モールスモールにて
チョコレートの原料であるカカオ豆は暖かい地域でしか栽培することができない。
ほぼすべての地域は温帯または熱帯(熱帯多雨林)に属している。
しかし、ボルド達の荷物の届け先である、モールスモールは年中雪が吹き荒れる冷帯であり、カカオ豆の栽培をすることはできない。
しかし、モールスモールはチョコレート菓子作りの技術は王都と肩を並べるほど高い。
ボルド達の今回の任務はモールスモールに王都で栽培されたカカオ豆と、王都で作られたクーベルチュールを届けるというものだった。
車を、適当なところに止めて、3人は白銀の世界へと踏み込む。
「いつ来ても、モールスモールは寒いですね」
ハァと息を吐くと、途端に白い気体に変わり霧散する。
「あぁ、来るのは3回目だが、毎回この寒さには驚くな」
ボルドとカミーラはモールスモールに来るのは初めてではなく、しっかりと防寒着を着込んでいた。
しかし一方、この男はモールスモールの気候を舐めていたのか
「ねぇねぇ、こんなに寒いなんて聞いてないんだけど」
上着一枚のみで、この極寒地に繰り出していた。
「あれだけ忠告しておいたのにそんな恰好で来るお前が悪い」
マーブルが苦しんでいるをボルドは笑みを浮かべて見つめる。
「だって、冷帯なんて僕来るの初めてだし、あぁこんなんなら、王都でぬくぬくしてればよかった」
「いや、モールスモールじゃなかったら、お前、スカインの方の任務に連れてかれてたぞ」
スカインとは、ボルドの同期で王都で一、二位を争うレベルで厳しい部隊長である。
「えぇ、本当に?ボルドと一緒も嫌だけど、スカインと一緒の任務はもっと嫌だな」
「よし、雪の中に今から埋めてやろう」
ボルドはマーブルを掴み、周辺に適度が雪山がないか探した。
「やだやだ、絶対やだ!」
マーブルはボルドの手を全力で振り払った。
「まぁまぁボルドさん、落ち着いて」
するとカーミラは車の中から防寒着を取り出した。
「マーブルさんもどうぞ、もしものために予備で持ってきた上着です」
マーブルはすぐに受け取り着用した。
「ありがとうカミーラ!文句言ってるだけのボルドとは違うね」
「もういい、凍死してしまえ」
ボルドはそそくさと配達場所に歩き出してしまった。
ボルド一向はレンガ造りの老舗感漂う店の前に到着していた。
「ここが配達先のベルメット製菓ですね」
「ここがモールスモールで一番のチョコレート屋さんだね」
ベルメット製菓は毎年の売り上げランキングの上位勢で、モールスモールでは一番人気のあるお店である。
「そうですね、でもあれ?[CLOSE]と書いてありますね、配達時間は合ってるはずなんですけど」
しかし、定休日でもないのに店は閉まっていた。
「店内にもチョコレートは並んでないね」
マーブルは窓から店内を覗き込む。
「初めて来たときは裏口から入ったから、裏口に行ってみるか」
「裏口は開いているようですね、すみませーん、誰かいらっしゃいますか?」
カミーラが先に入り、誰かいるか確認する。
「なんだよ、裏口開いてるから誰かいると思ったけど、中は外と変わらないくらい寒いし、明かりもついてないし、もう僕が商品もらっちゃっていいかな?」
ボルドが運んでいる商品にマーブルが手を伸ばしたが、あっけなく振り払われた。
「触るなこの馬鹿垂れが、でもおかしいな、ベルメットのおやじは時間とかには結構うるさい人なんだけどな」
最初の配達で不慣れな雪道に苦戦して、遅れた際、酷く怒られたのを思い出した。
「くんくんくん、なんだか、甘い匂いが!あっちが厨房かな?ちょっと見てくるね!」
チョコレートには人一倍目がないマーブルが、チョコレートの匂いを感じ取ったようだ。
「あ、馬鹿、勝手に動くな!」
そんなボルドの声も届かず、マーブルは走り出した。
「ここにチョコレートちゃんがいるのかなぁ、ってわぁ」
厨房入り口で何かにつまづき転倒してしまった。
「およ、なんかにつまづいっちゃったよ、なんだこれ」
暗いため、何につまずいたかよく分からない。
「あ、電源のスイッチらしきものがありますね」
一方別の場所で、店の明かりをつけるスイッチを見つけたカミーラは
パチ
スイッチを押した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
するとすぐにマーブルが向かったほうから叫び声が響いてきた。
勿論、悲鳴の主はマーブルで、マーブルの目の前には、ベルメット氏がうつぶせに倒れていた。