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planetarian 前日譚 第六夜 ほしのとゆめみ 後編  作者: オーガスフロンティア
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第三十七話 ほしのゆめみと申します。(16)星野の想い

プラネタリウム館が休館の日。

星野と脇山は、仮想空間上で、ある約束をしていた・・・。

 花菱デパート屋上のプラネタリウム館は、毎週月曜日と木曜日が休館日である。

 月曜日は、デパートの休館日でもあるので完全休日とし、木曜日はメンテナンスの日としていた。

 本日は、月曜日である。

 プラネタリウム館には、警備員が2時間おきに巡回してくるくらいだ。

 警備員は、当初、プラネタリウム館の整備室を覗いた瞬間、懐中電灯の先に人感センサーに反応しない二人の人影を発見し、一瞬ギョッとなったが、アンドロイドだと気がつくと、安堵の息をついて扉を閉めた。

 一体は整備椅子に仰向けになってヘッドギアをはめたまま、一体は簡易整備椅子に座ったまま、両機とも、まぶたを閉じて静止していた。

 二体のアンドロイドは夢を見ているのだろうか。


 否。

 二体のアンドロイドはネット上に存在して活動していた。

 もしかしたらネット上の仮想空間に存在することが、それは夢のようなものだと主張する者がいるかもしれない。

 しかし、現実社会に受け入れられず、仮想空間に現実を求める者もいる。

 どちらが夢で現実なのか。

 現実社会に夢を見る者もいる。

 どこからが夢で現実なのか。

 いずれにせよ、個人が認識できる現実は一つである。

 人々は、点と線を繋げるように、夢と現実を行き来している。


 ここは、CAPELⅡが作った仮想空間上にあるプラネタリウム館である。

 現実社会に存在している花菱デパート屋上にあるプラネタリウム館とそっくりに作ってある。

 これは、CAPELⅡが解説員として赴任したことを認識し、演習するための場所として自発的に建設した場所である。

「もぉ~、星野さん、勘弁してくださいよ~。」

 仮想空間上でアンドロイドと会うことを禁じられていた脇山康太だったが、星野〝元〟館長に、ある用事を申し付けられて、CAPELⅡの作ったプラネタリウム館にやってきていた。

「この間の件、やっと許してくれたんですから~。」

「そう言うな。今日は休日なんだから問題ないだろう。特別なことをするわけでもあるまいに。」

 星野は、そう言って脇山康太を諭したが、康太は、

「だって、これだって結構まずい話ですよ。業務上取り寄せたデータを使ってるんですから。」

 と、背を丸めた。

 星野は、やはり自分が手筈してせっかく据え付けた本物の光学式投影機を、是が非でもこの仮想空間上でも再現したいと思い、脇山康太にカールツァイス・イエナ社から光学式投影機のデータを取り寄せさせ、CAPELⅡに渡したのだった。

 もちろん、この場にCAPELⅡもやってきている。

「むぅおっほん。」

 星野は、脇山康太を少しさげすむように、斜め上から見下ろした。

「康太くん。データを送ってもらったことには、すごーーく感謝をしているが、君、大人のあやめちゃんに会うのが目的だろう。」

「いや、そんなことないです、でへへへ。」

 さっきの困り顔から一転して、だらしなくデレる脇山康太。

「まあ、気持ちは分からんでもないがの。」

「いや、だって星野さんだって、ずっとあやめちゃんと会っていたんでしょう。ずるいですよ。大人はずるい。」

 今度は、星野を責め始めた脇山。

 まあ、なんともだらしない感じの二人ではあるが・・・。

「だって、わしは、もう社員じゃないもーん。」

 還暦を超えたおっさんと、孫のような若い男が、しょ~もない会話をしている。

 倉橋里美に見つかったら、なんと思われるか・・・。


「まあ、君とわしは共犯者ということで、いいじゃないか。いやいや、これは冗談、冗談だよ、あやめちゃん。」

 《はい。その件でしたら承知しております。〝冗談〟・・・なんですね。》

 脇山康太の期待を裏切って、CAPELⅡは、いつもの衣装を着ていた。露出度は少ないし、体の曲線もあまり目立たない。ただ、筐体は少女型ではなく大人型であった。

 《脇山様、先日は、私たちの宇宙旅行にご参加くださいまして、ありがとうございました。》

 一礼するCAPELⅡ。

「あ、いえいえ、その節はどうも。」

 頭を掻いて、デレながら恐縮する康太。

 正装した大人の女性にかしこまって挨拶されると、意外と威圧されるものである。

 ただ、脇山康太は、その〝大人女性の威圧〟でさえも、悦びに感じていたが・・・。

 CAPELⅡは両手を胸の前に合わせて、

 《この度は、誠に貴重なデータをご提供いただき、ありがとうございました。着任したプラネタリウム館と同じように再現できることを至高の喜びに思います。実は、このプラネタリウム館は、私、CAPELⅡが練習するために建設した作品なのです。本物と同じように再現したつもりなのですが、いかがでしょうか。わたくしは、来る実演の日に向けて、演習を繰り返し、試行錯誤を続ければ、きっと、皆さまのお役に立てると思います。》

 と、また一礼した。

 脇山康太は、CAPELⅡがアンドロイドであることを忘れ、〝大人の女性〟に全うなこころざしを告げられて、自分が抱いていた憧れや下心を蹴とばされたようで恥ずかしく思った。

「どうだ、康太くん。立派なもんだろう。うん?」

 星野がこれみよがしに言うと、

「あ、あの、はい、そうですね・・・。CAPELⅡもこんなこと考えていたんですね。そうだよなぁ・・・。だってあやめちゃんは、AIだもの。僕なんかより、ずっと賢いですもんね。うぅ・・・。」

 康太は、ちょっと涙ぐんだ。

「おいおい、まあ、そんなに卑下することもないだろう。君たちが整備しなければ、彼女達も現実に動くこともできないんだ。適材適所というやつだ。君には君の仕事や長所があるんだ。そんなに落ち込むな。」

 星野は、康太をなだめたが、

「はい・・・、わかってます・・・、分かってます・・・、どうせ僕なんか、日の当たらない場所で小さく生きていきます・・・。」

 と、康太はすっかり気落ちしてしまった。

「まったく、康太くんといい、吾郎くんといい、若い連中と付き合うのは大変じゃわい。」

 星野は珍しくため息をついたが、

(まあ、根は良い奴らなんだし、良い将来があればいいが・・・。俺も、あとどのくらいの未来が残されていることやら・・・。)

 と、彼らを待っている、まだ多くの未来があるだけでもうらやましいと思った。


前回の流れで、そのまま書いてみました。

次回も、そのまま続きます。

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