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隣に迷宮のある暮らし(7)

「なるほどね。おかげで大体の事情は把握できたわ」

「だったら俺にも理解できるように説明してくれ。正直、さっぱり訳が分からん」


 一人で勝手に完結している新宮寺へ向けて、カズヤは若干強めの口調で言い放った。

 いい加減、振り回されてばかりの会話が億劫になってきたのだ。

 横目で涼音の反応をうかがってみれば、どうやら向こうも同意見だったらしく、ペット達を撫でながら浮かない顔をしている。


 二人から浴びせられる説明を求める気配に、新宮寺は素直に応じることにした。

 素直過ぎて、単刀直入とかいう次元を軽々と飛び越えるレベルで。


「それじゃあ簡潔に伝えるわね。スズちゃん、あなたが餌付けした結果、彼はあなたに【テイム】されてしまったのよ」

「ふえっ!?」

「んなっ!?」


 一切の過程を省略し、脈絡なく意味不明な結論を断定する新宮寺に、カズヤと涼音は揃って声を裏返らせてしまう。


 そもそも【テイム】とは、ダンジョンに潜った探索者が稀に開眼する特殊能力、いわゆるスキルの一つであり、魔獣を従えることを可能としていたはずだ。


 だが、仮に涼音が【テイム】の使い手だったとして、行き倒れの人間を助けた結果が【テイム】に至ることなどあり得るのだろうか。生憎とスキルについての知識に乏しいカズヤでは、新宮寺の唱えた仮説の真偽を判断することはできなかった。


「ええっと、順番に確認させてもらいたいんだが、あんたが【テイム】のスキル持ちだってのは間違いないのか? ああ、いや、探索者の能力は個人情報らしいから、言いたくなけりゃ黙秘してくれても良いんだけどよ」


 微妙に動揺しながら、それでも情報を整理しようと努めるカズヤ。

 涼音は数秒ほど押し黙った後、諦めたように細く長い息を吐いた。


「ふう、このままだと話が進みませんし、この子達が証拠みたいなものですからね。それに特に隠しているわけでもないので大丈夫です。確かに管理人さんの言う通り、私は【テイム】持ちでこの子達は【テイム】した魔獣になります」


 大人しく待ての姿勢を続ける三匹を撫でながら、涼音が神妙に肯定した。

 その光景にふと先程の話題が思い出される。おそらく特別な事情というのは、【テイム】のことで間違いないだろう。スキルで制御下に置いているのならば、躾が行き届くのも頷けるというものだ。


「でも、いくらなんでも【テイム】には同種の生物……人間を従える効果なんて無いはずなんです。実際、国津さんも別段私に服従したいとか思って……え、まさか思ってないですよね!?」

「ないない、安心しろって……まあ、あいつらが妙に大人しい理由には納得いったけどな」


 後半は誰にも聞き取れぬほどに小さく、口の中だけで言葉を転がすカズヤ。

 どうかしたのかと小首をかしげてくる少女に、何でもないとジェスチャーで答えてみせたところで、今度は涼音の方から質問が放たれた。


「ええと、国津さんは管理人さんの話に心当たりがある、ということで合っているんでしょうか? いつどこで会ったのかは知りませんが、理由があったからこんな怪しい人に付いて来たんですよね?」


 どうやら新宮寺は、涼音からも怪しい人認定をされているらしい。

 推測混じりではあるが否定の難しい問い掛けに、カズヤは咄嗟に言葉に詰まってしまった。のこのこと付いて来た本当の理由が今川焼に釣られたからなど、こちらはこちらで正直に言うのが少々躊躇われるからだ。


「カズ君は能力鑑定で“第九階層守護者のペット”なんて実績が出ちゃったのよ。その意味、スズちゃんなら分かるでしょ?」

「って、おいっ! いきなりばらしてんじゃねえ! ってか、何だその呼び方は!」


 カズヤが口ごもった隙を見計らうかのように、横合いから爆弾が投下された。

 慌てて止めようとするカズヤだったが、一度口から出た言葉を引っ込める術などあるわけもない。


 馬鹿らしくなるほどあっさりと、実績の秘密が白日の下に晒されてしまう。

 引き換えに、新宮寺が能力鑑定の結果を正確に把握しているという確信は得られたが、どうやって調べたのか皆目見当がつかない以上、実質的にはばらされ損である。


「さっきはスズちゃんのスキルを勝手に教えちゃったもの。カズ君の隠し事も公表すればイーブン。これが公正公平というものでしょう」

「随分と自分勝手な理屈だな。そいつを是とするんなら、あんたにも秘密を明かしてもらわなきゃ、本当の公平にはならないんじゃないのか?」


 カズヤは屁理屈で対抗する。先を見据えての布石というよりは、腹いせの意趣返しに近いいちゃもんであったが、新宮寺は数秒間ほど熟考すると、顔色一つ変えることなく頷いた。


「なるほど、それも道理ね。それなら、あなたの秘密と釣り合うかは分からないけれど、私の目指すところを明らかにさせてもらいましょう。私の目的は『新宿迷宮の保護・保全』よ」

「うん? 保護だって? 攻略じゃなくてか?」


 初めて耳にするお題目に、カズヤは素の反応で聞き返してしまう。いきなり話の腰を折られた格好だが、新宮寺は気を悪くすることもなく、即座に肯定してのけた。


「その通りよ。もっと言ってしまえば、ダンジョン踏破を目指す探索者とは完全に相反する目的でもあるわ。ところでカズ君、スズちゃんの話によれば、先立つ物が無いそうじゃない。だったら私から、一つ仕事を斡旋してあげる。あなた、ダンジョンを守る仕事に興味はない?」


 明らかに探索者達を敵に回している物言いとセット販売で、露骨な勧誘を仕掛けてくる。

 あまりに自由奔放な発言の数々に、カズヤは呆気に取られそうになるのを我慢するため、かつてないほどに多大な精神力を要求されてしまうのだった。

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