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迷宮守護者の憂鬱(5)

「いい加減、全部教えてもらえるんだろうな?」


 目の前に差し出された来客用の玉露にも手を付けることなく、口火を切ったのはカズヤだった。


 斑鳩正臣に不平をぶつけていた涼音が一転して沈黙してしまった後、二人は新宮寺によって管理人室へと招き入れられていた。

 涼音に関しては落ち着くまでの一時的な休憩所として、カズヤに関してはただ一言、「事情を説明する」とだけ告げられて。


「そうね、どこから話せば良いか迷ってしまうのだけれど……やっぱりこういう話は、大元から語っていくのが王道かしら」


 自問自答したと思いきや即座に自己完結すると、新宮寺はいつになく真剣な面持ちでカズヤへ向き直った。


「何を隠そう、実は私は人間ではないのよ」

「ああ、うん。その辺りは薄々気付いてたんで、飛ばしてもらって構わないです」

「あれあれ? 想像以上に淡泊な反応が返ってきちゃって、お姉さんちょっと心外だわ。ふっ、人を超越した我にこのような感情を味わわせるとは、そなたも人間にしておくには惜しい輩よのう」

「そういう人外ジョークも間に合ってるって言ってるでしょーが」

「あら、そう。それは残念ね。ちなみに後学のために、どうして気付いたか教えてもらえるかしら?」

「能力鑑定の結果をさも当然のように検知するなんて、Magicaのシステムと直結している新宿迷宮由来のナニカでもなけりゃ、到底不可能でしょうが。むしろあれだけヒントをもらっておいて、気付いていないと思われる方が心外ってもんじゃないですか」


 辟易した顔で指摘してやれば、掴みのネタを披露できた上に疑問も解消して満足したらしい新宮寺が、咳払いを挟んで改めて語り出した。


「あなたの推測の通りよ。伝わりやすさを優先した表現をするなら、私は新宿迷宮のコアが情報収集に用いている外部端末の一つといったところかしら。こうしてダンジョン外の情報を日夜収集し、新宿迷宮の運営に活用しているというわけね」

「一つってことは、他にも端末が?」

「ええ、あるはずよ。まあ、他の端末がどのような姿形をしているか、私には知らされていないのだけれど。ちなみに言っておくと、ダンジョンに関する知識には制約がかかっていて公開できない内容も多いの。そもそも私の役割に関係無い情報の場合、知識として持ち合わせていないことも十分にあるわ。例えば、ダンジョンを造りだした第一創造者について、とかね」


 話を聞く限り、端末という呼称を用いてはいるが、本体とは別個の制御系を持つ存在。言うなれば群体生物の子株のようなものかと当たりを付ける。


「そして情報収集と並ぶ、私に与えられたもう一つの役割。それが階層守護者の選定と契約というわけよ」

「んー、話を聞いていて何となく思っただけなんですが、比良坂荘ってもしかして……?」

「やっぱり思い至ったわね。あなたの想像で正解よ。ここは一言で表すなら、階層守護者の福利厚生を目的とした寮施設といったところかしら。つまり比良坂荘の入居者は、すべからく新宿迷宮の階層守護者という裏の顔を持っているというわけ。ちなみに守護者が用意されているのは、第五階層の最深部である五十階が一番最初だから」


 新宿迷宮の到達記録が五十階で止まっているのも、おそらくはそれが原因だろう。

 ゲーム的に捉えるならば、最初のボスが第五階層守護者というわけだ。初めてこの部屋に招かれた際の、ダンジョンを守る仕事に興味はないかというあの誘い文句の意味も、これでようやく解消された。


 しかしそうなると、今度は次の疑問が浮かんでくる。

 肝心の第五階層守護者とは一体何者なのかという謎だ。

 到達記録が停滞しているという話を聞く限り、これまでも数多くの探索者の挑戦を退けてきた事だけは想像がつくのだが……。


「通常、第五階層の守護者はリョウ君に務めてもらっているわ。たった一人で探索者の集団を相手にするのは無謀に感じられるかもしれないけど、守護者として赴く際には探索者として入場する時とは比べ物にならない能力強化が施されるの。それから最上級の認識疎外効果も付与されるから、うっかり身バレの心配も不要。心置きなく、不埒な侵入者を血祭りに上げられるというわけ」


 物騒な台詞を、胸を張って堂々と披露する新宮寺。探索者に敵対する立場からすれば、その姿勢こそが正しいのだと頭では理解できるが、小骨が詰まったような微妙に呑み込みきれない違和感は拭えない。


「特にリョウ君は発現したスキルが神がかり的でね。仲間を持たず唯一人で戦うことで、各種能力値に冗談みたいな強化補正を与える【孤独の剣】と、人類に分類される標的へのダメージが激増し、相手から受けるダメージや状態異常の軽減効果もセットになった【マンハンター】の組み合わせは、人間相手であれば実質的に無敵じゃないかとすら思えるわ。もっとも、これらのスキルが発現したせいで、当時組んでいた仲間達から追放されてしまったのだけれど。まあそんな経験のおかげで、リョウ君ってば同族への攻撃を一切躊躇しないキリングマシーンとして――」

「はいストップ! また個人情報ダダ漏れになってますよ。しかも相当にヤバいやつが」

「…………ここで聞いた内容は、絶対に口外しないよう注意して頂戴」


 少しどころではなく手遅れな気もするが、色々と聞くのが憚られる情報の流出にようやく待ったがかけられる。

 人間ではないためか、あるいは情報収集を目的とする端末である故か、ひとたび興が乗れば機微な話題であってもぺらぺらと口外してしまうのは、新宮寺の大きな欠点といえるだろう。

 だが、この場で論ずるべきは比良坂荘管理人の口の軽さについてではなかった。


「あれ? でも確か、亮介さんって里帰り中なんじゃ」


 まるで後ろめたい事情でもあるかのごとく、人目を避けるように去っていた第五階層守護者の背中を思い出し、カズヤが半ば無意識に漏らした呟きこそ、現状での最大の懸念にして喫緊の課題であった。

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