チョコレート配達中
悪路もお構いなしに一台の車が颯爽と駆けていく。
「おい、商品に勝手に触るな、食べるな、そして銃弾に加工するな。」
運転手のボルドがルームミラーに映るマーブルを睨みつけた。
「別に一粒、二粒なくなったって、気が付きゃしないよ。こんな上物のチョコレート、久しぶりに見たよ。」
とマーブルは全く悪びれる様子もなくチョコを口の中にポイっと放り込んだ。
「支給品のチョコレートじゃ満足できないのですか?これはこれでいけますけど。」
助手席にすわるカミールが問いかけた。
「支給品も不味くはないんだけど、これと比べるとねぇー」
支給品は大量生産を目的としたもので、テンパリングやコンチング等が気持ち程度にしか行われていない。
「だから、食べるなって、お前、一粒、二粒なくても大丈夫とか言ってるけど、合計で何粒食べた!?元の量の10%は食べただろ!?」
さすがに食べ過ぎているのを見て、焦ったボルドが声を荒げた。
「10%も食べてないって、5%くらいかな?」
「おい!」
「あと5%銃弾の素材に使った。」
「もっと悪いわ!」
酔うから後ろの座席がいいと言って、マーブルを商品の近くに座らせたのをボルドは今とても後悔していた。
「マーブルくんは特段、チョコレートに目がないですよね。」
この世界の人間でチョコレートが嫌いな奴なんて一人もいないが、マーブルは少しチョコレートに対して執着する側面がある。
「味もそうなんだけど、やっぱりこのチョコで作った銃弾ってどれくらいすごいのかなってちょっと気になっちゃって。」
「ふっっざっっけな!商品が足りなくて怒られるのは俺なんだぞ」
ボルドはどうしようもない怒りをハンドルを握りしめてどうにか抑える。
「分かった、分かった。もうやめるからちゃんと前に見て運転してくれない?今にも人轢きそうだよ?」
マーブルとしゃべることに熱中していたボルドは前への注意が少しなくなっていた。
「ん?ぬぁぁぁぁぁぁ」
用語解説
テンパリング:チョコレートに含まれるカカオバターの結晶を最も安定した状態にする温度調整作業
コンチング:チョコレート製造の際にココアバターを均一に行き渡らせる作業