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嘘吐きな僕と鉄仮面の君は恋の告白シーンをコスり倒す

作者: だぶんぐる

全然他の作品が進まないので、逃避しました……。

ただただ、甘いのが書きたかったんや……

「僕は、君が好きだよ」

「私も、貴方が好きよ」


シンプルな男女のよくある告白シーン。

男は執事が着るような燕尾服を身に纏い、女はメイド服を着ている。

そして、洋館の中は血塗れ。どう考えても異常な空間で、男と女は見つめ合う。

女は黒髪に、赤い瞳をした可愛らしい少女だ。

対して男は白髪に青い瞳。

そんな二人は互いを見つめ合い、微笑む。

女の瞳は潤み、青白い肌に赤らんだ頬、口元は笑っている。

そして、二人は唇を近づけ


パシャパシャパシャ!


「いいねえ、はーい、いいよいいよお! ラブラブな雰囲気出てる! 最高! 最高が過ぎる! 私の理想が詰まっている! むは!」


そのまま止まり、三つ編みの馴染みのカメラマンさんに写真を撮られ続けている。

そう、これはコスプレだ。

アニメ化もされていないような漫画だが僕の大好きな……。


「美海さん、この体勢ずっとはきついから、そろそろいいかしら……?」


恋する乙女のような表情はほとんど変えずに、正面のメイドコス美少女はカメラマンに向かって話しかける。


「いやあ、ちょっと待ってね、どきんさん! もう少しもう少しだけ! 出来れば、あと少しだけ! たかくんのほうに顔を寄せて貰えたら!」

「もう……! 仕方ありませんね。西郷君、いくわよ」

「え……あ、ああ」


カメラマンである美海さんに指示され、どきんさん、いや、木戸さんが顔を近づけてくる。

本名、木戸凛花、僕のクラスメイトだ。

肩より長いストレートな黒髪をした清楚系美人。胸は普通ぐらいだけど、スタイル抜群で、身長160cmくらいあるモデル体型。その綺麗な容姿と、物静かそうな見た目、そして、いつも冷静で表情が変わらないことから、クール美少女と評判の女の子だった。

そんな子が普段なら絶対見られない熱っぽい表情で僕を見つめている。

正直、可愛いしドキドキするけど、今はそれどころじゃない。

何故こんな状況になっているのか? それは一年前に遡る―――

―。

「あ~、やっと終わった……」

今日は終業式だったので午前授業。昼過ぎには下校となった。

(やった、これから夏休み! あのアニメもあのラノベも漫画も全部制覇してやる!)

などと考えながら帰宅しようとしていると後ろから声をかけられた。

「おい、西郷! お前夏休みどうするんだ!?」

クラスメイト達だ。嫌な予感がする。

「いや、特には……まあ、考え中かな」

「そっかそっか! なら、丁度良かった! これから高杉んちでみんなで遊ぶ予定立てようってなってさ! 一緒に行こうぜ!」

有難迷惑。いや、嬉しいのは嬉しい。だけど、ぶっちゃけた話、夏休みまでクラスカーストの中に組み込まれるのはしんどい。どう断りを入れようかと考えていると、


「西郷君、それより先に図書委員の仕事と予定の話をしないといけないでしょ」


木戸さんが会話に割り込んでくる。突然現れた美少女に男子達は色めき立つ。

木戸さんと僕は図書委員だ。だけど、そんな話あっただろうか。

僕が首を傾げていると、彼女は説明してくれた。

「図書室の蔵書の整理をしたいんだけど、人手が足りなくて困っていたのよ。それで、同じ図書委員の貴方にも手伝って欲しいと思って」

なるほど。確かに、そんな話はあった。

それに、こっちとしても都合が良い。

「というわけで、ごめんね。僕は図書委員の仕事をしてくるから、また、予定決まったら教えて。もし空いてたら参加するからさ」

「お、おう! わ、分かった! あの! 木戸さんももしよかったら!」

クラスメイト達は、もうあまり僕には興味がないようで木戸さんの連絡先を聞こうとスマホを取り出している。

「ごめんなさい、私、今日スマホを忘れて来ちゃって。それに、夏休みは予定が立て込んでいて……また、新学期になったらよろしくね」

「お、おお! わかった! じゃあ、また!」

クラスメイト達は木戸さんに微笑まれただけで嬉しかったのか顔を赤らめながら去って行った。

「よし、じゃあ、さっさと仕事終わらせに図書室に行こうか、木戸さん」

「ああ、さっきのは嘘よ。西郷君、委員会での話はちゃんと聞いておきなさい」


さらりとなんでもないような事かのように木戸さんがそう言う。

「え?」

「西郷君が困っているようだから、助け船を出しただけ。迷惑だったかしら?」

「あー、いや、全然! むしろ助かった! ちょっと、僕も予定がね、立て込んでて」


アニメや漫画の予定だけど。


「そう。クラスメイトと遊ぶのがちょっとめんどくさそうに見えたけど?」

そう言って木戸さんは僕の目をじっと見つめてくる。その目は、全てを見透かすような目だ。思わず、口が滑る。

「ど、どうして、分かったの……? あ!」

「ふふ、大丈夫よ。みんなには言わないわ。私はみんなの輪に入れないから、クラスの中が良く見えてる。ただ、それだけよ」

彼女は少し寂しそうな表情を浮かべた。しかし、すぐに笑顔に戻り、歩き出す。

彼女の言っていることは事実だ。木戸さんはクラスで浮いている。クールで無愛想な感じだし、話しかけても最低限しか返さない。たまに笑ったりするけど、それも極々稀だ。

でも、それは彼女が悪いんじゃない。みんなは彼女に壁を感じてしまうのだ。

だから、僕も彼女と委員会以外ではほとんど話したことはない。

「それに、西郷君が、似てる気がしたの。貴方って本当に周りをよく見ている人だったから」

木戸さんは僕を見てそう言った。

周りをよく見ている。そうかもしれない。中学校の頃、僕のクラスでいじめがあった。僕は直接被害者でも加害者でもなかったし、すぐに終わったものだったけどいじめた子といじめられた子は元々仲良しだった。だけど、ふとした小さなすれ違いから複雑に拗れ一瞬で関係性が変わってしまった。

それが僕の心には深く刻まれ、恐怖となって残っている。

だから、僕は、出来るだけ上手く立ち回り生きていけるようにしてるとは思う。

木戸さんは……。

「ねえ、さっき助けたお礼として一度だけお願いを聞いてくれない?」

そう言って木戸さんは僕を見つめてくる。

本当に助かったし、正直木戸さんなら無茶ぶりなんかはないだろう。

僕はその申し出を受けることにした。

――――――

「無理だ!」

「なんで? さっきは良いって言ってくれたじゃない?」

そこは写真なんかを撮るスタジオだった。

そして、嫌がる僕と、金髪のお下げのウィッグを握りしめ僕の腕をつかんで離さない木戸さん。意外と力あるな!

「だって! コスプレなんて! 僕には無理だよ!」

「でも、貴方がいないと撮れないのよ。お願い、助けると思って」

そう、木戸さんのお願いと言うのはコスプレをして写真を撮るというものだった。

初めて知ったのだが、というか、クラスの誰も知らないだろうけど、木戸さんの趣味はコスプレらしい。アニメも漫画も好きで、それがこうじてコスプレにもハマったらしいのだけど。

正直、コスプレイヤーさんの写真なんかも見たりするしコスプレ自体を否定する気はない。だけど、自分がするのはしかも……。


「人生半分の等価交換とか僕には言えないよ!」


某錬金術師の告白の名シーンだなんて!

あんな名シーンを僕が演じるなんて荷が重すぎる!

あのシーンは僕も大好きでにまにま気持ち悪い笑みを浮かべながら悶え死んだ。

だけど、それを自分がやるのは!


「ダメなの?」


しょんぼりした顔でこっちを見るウィン……いや、木戸さん。

流石、美人、金髪もカラコンも似合っている。

だけど、僕はダメだ! 色々あった実写化だけど主人公ジャニー○だったんだよ!?

僕に出来る訳がない!

だけど……。


「ダメなの?」


botのように繰り返しながらこっちを見る木戸さん。

無表情に近いが、しょんぼり感があまりにも伝わってくる……!

くそう! 僕の夏休みが守られた事との等価交換になるとは思えないけど、いや、そうか。等価交換の法則を簡単にひっくり返しているのか……流石、ヒロイン……!


「わかった、よ……! やる。やるから、その顔やめて……」


僕は負けてしまった。そう言うと木戸さんはほぼ無表情だけど、なんだか後ろにブンブン尻尾が振られている幻覚が見えるくらい嬉しそうで。


「ありがとう。じゃあ、着替えて」

そう言って木戸さんは僕にウィッグを渡してくる。

「はーい、じゃあ、メイクはワタシに任せてね。あ、どうも~、カメラマン兼雑用係の、この子の従姉妹の美海でーす」

ノリの良いお姉さんがニコニコ笑いながら、僕に話しかけてくる。

その間も木戸さんは僕にコートを渡してくる。

下に着てるのがいつもの赤と黒のアレじゃなくて、制服で代用できる感じで良かった。

「あれ? そういえばコートってサイズ大丈夫?」

僕がそう言うと木戸さんが固まる。だけど、すぐに無表情で僕の方を見て。

「大丈夫よ。来れなくなった人が丁度西郷君と同じサイズだったから、ね、美海さん?」

「そーそー! いやあ、マジ助かったー! ありがとねー!」

美海さんの適当な感謝に苦笑いを浮かべている内に、どんどんと準備が進んでいき、そして、


「じゃあ……お願いね。このシーンは分かるわよね」

「も、勿論……でも……」

緊張はする。それだけ大好きなシーンなんだ。

目の前には、ヒロインが……本物みたいなヒロインが……その上、美少女クラスメイトにあんな言葉を……!


「大丈夫よ、これはコスプレなんだから。気楽にやってみて……ふふ」


そう言って、微笑んだ木戸さんの顔は今まで見たことがないほど妖艶で、美しくて、僕の心臓がドクンと跳ね上がる。でも、それだけこの撮影が楽しみだったのだろう。時間も限られているみたいだし、いい撮影にしてあげたい。


僕は意を決して、撮影に臨む。


「等価交換だ! 俺の人生半分……」


台詞は完璧に覚えていた。大好きなシーンだからね!

声優さんに寄せちゃった上に下手だったけど許してほしい。

そんな芋コスプレイヤーの僕に比べ、木戸さんは、


「……そのくらいならあげてもいいわよ」


完璧だった。台詞も雰囲気も、そして、表情も。

見惚れるような可愛さで。

見せてもらった写真は、不器用な笑顔の僕と愛の告白シーンを完璧に演じきった最強ヒロインがそこにいた。


「どうだった?」

撮影が終わり、お礼と貰ったジュースを飲んでいる僕の所に、メイクもそのままの木戸さんがやってくる。よほど楽しかったのかずっとコスプレのままだ。

「楽しかったよ。いい思い出になっ……」

「楽しかったのね。良かったわ。もしよかったら、次も参加してもらえない? 多分、お願いした人もう来ない気がするから」

早口で誘われた。

そうか。スタジオとかって予約もしなきゃいけないからもうスケジュールも決まっているんだろう。

正直、楽しかった。それに、木戸さんのコスプレはとても可愛くて、さっきの告白シーンも本当にドキドキして……。役得と思うべきか。

僕は、頷き、暫くの間、彼女のコスプレに付き合うことにした。



つもりだった。ほんと、暫くの間。他の相手が見つかるまでのつもりだった。

なのに。

「はーい、おつかれー!今回もいい写真撮れてるよー。またいい感じにあげとくねー」

ずっと一年続いていた。

夏と年末のイベントにも参加し、地元のイベントにも参加し、懇願され美海さんのアカウントで厳選写真がアップされるようになり、その上、結構な人気らしい。

どうしてこうなった……!


まあ、理由は明確だ。初めからずっと同じ。

楽しかった。コスプレしてる木戸さんが可愛かった。

そして、告白シーンにドキドキしたからだ。

木戸さんと疑似恋愛してるみたいで楽しかった。

だけど、明日で丁度一年になる。

いつまでもこのままの状態をだらだら続けるのは良くない。

だから、僕はもう終わりにしようと思っていた。


次の日。


「き、木戸さん! あの、夏の予定……」

「え、と……それは……」

「ごめん、ちょっと木戸さん、借りていいかな? ちょっと図書委員でお願いしたいことがあって……」

「え? ああ、そうなのか……分かった。じゃあ、また木戸さん、あとで……」


クラスメイトに誘われている木戸さんをちょっと強引に連れて行く。

木戸さんは、浮かない顔だけど、僕についてきてくれる。


「それで……西郷君、図書委員のって……」

「ああ、あれは嘘。木戸さんに言いたいことがあって」


僕の言葉に、木戸さんは固まってしまう。

そして、ぐっと下唇を噛んで俯いてしまう。


だけど、言わなきゃいけない。

この関係性を終わりにしたいと。


木戸さんは少し震えているように見えた。

いや、僕も震えていた。


あー、もう。


散々告白シーンなんて、擦り倒したはずなのになあ。


「木戸さん、僕はコスプレしてる君が好きだ」


木戸さんはハッと顔をあげる。だけど、ちょっとだけ悲しそうに。


「でも、コスプレしてる君を、そのままの君がこえてしまった」


目を見開く木戸さん。一年間そういう驚く表情を何度も見られて嬉しかった。


「だから…………いや、そうじゃなくて」


そう。そうじゃない。言いたいことはもっと単純で。


「君が好きだ」


なんの伏線も飾り気もドラマ性もない言葉しか僕には言えなかった。

だけど、木戸さんは、いつものコスプレしてる時もよりもかわいい笑顔で僕を抱きしめてくれた。

木戸さんの身体は少ししっとり汗ばんでいてちょっとあついくらいで。


「ごめんね、漫画やアニメのヒロインみたいな告白シーンに出来なくて」


何か言わなきゃと出た言葉も漫画の主人公みたいな事じゃなくて。


「ふふ、漫画やアニメだって見る人によって最高シーンや笑えるギャグ告白になるものよ」


木戸さんは涙を浮かべながら僕を見て、それはやっぱり何かのヒロインのようで。


「だから」


いや


「大好きな人にされたこの告白は私にとっては最高の告白シーンよ」


僕のヒロインで。


「大好きよ、これは何かから借りたものでもない。心からの私の言葉」


僕らはあと何十回何百回好きと言うのだろう。

いつか擦り過ぎて飽きる日が来るのだろうか。

擦り過ぎて陳腐に聞こえる日が来るのだろうか。

それでも。

伝えようと思う。

今。この気持ちを。

擦り続けたらきっともっとツルツルでキラキラで輝くものになると信じて。


「僕は、君が好きだよ」

「私も、貴方が好きよ」

お読み下さりありがとうございます。

評価やいいね、感想で書きたいパワー貰えると嬉しいです……。

よければ、作者お気に入り登録も……。

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