プロローグ1-3
自分の書きたい場所までが長ーーい
もうちょっと付き合って貰います
一夜明けてアラームの代りにアーミアの声で目が覚めた。
肌寒くまだ日も上っていない時間だ。
「あなた様起きてくださいまし。」
そういいながら体を軽く揺さぶられ優しく柔らかい声で起こしてくる。
不思議と母親に起こされているみたいですぐに起きることが出来た。
既に起きて身支度を終えたミアーナが「起きました?」と言った感じで顔を覗いてくる。
眠たい目を擦りながら大きな欠伸をし起きた事をアピールする。
それと同時に異世界が夢ではなかった事を証明する。
「おっけ、起きた起きた。何?」
「戦士長がお呼びですよ」
ミアーナは俺にそういうと水の入った桶とタオルを渡しテントから出て行った。
朝からトップに呼び出しくらうとか嫌すぎてもう一回寝ようか考えていると。
「早くしろ。起きるのが遅いぞ」
外にいるヴァスが急かしてくる。
「すぐ準備します」
簡単な準備をして外に出る。
皆既にテントを片付けており出発の準備をしていた。
「少し歩くぞ」
ヴァスに誘導されついていく。
「さーぶ」
「人間には少し冷たく感じるだろうな。服のおかげでだいぶマシだろうが」
「獣人はやっぱり寒さとか暑さに強いんですか?」
「暑さはそうでもないが寒さにならかなり強い」
「獣人は全種族の中でもかなり強い方ですか?」
「あまり種族で弱い強いっていう事はないな」
他愛のない話を歩きながらする。
ほぼ初対面の奴にこんな話掛ける事はほとんどないのだが異世界についての情報が欲しいのもあり積極的に行っている。
それにヴァスはかなり話しやすい。
「だが、ドラゴンは別格だ」
「やっぱり強いんですね」
「ラグニールが龍狩りに挑んだ事があるんだ。それで――」
そこで龍の強さとラグニールの活躍をたんまり聞かされた。
その時のヴァスは誇らしげで顔は憧れを追いかける少年のように輝いていた。
(自分の親が龍狩りに挑んだなんて武勇伝として自慢したくもなるわな)
討伐は無理だったが撃退して折った角を持ち帰り。
それで作った武器がラグニールが背負っている大曲刀。
適当に振った話題だがこんなに話してくれる。
いい奴だな本当。
そんな話をしているとミアーナとラグニールがいる場所まで来た。
その時にようやく薄ぐらく冷たい森の中に少しづつ暖かい光が差してきていた。
日の出の中
ラグニールが出発準備の指揮を執る最中にこちらを見つけ俺の荷物を持って近寄ってくる。
『話は聞いている』
正に歴戦の猛者と言った面持ちで低く野太い声で話かけてくる。
『まずは礼をさせてくれ、お前の持ってた食料は戦える者に食わせた。感謝する』
「いえ、取引ですからお構いなく」
正直この男と話すのはかなり緊張する。
昨日のような威圧感はない。
だが、その風体から来る威厳が凄すぎる。
体が生傷だらけな事もあり、まるでヤクザだ。
『さて、単刀直入に言う』
「はい?」
『お前は敵か?味方か?どっちだ?』
ラグニールの眼が俺をのぞき込んでくる。
まるで俺の眼を通して心の中まで全てを見透かされている感覚に陥る。
今この問答が獣人達にとって最も大事なことなのは間違い無い。
周りにいる獣人達も作業しながら耳を傾けている。
しかし――
「その問に意味があるとはおもえません」
俺は素直に自分の考えを答える事にした。
「仮に私が敵だったとして素直に答える訳がない」
『それで?』
「味方だっとしても味方である証拠が無い」
『つまり?』
「この問には何の意味もありません」
『なるほど』
ラグニールは当然理解していると言った感じに相槌を打ってくる。
それを理解した上で―
「私は味方です」
ラグニールの眼を見てはっきりと言い切った。
口に出さなくても恐らく伝わっただろう。
しかし、「自分の言葉で言わなければいけない」そんな気がした。
『なら良い』
ラグニールはそういうと俺の荷物を渡してきた。
仲間だと認められたのだろう。
『敵である可能性は残ってはいるがな』
今の所は
「用はすんだ。皆、出発するぞ!」
ラグニールの合図で獣人達は国境へ向けて出発を開始。
その間に俺は荷物の確認を急いだ。
◇◇◇
歩き難い森の中を躓かないように注意しながら国境を目指し進む。
荷物を確認し終えた俺はヤケクソ気味だった。
歩きながらやる気の無い声と顔で
「確認して分かった驚愕の事実3選~~~」
「イェーイ、パチパチー」
「そうヤケになるな」
「ああ、おいたわしや・・・」
ガノ・ヴァス・ミアーナに心配されつつ朝食に配られた固い干し肉を食いながら自棄になっている。
肉は思ったよりも不味くはなかった。
「前にも言ったが名前の無い事なんて大して珍しい事じゃない気を落とすな」
「そうだよー、ガノも名前なかったからミアーナ様が付けてくれたんだよー?」
「そうですよ、それにあなた様のお荷物に【不壊】と【清浄】が付与されていたのですから」
「さいですか」
そんな事を話ながら驚愕の事実を振り返る。
驚愕の事実1
俺の持っていた物全部【不壊】・【清浄】と言った特性が付与されている【マジックアイテム】だった。
特性の付与は超高難易度の技術でそれこそ神様に力を借りるなどをして特性を付けるのに何年も必要とする物らしくそれが二つ同時に付与されていた。
ラグニール曰く「王族でも滅多に持っていない」との事。
「どうして分かったんですか?」ってヴァスに聞いたら「ラグニールが風嵐で荷物をぶった切ろうとしたが傷一つ付かなかったから」と答えた。
やめろ。
驚愕の事実2
これが一番不可解だった。
財布に入っている免許証・保険証・クレジットカードなど個人を確認できる物全てが白紙・空欄になっていた。
スマホも文字化けして個人情報の確認が出来なかった。
不可解過ぎて何もわからないのでこれに関しては後回しにする。
驚愕の事実3
俺が異世界で目を覚ました時にドラゴンがいた事について。
荷物を確認中にラグニールから「あの時、ドラゴンと言っていたな?どんな奴だ?」と聞かれたので「ああ、黒龍があそこ一帯を何か探すように旋回していましたよ?」そう言うとその場にいた全員が凍り付きラグニールが俺の胸倉を掴んで問い詰めて来てそれをミアーナが諫めようとして一悶着あった。
怖すぎてちょっとちびった。
なんでも黒龍はこの世界において最強最悪の厄災と言われており出会えば生きて帰る事はない。
生きて帰って来た者もいるが殆どが精神的・肉体的にまともな状態ではないらしく話も出来ないらしい。
ただ、皆一様にブツブツと「呪い」や「祈り」のように許しを請う文言を吐いていると言う。
そんなのがいて何故世界は滅びてないのか?
500年程前、【異能戦争】が終結した時期に討伐隊が組まれ黒龍を封印した。
しかし、完全封印とはいかず定期的にわざと封印を解き再封印されるまで戦う必要があり
50年に一度の周期で封印が解かれその度に各国で黒龍討伐隊を編成し再び封印される時間まで耐久戦をするのだとか。
討伐隊というよりは決死隊だろう。
更に封印の周期がどんどん短くなっているらしく黒龍予報なる物では今年から3年以内に出現ということで討伐隊が既に編成されている。
そんなバケモンが飛んでいたのを俺が観測ので皆動揺した。
出会って間もない怪しい奴が言った事だから戯言として捉えられるだろうと思っていたけれど・・・。
【黒龍】のワードがこの世界ではデリケートな問題とされているのが良く分かった。
オレ オボエタ キオツケル
はい、回想終了。
◇◇◇
「おい、聞いてるのか?」
「すいません、帰ってきました」
「?まぁ、いい」
回想から帰って来た俺にヴァスが話しかけてくる。
残りの戦える戦士達の紹介をしてくれるみたいだ。
「アプロっていいます。よろしくっス」
「ミルス・・です・・・えっと・・・よろしくお願いs――」
(こんな小さい子達が戦士なのか凄いな獣人族)
アプロ君は少しうすい黄色に白の毛が混じった槍を持ったハーフの子。
ミルスちゃんは薄い青の髪のハーフ。声が小さすぎて最後は聞き取れなった。
杖を持っているので恐らく魔術を使うのだろう。
二人とも身長的に年は中学生くらいか?
二人が本当に戦えるのか疑っていたがそんな心配は無用な事がすぐに分かった。
ヴァスを交えて二人と会話していると
「止まれ!」
ヴァスが人差し指を立て鼻に持って行き周りを静かにさせると戦えない者はラグニールの方へ急いで集結する。
ラグニールが戦えない者を守りそれ以外が前に出る形らしい。
戦える者達は前へ出てそれぞれの獲物を構える。
すると構えている方角から木々が倒れ、草木が踏みつぶされる音が聞こえて段々と大きくなり近づいてくる。
そして地響きのような足音が聞こえて来た次の瞬間。
木々を吹っ飛ばして1m80㎝程だろうか?
興奮状態の巨大な牙を持った巨躯の猪?が飛び出してきた。
それと同時に、アプロ・ミルス・ヴァス・ミアーナが動き出す。
ヴァスが咆哮し突っ込んできたイノシシを正面から牙を素手で掴み体で受け止める。
両者がぶつかり合った際にヴァスが踏ん張った場所の地面が深く抉れ猪の動きが止まる。
猪も負けじと地面を蹴るが動く気配は全く無かった。
力比べはヴァスの勝ちのようだ。
ミアーナが薙刀を振るい青い炎を相手にぶつけると炎はイノシシの背に燃え移った。
猪は自身の体に熱を感じその場から逃れようとするもヴァスがそれを許さない。
「今日はご馳走だな」
唇を舐め不敵に笑い獲物狩る姿は正に狼と言った風貌だった。
アプロは槍で定期的にヒットアンドアウェイを繰り返しミルコの前に帰ってくる。
常にあの位置にいるのは基本的にミルコを守るのが役割なのだろう。
ミルスが後方で杖を構えさっきから何か詠唱をしている。
「皆の行動をサポートする魔法かな?」
と考えていると今まで聞こえ無かった詠唱が最後の部分だけ聞こえた。
「歪み歪歪曲せよ―― 【虚構曲解】」
ミルスがそう唱えるとイノシシの前足が雑巾絞りのようになり肉と血の水音と骨の砕ける乾いたを音を立てて――
やがて耐久限界を迎えねじ切れた。
自分の足が無くなりもはや逃げる事が出来無くなったにも関わらず無くなった足で逃げようとしている。
その隣でミアーナの薙刀にミルスが魔術を施し薙刀が淡く光る。
そして、青い炎を薙刀に纏わせたミアーナは、飛び跳ね猪の首の上を通過しながら薙刀を振るいヴァスの腕から逃れようと悲痛に鳴き喚く猪の首を一太刀で落とした。
辺り一面に首から蛇口を軽く捻った様に出る血が伸びて広がっていく。
「お見事!」
ヴァスはそう言いながら牙から手を放しミアーナを賞賛した。
「ヴァスも戦士としての大役。お疲れ様です」
ミアーナは一番槍を務めたヴァスを労う。
後から聞いた話だが獣人の戦士達は一番槍であるのが大変名誉な事らしい。
「アプロやミルスも狩りが上手くなったな。良かったぞ」
二人を褒めるのも忘れない。
やはりヴァスは出来る男のようだ。
「ありがとうございます!もっと上手くなれるよう頑張るっス!!」
「ありg――」
アプロは元気よく返事をして、ミルスは恥ずかしそうに顔を赤くして何言ってるのかわからなかった。
そうしているとラグニールがこちらへやって来た。
『大物だな。1日分だけ解体し即刻移動する』
「了解しました。皆、初めてくれ!」
「やっぱり全部は持って行けないっスよね・・・」
本来、大物を狩るとお祝いに宴会をする習慣が獣人達にはあるようだ。
だが、新鮮な肉を食える事に獣人達は少し明るい表情を見せている。
そうして解体作業を見守っていると。
「お前もやるんだぞ」
そういわれ解体用のナイフを渡される。
「ですよねー」
(働かざる者なんとやらだもんなー)
ナイフを受け取り仕方ないと納得して作業に加わる。
「あなた様。解体のご経験は?」
「ない」
「でしたら私がお教えて差し上げますので是非♪」
「ミアーナ様はお休みなさっていてください。我々で解体しますので」
「ヴァス、私だけ除け者にするのですか?」
「そういう訳では・・・」
「でしたら!皆でやりましょう♪」
「はい・・・」
(ずっと思ってたけどもしかしてミアーナは清楚系ではない?)
「ガノも一緒にやるよー」
ミアーナが「清楚系ワイルド」という新たなジャンルの可能性が浮上しつつも、いつの間にか隣に居たガノを交えて皆に解体方法を教えて貰いながら作業を進めていった。
「解体した物は何処に置けば?」
「各々で移動に邪魔にならない分だけ持っていく」
「解体した分だけ自分の物になるんスよ」
「でもー、肉はすぐ腐るからそんなに持って行けないんだー」
「ふーん、了解」
(血生臭くなるのは嫌だけど仕方ない、バックに詰めるかー)
バックの所にまで歩いていく。
バックに詰めようとするとミルスが袖を引っ張て来て何か言いたそうにしている。
「ん?何にかな?」と優しい顔をしてミルスに目で語り掛ける。
「―――」
(何にも聞こえんくて草)
口は何か伝えようとして動いているが何も聞こえない。
聞こえるように手を耳に当て口元まで持って行き「もう一回」と手を使ったジェスチャーで伝える。
「人間さんのバックなら腐らずに保管できるかもしれません」
天啓だった。
言われてみれば俺のバックには【不壊】・【清浄】が付与されてある。
つまり【清浄】でバックを無菌に保つので菌の繁殖が出来ないはずなのだ。
しかも血生臭くならないはずだ。
だが、これには穴がある。
「肉自体」にある菌はどうするのか?
それを踏まえてミルコに説明した所。
「菌?というのは良く分かりませんが能力の付与は魔法の領域にあります。つまりこの世界の法に干渉する物です」
「ほうほう?」
「なのでバックの中にも効果が発揮されていると思います」
「なるほど、バックの中に存在する空間がバックの一部だという解釈ってことか」
つまりバックの中にある物は「バック」として扱う。
するとミルスは驚いた顔をした後花が咲いた様に笑顔になり目を輝かせ興奮気味に答えてくれた。
「そうなんです!バックの中は世界の領域ではなくバックの領域、或いは空間なのでバックのルールが優先されるはずなんです!」
「お、おおぅ」
(興味ある事に全振りタイプだったか)
勢いに少し気圧されながら言われた事を検証し始める。
「まず血だらけの肉を入れる」
取れたて新鮮の肉をバックに詰めていく。
「バックの空間を世界の空間・領域から引き剥がす為にバックを閉じて密閉してください」
バックの開いている口を閉じる。
これで開いた時にバックの中に血が付着していなければ成功だ。
正直これには期待せざるを得ない。
もし、この説が正しかった場合はミアーナが言った「あなた様は我々を救います」この予言に少しは答えられるかもしれない。
「行くぞ?」
「お願いします」
(こいつらは皆いい奴らだ。応えられるなら期待に応えたい)
自身の「期待から解放されたい」という願いも込めてバックを開き、中を恐る恐る覗き観測る。
そこには――
難しい話考えるといつかボロが出ると思います寛大な目でみてくだしあ