会社
あなたはどんな仕事をしているか?人に雇われているか、自分の事業を持っているか、もしくは求職中だろうか?もし企業に属しているのであればどのような企業で務めているか?多くの企業が法人税などの税金を払ったり法律を守りながら会社を営業している。最近だと株式会社や有限会社、合同会社だけではなく、NPO法人などもどんどん設立されている。
「クリスティーナ、ベンに提出する報告書は出来上がったか?」
10期生で成績がかなり良いケイジはライバルのクリスティーナに言った。
「さっき提出した所よ。今度、ゲームの企画書をこれから作成する予定よ。」
「企画書を出さなくても、俺のゲームは11期生が行うゲームとして採用されたな。」
「あのゲームだけはあんたのこと評価してあげても良いわ。」
「お前は俺の上司じゃないだろ。ベンからの評価も良いし、お前は有能な社員だ。俺はそんなお前を目の前に手を抜いた馬鹿な真似なんてしない。」
「ケイジ、クリスティーナ、久々だな。」
「サミュエル。」
サミュエルはケイジとクリスティーナと同じ10期生の社員だ。成績はかなり良く無かった。
「お前らの活躍はよく聞いてるよ。ゲーム推進部に残れるなんて凄いな。」
サミュエルは成績が良く無かった為、11期生が入ってくるタイミングで情報部に移動した。
「そうか。情報部の仕事はちゃんとしろよ。」
「言われなくても分かってる。」
「サミュエル、機密資料早速持ち込んでるな。」
「ヤバっ!」
サミュエルはすぐに機密資料をカバン隠す。
「ついいつもの癖が。」
彼は少し笑った。
「万が一機密資料を会社外に持ち込んだ場合、電気椅子の刑になるからな。」
「そうなの?」
ケイジに言われるとサミュエルは驚く。
「えっ?そうなの?知らなかった。」
「あんたがどんな性格なのかはどうでも良いけど、そんな事も知らないのね。」
クリスティーナは会社のことを把握していないサミュエルに呆れた。
「クリスティーナ、そんなため息つくくらいなら放っておけ。」
「サミュエルじゃん。」
彼の親友のジェイが彼らのもとに来た。彼も10期生でゲーム推進部に残っている。
「ジェイの登場だ!良いか。今度のゲームはジェイが一位を獲得するからな。」
「俺のセリフを奪うな。」
「そうはさせない。1位はこの俺の手にある。ジェイの企画力はまだまだ甘い。」
「一位は私よ。」
10期生は火花を散らした。
「あの3人の壁なんてどうやったら抜かせるのよ。」
同じ10期生のカミーユ・ベンシャトリはトップ3との距離感を感じた。日に日に遠い存在になって行く。
「上司が向上心無いって言うけど、十分向上心ある方よ!あの3人のレベルに達してないだけで。」
超えられない壁を彼女は感じる。
「私はそこまで向上心は無いわ。ここでやりたい事とこのポジションをずっとつければそれで十分なのよ。」
フエン・ミラーもケイジと同期だ。10期生のことは社長の私も一目置いている。
「あんたのここでやりたい事って何?」
「カミーユに話すほどのことじゃないわ。」
「隠さないで教えなさいよ。」
「ゲームで使う備品が足りないから届けに来たぞ。フエン、カミーユ。」
「ありがとう。トム。このトラップ、自動販売機ゲームに必要なのよ。」
「俺はティムだ。何回間違えるんだよ!」
「ごめんなさい、あなた高校の時のトムって言う友達と似てるもんだから。」
フエンは言った。
「それも何回も聞いたよ。フエンは相変わらずだな。」
ティム・ウィルソンは同じく10期生でゲーム推進部として会社に入社したが、サミュエル同様成績がそんなに良く無かった為、備品開発部に異動が決まった。もちろんこれは私がティムの適性を見て決めたことだ。
裏NPO法人社会的ダスト更生プロジェクトはこの光景を見ると、よくある会社に見える。社員はお金を稼いだり、キャリアを積むためにどんどん腕をあげる。普通の会社と変わらないように見えるかもしれない。しかし我々は法人登録もしていないし、法人税も払っていない闇組織だ。
「ケイジ、テロリストなんて更生の余地はあるわけ?今度私の担当になりそうなのよ。」
「お前の腕次第だな。クリスティーナ。俺も全てを更生させたわけじゃない。ただこの会社はどんなに人から恨まれるようなクズでも更生する可能性があるってことを証明する会社と言うことは忘れるなよ。」
「そうね。あんた、本当はプレイヤーを罵りつつも社会貢献することを考えているわけ。」
「社会貢献してるつもりはないがな。」
ここの会社はゲームを開催する会社だ。
「人間が存在する限りは私達の会社はずっと存在することになるわ。」
ゲームに参加させられたプレイヤー達は人を殺したり、精神的に他の人間を追い詰めるような人間達だ。我々はそういう人間に過酷すぎるゲームを体験させて更生させる取り組みをしている。
「あんたは世界平和を望んでる?」
「世界平和って?戦争が起きなくても、ゴミのような人間がいる限りは平和はどこにもない。世の中を平和には出来なくても、我々はゴミに残酷なゲームを体験させることは出来る。ゴミには徹底的に苦痛を味わって貰うしか道は無い。そう言う人間が歩むべき道だから。」
「あんたサイコパスね。でもゴミが社会に溢れてることもこの世界が平和にならないことも私も知ってるわ。おかげで私のやりたい事が出来るから。」
世の中、悪には正義が鉄槌を下す。
「お前は相変わらず、悪趣味だな。」
「ケイジ、あんただけには言われたくないわ。」
しかし私達は正義と言うわけでは無い。人権というものを考えれば、我々の過酷なゲームはプレイヤー達にとって悪そのものだ。我々の考えは悪人を制するには悪で悪人を更生するしか無い。
「ケイジこれから、どこに行くの?」
クリスティーナが聞いた。
「ベンと打ち合わせがあるんだ。」
「私を抜いて?分かった。二人はこそこそ付き合ってるわけね。」
「それは絶対ないから期待するな。」
「あんたならそう言うと思ったわ。それでどんな用事なのよ。」
「12期生の面接を計画する。」
「もうそんな時期ね。あんた採用担当にもなるなんて聞いていなかったわ。」
入社してからケイジが一番出世した。採用担当は今回からベンとケイジに変わった。引き継ぎなどをして、面接前に打ち合わせをする。
「ケイジ、今回の採用枠は7人だ。去年が6人。少し多い。それに対して応募者が50人もいる。」
「例年に比べて多いな。」
「気をつけることは応募者の個人情報を丁重に管理する事と不採用の場合は完全に消去する。」
「消去なんてして良いのか?情報部でずっと保管した方が良い。」
「どうしてなんだ?」
「ベン、上司なのに頭が回らないんだな。また女のことで頭いっぱいか?」
「俺はただの女たらしと勘違いされては困るな。お前の立派な上司だろ。」
「凄いと思うのは、身体能力の高さとマウンティングがプロレベルなことくらいですね。」
「褒めてるのか?話そらすな。つまり何を言いたいんだ?」
「不採用になった応募者が今後、ゲームのプレイヤーになる可能性だってある。その為に個人情報は厳重保管レベルの方が良い。」
「それもそうだな。よし、今年から個人情報の取り扱いを変える。」
ベンは方針を変えた。
「もう一つ、守ってもらうことは不採用になった応募者の対応だ。この会社に面接に来たということはある程度この会社のことは知られてしまう。だからこの会社で面接した記憶を消すことも絶対に忘れるな。」
「分かった。もし外部に我々の情報が漏れたら一大事だからな。」
「今年は凄い。書類選考70人中50人が合格してる。」
「あっ、この人見たことあるな。俺が面接前の待機室で一緒だった奴だ。」
ケイジは写真を指差す。
「この会社は何回も応募することが出来る。今年駄目だった応募者は来年もチャンスがある。」
「プレイヤーの扱いとは違う差だな。」
「恨みを買えば、我々の組織の存続に響くからな。」
ベンとケイジは応募者の書類を改めて確認した。
「この子セクシーだな。胸も大きいし、尻もボリュームあって良いな。ケイジは誰がタイプなんだ?」
ベンは言った。グラマラスな体型の女性だ。
「まさか自分好みの女を採用するわけじゃないよな?」
「安心しろよ。この俺でも流石にそんな事しないからな。」
「とてもそうするようには見えないけどな。今までの女性社員とのスキャンダルの数々を聞けばそう疑うのも無理ないけどな。」
「少しは上司を信頼しろよ」
「嫌ですね。」
「お前はモテてるんだから少しは遊んだほうが良いぞ。」
「女遊びは興味ない。」
「ゲイか?それなら良い友達いるぞ。俺の紹介にミスマッチは無いからな。」
「恋愛なんてくだらないし、したいとも思わないな。」
「そうやって強がるな。どっちが好きなのか知らないけど、もっと自分の気持ちに素直になれ。ケイジ。」
「あんたのように感情を優先して生きていない。」
ケイジは相変わらず冷たいが二人は仲が悪いわけではない。
「前科ある奴が4人も応募してるのかよ。よく書類通過したな。」
ベンは言った。
「前科があろうが無かろうが、この会社で重要なのはいかに企画力のあるゲームを運営することだ。そして悪人に対抗できるほどのゲームを進行できるかどうかも鍵だ。」
「プレイヤー共には前科持ちの奴が退治するのも一理あるな。こいつとか先生をボコボコにして退学してさらに、窃盗の前科もあるな。」
「こいつは殺人未遂の前科持ちで暴力団にも所属してたみたいだな。」
ベンとケイジは書類選考をした社員達の狙いを見抜いていた。
「こいつとか面白いんじゃ無いか?」
「ベン、見せろ。」
情報部のまとめたレジュメをタブレットで見た。
「入江…?聞いたことある名前だな。」
「日本からわざわざここに応募に来たんだ。この履歴書も見ろ。」
「韓国から応募したべっぴんさんだ。彼女はトランスジェンダーだ。元男だと思えないな。」
「フランスからも応募者がいる。カミーユ・ベンシャトリの妹か。」
「妹がいたなんて知らないな。」
「同期の俺でも知らなかったことだ。」
10期生のカミーユ・ベンシャトリには妹がいるのは私は知っているが、彼女が家族のことをあまり話さない。彼女の妹がどのような経緯で応募したのかも分からない。
「今日の打ち合わせはここまでだ。誰が採用されてもおかしくない。」
「合格出来るのは限られた7人。くれぐれも選考は慎重に行うんだ。」
二人は部屋を出る。
「クリスティーナ。」
「あんたの代わりに私が採用担当しようか?」
「残念ながらこの役割はお前には譲らない。一度引き受けた仕事は必ずやりこなす。」
「あんたならそう言うと思ったわ。」
彼女はチョコレートを渡した。
「何だ?」
「あんたに差し入れよ。」
彼女は彼のことをかげながら応援していた。
「お前らしくないな。」
「私を極悪非道で冷徹でサイコパスだと思ってるようね。」
「いつか部下が出来たらお前変わるかもな。」
「私は常に変わる人間よ。」
二人は夕食を一緒に食べた。
「このワイン悪くないわ。重すぎず軽すぎないわ。」
「クリスティーナ。」
「何?」
「今年は優秀な人材を採用するつもりだ。」
「面白い。どんなものか楽しみね。」
またベンとケイジは話し合いをした。
「聞いたか?今度からベンとケイジが採用担当だって。」
「ケイジの出世は早いよな。」
9期生と10期生はケイジについて話していた。そこにジェイがやって来る。
「この俺も出世して見せるよ。」
彼は皆の前で宣言をした。
「ジェイのやつ、努力の天才だな。どん底からあいつは這い上がったんだ。」
ティムが言った。
「ケイジ、明日はいよいよ採用面接よ。面白い人材を採用しなさい。」
「分かりました。社長。そう言えば、社長は一期生ですよね?どんなメンバーでこの会社を立ち上げたんですか?」
「あんた達と比べたらそんなに優秀じゃないわ。」
ケイジは社長室を出た。私は1期生だった時の自分とメンバーの写真を眺めた。
「今日が採用面接か。」
目覚まし時計を見て、ケイジはシャワーを浴びた。
「ここの企業でどんな事をしたいですか?」
シャワーを浴びながら鏡に話しかけた。
「この企業でやりたい事は少しでもこの腐りきった世の中をまともにする為、じっくりプレイヤーを翻弄するゲームを企画することです。」
シャワーの栓を締めて、彼は裸の自分の姿を見た。そしてスーツに着替え、ネクタイをする。
「ベン、起きてるか?」
「もう会社に向かってる。」
社宅から会社に向かう。
「ケイジ行くぞ。」
二人は応接室に移動した。会場設営をした。
「これで準備完了だ。」
「これでよし。」
二人は準備を終えて、席に座る。
「始めようじゃないか。採用面接を。」
応募者は控室で準備をしていた。
裏NPO法人社会的ダスト更生プロジェクトにも新たな波がやって来る。