親の七光り野郎じゃないと良いけどな。」
「そう言うジェイは、大企業の息子というラベルで物を見てるじゃん。七光りと言う言葉が出る時点で。」
「入江の話はここまでだ。会場に向かうぞ。」
ケイジ達はパーティー会場に向かった。
日本ではある人物が入江太一のことを考えていた。
「太一、入社おめでとう。」
遠くから太一に連絡したのは母親の美奈子だ。
「母さん、俺のことは絶対に父さんに離さないでくれ。父さんは何としても俺に後継ぎをさせたがる。」
「お母さんは太一のプレイヤーにならないように気をつけないと。」
美奈子は過酷なゲームから性格が丸くなった。
「そんなのもあったね。まさか母さんがケイジ・パーカーのゲームに参加させられたなんて言われるまで知らなかったよ。」
「あのゲームマスターには懲り懲りね。あんなことさせて笑うなんてサイコパスね。だけどあんな手荒な真似をしてまで私を変えたのよ。そこは感謝してるわ。ケイジ・パーカーにあったら私がお礼したの言っておいて。」
「分かったよ。」
「あんたもあんなサイコパスの道に行くのね。私はあなたの生き方に干渉なんてしないわ。」
「俺は権力が蔓延る世界を少しでも変えたいんだ。あと俺のやり方でプレイヤー達を更生させるつもりだよ。」
「太一、仕事頑張ってね。」
二人の通話は終わった。前より二人は強い絆で結ばれた。
新入社員は控室にいた。
「そろそろ入社パーティーがはじまるから案内する。」
第5期生のアミール・アッバースが案内する。彼はアラブ首長国連邦国籍の41歳男性だ。
「俺は5期生のアミール・アッバース。成績は5期生でトップだ。」
「ケイジ・パーカーと戦ったらどっちが強いんすか?」
ヘンリーが聞く。
「あいつとは戦う理由なんて無いが、あいつとは互角に戦える。会場についたぞ。合図とともに扉を開けるぞ。」
会場にはゲーム推進部の社員が待ち構えていた。
「皆さん、新入社員が入場する。暖かく歓迎するんだぞ。」
3期生、ゲーム推進部長、エンゾ・ベルモンドは言った。
「行くぞ。」
アミールは扉を開けた。同時に新入社員7人が入場した。
「これが12期生だ。」
「今年の人選はケイジとベンがやったのよ。」
12期生は席に座った。
「うわ、ココアの粉がついた。」
ヘンリーと数名の社員は服にココアの粉がついて払おうとした。太一などは席を確認して危険を回避した。
「なあ、これって歓迎してるのか?」
「俺に聞くな。こればかりはマジで分からない。」
「最悪だよ。」
ヘンリーはココアまみれだ。ケイジや他の社員たちも、彼らの様子を凝視した。
「こんな所で落ち込んでもパーティーが台無しだろ。パーティー楽しもうぜ。」
ヘンリーは他の同期を楽しませようとした。そしてケイジのところに行く。
「ケイジ・パーカー。そこにいたんですね。ずっと会いたかったんですよ。試験の時まともに話せなかったから。俺は新しく入社した12期生のヘンリー・クリストファーです。宜しくお願いします。」
ケイジは振り向く。
「俺に何のようだ?」
彼は言った。
「お話ししたいんですよ。俺ケイジさんみたいになりたくて。」
「俺のコピーでいたいのか?それは気持ち悪いな。」
「ケイジさんって、意外と辛辣なんすね。」
「今頃気がついたか?」
「パーティーだから楽しみましょうよ。」
「仲良しこよしか。お前がどうしようが勝手だが時にはこの仕事は個人戦になって来る。今に分かるだろう。」
ケイジはそう言って、その場を離れた。
「あんた達、パーティーだから乾杯するわよ。」
「乾杯。」
ワイングラスを持って乾杯した。
「このワイン美味しいな。シャンパン飲まないのか?」
「これは飲まないほうが良い。」
太一はヘンリーに言った。
「俺が代わりに飲んでやるよ。」
ヘンリーは赤ワインを口に入れた。
「うわ、何だこれ、辛すぎる。」
赤ワインにはジョロキアと言う唐辛子が入っていた。
「水よ。おかしいわ。そんなもの誰も入れてないのに。」
イザベラはニヤつきながらヘンリーに水を渡した。
「ゴホッ、何よこれ。洗剤の味がする。」
クロエはシャンパンを吐き出した。
「このパーティー何かおかしい。」
太一は言った。
「どうやら気がついた奴もいるようだな。」
ケイジはクリスティーナに小声で言った。
「ここからが本番よ。」
「うわー、いった…」
クロエはバナナの皮で転んだ。
「臭すぎ。」
臭い靴下が天井から降ってきた。
「今日は色んなハプニングが起こるのね。」
さらにスーパーボールが新入社員達の方にたくさん飛んでくる。他の社員は全員黙って様子を見て笑った。
「太一、危ない!」
ヘンリーは太一をスーパーボールから守った。
「大丈夫か?」
「平気だ。このパーティー何か変だぞ。」
「気にしすぎだって!」
ヘンリーはこの状況でも笑っていた。
「うわー。カラーボールあたったようだな。」
太一の服はカラーボールで汚れた。
「これって何かのドッキリなの?」
クロエがクリスティーナに聞く。
「ちょっとしたハプニングよ。」
クリスティーナはそう言って笑った。
「おい何するんだよ!」
「太一どこに行くわけ?」
太一はクロエとヘンリーの手を引っ張った。
「このパーティー、普通のパーティーじゃない出るぞ。」
「出るって、施錠されてるのよ。鍵はあるわけ。」
携帯のメモで鍵を持ってるとクロエとヘンリーに伝えた。
「何してるのかしら?パーティーはまだ終わってないのよ。」
イザベラ・キャンベラは言った。
「無視しろ。」
太一に言われる通り、二人は無視をした。
「出るぞ。」
鍵を開けて、3人は会場を出た。ドアが自動で施錠された。
「カードキーはどこだ?」
他の新入社員も異変に気がつき会場を出る準備をした。
「あんた鍵なんてどこで見つけたのよ。」
「これはカードーキーだけど。入った時に、天井にトラップがいくつか仕掛けられてからこのパーティーで何かはじまると思ったんだ。だからお酒を飲みながらアミールに接触してカードキーを盗んだんだ。新入社員だから、アミールはわざと盗まれたけどな。」
「最初から私達をはめるためにパーティーを開いたわけ?何のために?」
「それは後で分かるさ。」
ヘンリーは何のことか理解できて無かった。太一や一部の新入社員はこのパーティーの意図を瞬時に分析して、目的を見抜いた。
「お前らここにいたのか。」
新入社員全員が合流した。