敵情視察
「あれ、ここは?」
マーブルはベッドの上に仰向けになっていた。
「目が覚めた?」
綺麗な若い女性がマーブルのベッドの横の椅子に座っていた。
「私はベルメット=ヴァローナ」
「あぁ、ベルメットさんの娘さん?」
さすがに、この若さで、あの爺さんの娘だったら凄すぎるとマーブルは推測した。
「そうよ、あのどうしようもない親父の娘よ」
「どうしようもないって、そんなことはないでしょ、この国のトップにまで登り詰めた男でしょ」
(なんだ反抗期か?)
「いいのよ、そんな過去の話。今じゃ落ちぶれちゃったわ」
ベルメット製菓の堕落に悲しんでいるようだった。
「まぁそれは事実だけど、ってあれ今何時?」
「午後の3時だけど」
「午後の3時?ってことは、僕結構寝てた?」
「えぇぐっすり」
マーブル達がモールスモールにたどり着いたのは午後4時
つまり、1日ほど寝ていたことになる。
「テイスティングに夢中になるといつもこれだ」
「そういえばボルド達は?」
周りにボルドとカミーラがいないことに気付く
(仲間が目覚ましたら、飛んできて、大丈夫?までがテンプレだろ!)
「ボルドさん達はグリコールに行くっていって30分前くらいにでて行っちゃったわよ」
「うそぉぉぉぉぉ、せめて僕が起きてからいけよあいつ!」
マーブルはベッドから飛び降りた
「ちょっと休んでなくて平気なの?」
「休んでられるかっての!グリコールってどうせあれだろ!あのくそ上手いチョコレート作った店だろ」
「そうね」
「僕を差し置いて行くなんて許せない!今から僕も行く!」
居ても立っても居られなくなり、そそくさと階段を降り始めた
「ちょっとその恰好で行くつもり?グリコールに着く前に凍死するわよ!」
薄着のまま極寒の地に繰り出そうとするマーブルをなんとかヴァローナは引き留めた
「いやーやはりすごい行列ですね」
「さすがの人気ぶりだな、でも別に俺達は商品を買いに来たわけじゃないからな」
こんなに寒いのに列の長さは短くなるどころか、むしろ長くなっている
「あれ、そうなのですか?てっきり寝込んでるマーブルさんのためにチョコレートを買いにきたのかと思っていました」
「あいつに俺が気を遣うわけないだろ、ここのお偉いさんと話に来たんだよ」
今マーブルは王都の特権を使い、ここの責任者との話までこぎつけていた
二人はふかふかのソファにすわり責任者を待つ
「カカオ豆をどこから輸入してるのか、どういうレシピなのか気になってな」
「情報開示請求ですか?」
「あぁ」
「でも、いくら王都側に特権があろうと、レシピを公開の是非は世界法で店側に絶対的な有利があるので、厳しいかもしれないですよ」
情報開示請求とは王都が全国家に発令できる最高級の権限であり、原則逆らうことはできない。
その請求範囲は政治的な面から軍事的な面まで、幅広い。
しかし、この世界はチョコレートが全て。
チョコレートに関しては「世界法」という法が情報開示請求を上回る。
レシピの秘匿は世界法によって完全に保護されている。
「まぁ、おそらくそうだとは思うが、もしかしたらにかけてみる」
「レシピの開示は行えないですねぇ」
ひげずらのグラサンを欠けた、いかにも怪しい男がキッパリと断りをいれた。
「情報開示請求を行ってもダメか?」
「はい、我々が作るチョコレートは情請で得られる権利と釣り合っていないのですよ」
情報開示請求はただ王都の権力で圧をかけて、執行されるものではなく、請求には見返りがある。
王都での店舗進出だったり、強固なカカオ豆の生産ラインの確保などが見返りとして挙げられる。
「王都の店舗進出など、資金が貯まればできますし、生産ラインも整っている。あなた方王都が私たちの作るチョコレートに興味を持っていただけるのは、大変うれしいことですが、レシピの開示は行えません」
「これは無理そうですねボルドさん」
「あぁ、粘っても無駄そうだし、帰るか…」
売り場に戻ると、なんだか騒がしく、聞きなれた声が聞こえてきた
「ボルドの馬鹿野郎はどこだぁぁぁぁぁぁ、僕に内緒で、チョコレート食べに行くなんて許さないぞぉぉぉぉぉぉぉ」
「あのバカ…」