王子様がやってきた
王子様を助けるにはどうすればいいか?
薬師として一人前になるだけでは足りない。何事も準備が大事!
新しい薬を開発して、回復魔法も極めなくては。
十二歳で母に加護を使ってしまってから、私はそんなことを思い始めた。
この世界では、魔法を使える人は魔導士と呼ばれ、中でも回復魔法を専門にする人は聖女(男性は神官)と呼ばれて崇められている。
日本でやっていたゲームと同じく、魔法には火・水・風・土・雷・闇・光という属性があり、魔法が使える人はそのどれか1つに特化して長けているらしい。
が、中には複数属性を使える魔導士もいて、そういう有能な人たちは国に仕えていることが多い。
「魔法……回復魔法を上達させる!」
私は、薬の勉強と並行して魔法の勉強にも精を出した。
が、光属性の回復魔法は少々使えるものの、それは切り傷を治したり止血したり、汚れを浄化したりする程度で、魔法を生業にできるような高レベルではない。
素養があまりなかった、というのが最初にわかった残念ポイントだった。
でもこんなことで落ち込んでいられない。
「何か方法があるはず!」
訓練をすれば何とかマシになるはずだ。
いつ、何が必要になるかわからないから、しょぼい魔法とわかっていても私は諦めなかった。
元気になった母についてまわり、薬師としての知識を身に着ける。
そして、この世界で難病といわれる病を調べ、薬草を集めて栽培もした。
新しい師匠にも出会い、そのおかげでとんでもない効果を発揮する究極ポーションも完成する。
「やれることは全部やったわ……!」
そして、15歳の春。
いよいよ王子様との出会いが訪れた。
***
雪が溶けて穏やかな春がやってきた頃、マイヤーズ辺境伯領は隣国から突如として攻め込まれた。
最北端にある砦が死地となって、村や町が焼かれる煙が連日のように上がっている。
これまでの平穏は、一日にして崩れ落ちた。
おそらくはこれが、女神様のシナリオの山場なのだろう。
鬱展開とか苦手って言ってたじゃない!って叫ばずにはいられない状況だった。
父や3つ上の兄も出陣し、私と母は薬師や魔導士たちと共にケガ人の手当てに当たる。
そして、国軍が増援を寄越してくれた中に、当時17歳だった第二王子・エドフォード様がいた。彼はこの戦でおそろしいカリスマ性を発揮し、あっという間に敵軍を蹴散らして平和をもたらしてくれた。
あぁ、なんてすばらしいの、ヒーローTUEEE主義。
王子様とその側近たちは最強で、見た目も麗しい剣士ばかり。
活躍はすぐに辺境伯領から王都へと伝わり、これまでは不遇の第二王子だったエドフォード様は王太子として認められることになる。
が、勝利を収めてすぐ、シナリオ通りに病を発症してしまった。
私たちがいるのは、倉庫を個室代わりにした隔離部屋。感染者を出さないために、王子様にはベッドと書机があるだけの六畳サイズのこの部屋で休んでもらっている。
「私だけこのように個室を設けてもらって、すまないな」
ただの倉庫なんだけれど。
しかも個室対応じゃなくて隔離です。
謙虚な王子様は、金髪碧眼の見目麗しすぎるイケメンだった。そして身分に分け隔てなく優しい。
まさに王子様だった。
こんな人と恋に落ちるシナリオだなんて、女神様はわりと王道ストーリーが好きなんだなとしみじみ思う。
でも残念ながら、私の好みは中性的な美形ではなく男らしい感じで、ヒゲを生やした剣豪っぽい人が好きだ。
向こうにも選ぶ権利はあるけれど、多分私たちはお互いに好みではない。
心の中で「女神様、すみません」と謝罪する。
だが、たとえ恋には発展しなくても、私はこの王子様のために用意された加護を使ってしまったのだから、ここは責任を持って治療しなければ!
使命感に燃えた私は、お師様との共同研究でよりグレードアップした薬をエドフォード様に提供することに。
今、室内には王子様と私、そしてお付きの人が二人だけ。
医師や神官は、失敗を恐れて匙を投げたのだ。
「エドフォード様にお話がございます」
お師様の見立てでは、王子様の病は魔力が多い人が発症する心臓病の一種らしい。
小さなコブのようなものができていて、それを取り除けばもう再発はしない。
お師様と私の作った究極ポーションなら治すことができるけれど、発症者が少ないため副作用がまったくないかまではわかっていないのだ。
「薬があるにはあるんですが、飲むと胸に激痛を伴い、三日三晩苦しみます。それに、副作用が出る可能性も否定できません」
私が正直に話すと、エドフォード様は困ったように笑った。
「君は、私を治療してもいいの?もしも何らかの後遺症が残るとか死ぬようなことがあれば、王族を害したとして罪に問われてしまう。そうならないよう、私から一筆書いておくけれど、無事でいられるという保証はないよ」
自分のことより、私のことを心配してくれる王子様に私は感謝した。
「ありがとうございます。けれど、このままではお命が危ないのです。父も母も、責任を問われる覚悟で治療に賛成してくれました」
エドフォード様は驚いたような顔になり、そして笑った。
「少し考えさせてほしい。明日の朝には、返事をするよ」
「わかりました」