第二十二話 ほしのゆめみと申します。(1)
ほしのゆめみが誕生するエピソードの後編です。
日常が過ぎてゆくなかで、ゆっくりと物語は悲劇に進みます。
これがplanetarianの世界観なのです。
西暦2034年1月
年が明け、海沿いにある浜松市とは言え、冬の時期を迎えて、朝の冷え込みが日増しに強くなっていた。
年末年始には人通りが多かったものの、人口減少が進む地方都市では、日中は閑散とすることもあった。
「う~、今日は特別冷えるわね~。」
花菱デパートの屋上にあるプラネタリウム館の玄関の前で、どんよりとした曇り空を見ながら、倉橋里美は、ユリアンに話しかけた。
「日本の冬、とても寒いです。ユリアンの国、いつも温かいよ。」
インドネシアから来ている留学生のユリアンは、防寒着に身を包み、自分の体を縮こませ、寒い寒いとジェスチャーをした。
「こんな寒い冬に天体観測に興じるもの好きなんて、うちのおやじ殿か弟くらいね・・・。」
里美は、社会人になってから、少し疎遠になっているおやじ殿と、弟のことを思い浮かべた。
「オヤジ?」
「あぁ・・・、日本じゃ、父親のことを〝おやじ〟っていうこともあるの。まあ、こんな言い方する人も、もうあんまりいないけどね・・・。あはは。」
里美は苦笑いしながらユリアンに答えた。
「oh、里美さん、お父さんのこと好きなんですね。きっと〝オヤジ〟って言うとき、好きな感情が出ているはず。特別な呼び方。きっと特別に好き。里美さん、幸せ者。」
「まさかあ!あんなふざけた父親なんて珍しいわよ。年がら年中、〝ほし、ほし、ほし〟って、あれでも中学校の先生なのよ。落第しない程度に勉強しなさい、って言うのよ。まあ、そのおかげで、私は好きにやってきたんだけど。」
笑って答える里美に、ユリアンは、神妙な顔をして、
「私の国の父親、いい人もいっぱいいるけど、悪い人もたくさんいる。父親がいない人もたくさんいる。だから、里美は幸せ者。今ある里美は〝オヤジ〟のおかげ。里美、感謝しないと神様に怒られるよ。」
と答えた。
「あぁ・・・、うん。そうね。ごめん。きっと私、贅沢なんだね。ユリアンの言う通りだね。」
「そうだよ。好きにやっていられたのもオヤジの心遣い。里美さん、忘れちゃダメ。」
いつになく真剣な顔をして里美の顔を覗き込んでいるユリアンに、里美は少したじろいだ。
「わ、わかりました。わたしはオヤジに感謝いたします。」
里美は、ちょっとおどけて、手のひらをユリアンにかざし、宣誓のジャスチャーをした。
「はい。それでよろしい。」
と、今度は、ユリアンが、学校の先生のような物真似をしておどけてみせた。
「ユリアン先生、本日は、私がカプチーノをごちそういたします。受け取っていただけるでしょうか。」
と、里美はふざけ、
「里美くん、教えを授かった感謝を示すことは良いことだ。喜んでお受けしよう。」
と、ユリアンは応えてみせた。
「ユリアン、本当におごりますよ。行きましょう。」
「わぁーい、やったー、里美さん、大好き。」
「全くゲンキンよね~。」
「ゲンキン?」
「〝お調子もの〟ってこと。」
「オチョウシモノ?」
「あ~、もう、え~っと、え~、自分の都合のいいように態度を簡単に変える人ってことです。」
「oh!勉強になります。里美先生。ユリアンは、また一つ賢くなりました。」
などと二人でじゃれ合いながら、同じ屋上にあるカフェに向かっていった。
今日は、アシタノヒューマンの三ヶ島吾郎が、アンドロイド整備用設備を設置するための下見と打ち合わせにやってくる日だった。
花菱デパートは、お客が少ないこと以外は平和な日常であったが、世界は少しずつ混乱と騒乱の世界に向かいつつあった。有人火星探査船の乗組員が意識不明になってから、約一年が過ぎていた。世界の各地では異常気象が発生し、食糧問題が日常化。特に乾燥した地域の異常気象は深刻で、頻発する火災と砂漠化が止まらず、これを科学技術で制することができなかった。日本はまだマシである。川が氾濫することはあっても農地が残っており、一度は耕作放棄地になった土地の再利用が進んでいた。世界は食料を巡って貿易戦争、小規模な戦闘が聞こえ始め、昨年までの宇宙ブームはどこへやら、海外旅行さえも危険が伴い始めた。今更、環境問題がどうしただの言っても、原因はともかく、地球の温暖化は止められなかった。悪化していく地球の環境に、人類の総数を減らしていくしかないわけだが、もちろん、そんな制御ができるわけがない。
もし出来るとするならば、独裁政権による圧制か、〝正しい判断〟が出来るAIかもしれなかった・・・。
アニメ版、雪圏球のシーンからプラネタリウム館の断面図を作ってみました。
今回は、短いですが、きりが良かったのでここまでとしました。
いつも、だいたい成り行きで書いています。
前回の続きを考えて、冬は寒いだろうなー、里美はどんな生活してるかなー、そばにユリアンが立ってそうだなー、二人が立ってたらどんな会話するのかなー、時代の進行に沿った世界情勢書いとかないと―、みたいな感じです。そうすれば自然な会話になると思うんですよね。
進行に縛られ過ぎると、話がつまらなくなると思います。
とりあえず、まだまだ続きますよ~。