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planetarian 前日譚 第六夜 ほしのとゆめみ 後編  作者: オーガスフロンティア
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第三十三話 ほしのゆめみと申します。(12)

アンドロイド達のとっていた予想外の行動に、吾郎は驚き、おそれを感じるのだった。

 《はい、仮想空間でいろいろと訓練をしましたので、既にアカウントを作成しています。浜松宇宙港は、私とCAPELⅠと共同で開発した施設です。宇宙旅行も営業していますよ。是非、おいでくださいませ。》

 するすると答えるCAPELⅡ。

「えっ!いつの間にそんな・・・。許可した覚えはないぞ!」

 吾郎は、思わずカッとなって叫んだ。

 なぜなら、彼女たちが、仮想空間でどんなことを始めるか分からないし、どんな被害に遭うかもしれないからだ。

 危険が多すぎる。

 CAPELⅡは、一瞬動きを止めた。

 吾郎の怒りをなだめる方法を分析しているに違いない。

 《大変申し訳ございません。三ヶ島“主任”。私達は私達の能力を向上すべく、仮想空間に接続し、試行錯誤しておりました。》

 と、三ヶ島に向かって深々とお辞儀をした。そしてゆっくり頭を上げると、

 《しかしながら、人間の皆様との交流も、勉強することができました。これは言い訳になって大変お恥ずかしい話なのですが、規約に仮想空間への禁止条項が存在していなかかったため、問題ないと判断をしていました。もし、ご許可いただけないようでしたら、仮想空間への接続を禁止事項に加えます。》

 と、またお辞儀をした。

(なんてことだ。既に一般人と接触していたのか。被害を出していなければいいが・・・。)

 吾郎は驚き、一度口を開けて、むんずと口を閉じると、深く目をつむって額にしわを寄せ、腕組みしてしばらく考え込んだ。まだ頭に血がのぼったままのようである。

 脇山康太は、半開きになった口をへの字に曲げて、間の抜けた格好で突っ立って行き場を失っている。

「まあ、まあ、三ヶ島君、そう興奮するな。AIも常に挑戦しているんだ。君の言わんとしていることもよく分かるが、悪いことだけではあるまい。今は大事に至っていないようだし、それも含めて確認してみようじゃないか。」

 年長者の星野に言われてしまうと、吾郎も言い返す言葉がない。

 吾郎は、一息、二息置いてから、ようやく、

「・・・わかりました。」

 と、苦しく答え、また、ふーっ、と大きく息を吐いた。

「あやめ、静香、今後、仮想空間に入る時は、必ず報告してくれ。こちらも気が気じゃないからな。僕には責任があるんだ。それくらいは理解してくれよな。」

 《はい。承知しました。今後、仮想空間を利用するときは、三ヶ島“主任”に報告いたします。》

 《了解しました。》

 相槌をうつように、充電中のCAPELⅠも答えた。

「すみません、三ヶ島さん、何も考えずにはしゃいでしまって・・・。」

 脇山康太は、ヘッドギアとグローブを付けたまま、両手を広げて謝った。

「いや、君のせいじゃないよ。そもそも、このAIに手を加えたのは僕だからね。自分が作ったものに自分で怒ったって、僕も酷い人間だよ。」

 吾郎は腕を組んだまま、鼻から息を抜くと、

(それに比べて、ゆうなは辛抱強かったな。よほど好きだったんだろうな・・・。)

 と、ゆうなが“二人”を可愛がっていた姿を思い浮かべた。彼女は決して我慢していたわけではない。“二人”の全てを好きでいられたからこそ、そんな不完全な部分も、愛情を持って接していたのだった。

 吾郎には、それがまだ分からない。

「あやめ、それから、ここでは“主任”は止めてくれ。君も分かっているだろう。それを“余計な気遣い”と言うんだ。相手を怒らせることもあるから、覚えておくように。ケースバイケースってことだ。わかるな?僕は、もうここでは主任じゃないんだ。」

 ⦅はい、承知しました。重ね重ね、大変申し訳ございません。まだ勉強が足りないようです。それではなんとお呼びすれば良いでしょうか。⦆

 CAPELⅡは、困ったような表情を“作って”問いかけてきた。

「え・・・、あ・・・、うーん・・・、吾郎でいいよ。」

 吾郎は、「三ヶ島さん」と呼ばれるのもおかしな感じがして、名前なら問題ないだろうと思った。現に、名前で呼んでくれる人も少なくない。

 《それでは、“吾郎さん”ではいかがでしょうか。》

 吾郎は、少し斜めに覗き込んだCAPELⅡの顔が、ふっと、ゆうなと重なって見えた。吾郎は、あっと思ったが、これは普段、ゆうなが吾郎に話し掛けているのを真似しているのだと気づいた。ゆうなが親しげに話し掛けているのを見ていたのだろう。

 対象を“観察”して“分析”し、“計画”して、“実行”する。

 何も間違っていない。

 しかし、これで良かったのだろうか。吾郎には、このアンドロイドが恐ろしくもあり、たかだかロボットが人間の真似をすることに、憎しみのような怒りも感じた。ゆうなは、親しいという感情があったからこそ、そういった仕草をしていたのであって、このAIはそうではない。感情は無く、ただ物真似をしているだけである。

『やはり、AIは、人間になれない。』

 そう結論づけたのは、ずっと後のことで、今は渦巻いた感情に押しつぶされていた。


「かー、めんどくさいなぁ、三ヶ島君は。どっちでもいいだろ。今まで通り、三ヶ島主任と呼んでもらえれば、問題なかろう。」

 業を煮やした星野が、ヘッドギアを持ったまま、くちばしを挟んできた。

「はい、その・・・、どうしたらいいんでしょうか・・・。あ、いえ、星野さんの言う通りですね。」

「そうだろ、僕から、君を主任にしてもらうよう言っておくよ。まあ、給料は、あまり変わらんと思うけど辛抱してくれ。」

「はい、申し訳ありません。よろしくお願いします・・・。」

 吾郎は、ぐったりとうなだれ、一気に疲れを感じた。

「すみませんが、ちょっと休憩させてもらいます。静香のチェックは終わったので、今は充電中です。15分くらいしたら戻ってきますので、しばらくお願いします。」

「あぁ・・・そうしなさい。大体、静岡から走ってきて休憩もしとらんから、疲れているだろう。15分と言わずに、ゆっくりしてきなさい。」

「はい、すみません。そうさせてもらいます。」

 吾郎は、うつむいたまま、頭を下げてお礼を言うと、目も合わさないまま、ゆっくりと呼吸し整備室を出て行った。

「三ヶ島君は、ちょっと硬すぎるなぁ・・・。あまりストレスをため込まなければよいが・・・。」


 吾郎は、屋上のカフェでブラックコーヒーを注文し、ハーフチェアに腰掛け、ハーブタバコを取り出して指に挟んだ。

(俺も、まだまだだな・・・。だけど、無責任なことは出来ないよ。)

 ニコチンフリーのハーブタバコを思いっきり吸うと、大きく吐き出し、コーヒーを口にした。

 ハーブの香りで際立ったコーヒーの苦さが、熱くなった感情を、泥のようにかき混ぜてくれるような気がした。


男性を中心に書くと、文章が固くなってしまうなぁ・・・。

女性を中心に書くと、ほんわか展開になってしまう。

そういうもんかな・・・。

きっと女性中心に書いた方が、読みやすいんでしょうね。


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