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男運ゼロの薬師令嬢、初恋の黒騎士様が押しかけ婚約者になりまして。  作者: 柊 一葉


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すべてのマウントを取られそうです

爽やかな朝の光。

真っ白いシーツに頬をつけ、ぐっすり眠っていた私はゆっくりと瞼を上げた。


そして目が飛び出そうになった。


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


「どうした!?」


広いベッドの上。慌てて飛び退いたのは至極当然のこと。

目を開けたら男性の脇腹があったのだから。それは誰かって、ゆったりとした白いシャツを着たラウルだった。


彼も眠っていて、私の叫び声で慌てて身を起こす。


「わわわわわわわ私は何を……!?」


「落ち着け、昨日飲みすぎて記憶がないんだろう」


前世では、目覚めたら他人のベッドだったことは多々あった。

女性の先輩・後輩、女性の友人、女性の……ってあれは全部女性と一緒だったから!


飲みに行った後、友人宅でまた飲んで、そして床で寝るなんてこともあった。


けれど、なぜ私は今、婚約者だと判明したその翌朝に彼と一緒に眠っていたのか。


記憶をたどれば、昨日私たちが婚約するとお父様に報告したら、大喜びで宴会になってしまったことが始まりだった。


20年物の赤ワイン。そしてお師様が作ってきたマッコリみたいな白くて甘いお酒。

よくわからないけれど、いっぱい飲んだ気がする。


エドフォード様は一人で部屋に篭って飲んでいるって、カイアス様が言っていて。様子を見に行くって、ラウルたちがいなくなった後、私はお師様とおつまみを食べながらどんどん飲んで……。


多分、そのまま机に突っ伏して寝たんだと思う。


「ここは……?」


領主館の一室だけれど、私の部屋じゃない。


「俺が借りた部屋。三階の客室だ」


「ひぃっ!私、あの、その」


服は着ている。ごくごく普通の寝間着のワンピース。

これって誰が着替えさせたんだろう、そう思って沈黙していると、ラウルが答えをくれた。


「ノルンだ。着替えさせたのは俺じゃない」


「あぁ、そうですか……ってなんでそのときに私の部屋に運んでくれなかったの?」


「俺も酔っていたし、リディアの部屋を聞いたが忘れた」


「忘れたって、えっと、まとめるとラウルが私を運んでくれたの?お父様でもお兄様でもなく?」


「そうだ。二人とも酔って泣きながら床で寝ていた。よほどリディアの婚約がうれしかったらしい」


でしょうね。宴会のとき、私の三度目の結婚を「マイヤーズ領の奇跡」って言っていたもんね。奇跡の防衛戦みたく名前をつけるのはやめてほしい。


「ご、ごめんなさい。迷惑かけて。あと、運んでくれてありがとう」


自分のしでかしたことにため息が出る。

酔ってその場で寝るとか、令嬢としてはあり得ない。


ラウルに女として見られないって思われていたらどうしよう。


「こんなかわいげのない女でごめんね……?」


気まずさに耐え兼ね恐る恐る目を向けると、彼はふっと笑った。


「寝顔はかわいかった」


「酒臭いのに?」


「酒臭いのに」


やっぱり酒臭かったんだ。

ショックで気絶しそう。でもラウルは楽しげな雰囲気を醸し出している。


「おはよう」


しかも神々しい笑みを向けてくる。殺傷力が高すぎて、私はときめきすぎてくらりと倒れかかってしまった。


これはいけない。


顔面マウントを取られ過ぎている。


料理の腕だってすぐに抜かれそうだし、やればやった分だけできそうだし、私の存在価値が危うい!!


口元を手で押さえ俯いて考え込んでいると、ふいに近づいたラウルにするっと絡めとられる。

朝からハグだなんて、そんなイチャラブ生活は私の辞書にない!


彼はマイペースで私の髪に指を差し入れ、硬直している私の反応を楽しんでいるみたい。


「これはまずいな」


「何が?」


「リディアが毎朝腕の中にいたら、寝室から出られなくなりそうだ」


ふぐっ!!

何この甘い発言はぁぁぁ!!私のこと殺す気!?

恋愛偏差値が2くらいしかないのに、いきなりこんな展開は無謀すぎる!


まだ起きて10分も経っていないけれど、もう3回くらいショック死した。しかもラウル、いい匂いがする。


「っ!?」


どうやってここから逃げ出そうかと考えていると、薄い寝間着の背中をするりと撫でられ全身が跳ねた。


「リディア……」


やめてー!

甘い声で囁かないで!

抱き締める腕の強さが増し、私の心臓はバクバクと激しく鳴っている。


ラウルは私の髪を左手で梳き、その隙間から覗いた首筋に唇を寄せた。


「んっ……!」


ダメだ。これはいけない。流されるな!

必死でもがいて彼の腕の中から出ようとすると、ラウルがそっと力を緩める。それから私の顔を覗き込み、少し残念そうに眉尻を下げた。


「嫌か」


「ちょっと心の準備が……」


なにせ、昨日まで私はあなたを王都へ帰そうと思っていましたので。

しかしここでラウルがとんでもないことを言い出した。


「俺以外にリディアの肌に触れた男がいるかと思うと、どうしようもなく嫉妬がこみ上げる」


「は?」


衝撃だ。まさか私が前夫×2と……!?

あれ、私ラウルに何て説明したっけ。「相手も私も、お互いに興味がなかった」って説明したような。


もしかして、結婚した義務として子作りはしていたと思っているの!?


これってどう考えても今すぐ否定した方がいいような。


「ラウル、私」


しかし説明しようとした瞬間。

客室の扉がコンコンとノックされた。


「ラウル?カイアスです。起きていますか?」


ひぃぃぃぃ!こんなときにやってくるカイアス様ぁぁぁ!!

私は慌ててシーツの中へ潜る。いないものとして扱って欲しい。


「起きている。何の用だ」


――カチャ。


ラウル1人だと思っているのか、カイアス様が部屋に入ってくる。

私はシーツに潜ってラウルの背中に隠れているが、バレる気がしてならない。

シーツの塊だと思ってもらえればいいんだけれど……!


びくびくしながら、息を潜める。


「朝食の後はエド様が予定通り視察に向かうので、そこにあなたもついてくるようにと」


「あぁ、わかった」


気づいていないのか、カイアス様は普通にしゃべり続けた。


「何でしたっけ、あの変態魔導士の方も同行なさるということでリディアにも声をかけておいてください。急ぎの用がないなら、一緒に来てもらったらと思っています」


「伝えておこう」


「それでは私はこれで」


用件だけ告げると、カイアス様はあっさりと踵を返す。

早く出て行って……!


しかし神様は、いや、カイアス様は無情だった。


「ラウル」


「なんだ」


扉の前で振り返り、なぜか憐れむような声で告げた。


「リディア嬢は、男と手を繋いだこともない人です。どうせ結婚するからといって、いきなりベッドに連れ込むのはかわいそうなのでやめてあげてください」


「「………………」」


私がいるのはバレていた。

そして勘違いされている。ラウルが私を連れ込んだのではなく、私が酔って寝てしまってここにいるのに。


パタンッと扉が閉まる音がして、私たちは再び二人きりになった。


私はカイアス様の暴露によって、シーツに丸まったまま出ることができない。自分で言うのはいいとしても、他人に憐れに思われるのは切ない……!


丸まってじっとしていると、私を包んでいたシーツがさっと取り払われてしまう。


「あぁっ」


「リディア、カイアスが言ったことは本当か?」


直球で聞くね!?

私は観念してベッドに座る。彼と向かい合い、ため息交じりに答えた。


「本当です。結婚はしていたけれど、誰とも手を繋いだこともそれ以上もないわ」


白状すると、何だか身体が軽くなった。

言ってしまえばたったこれだけのことだったのに、言いにくく感じてしまっていたのはなぜなんだ。


別に遊びまくっていたというわけではないんだから、さっさと言えばよかったのだ。今さらながら不思議に思う。


顔を上げると、ラウルが狼狽えていた。


「俺は……」


「ん?」


「昨日、キスしたのは、その」


あれか。もちろんファーストキスですよ。


「俺は勝手に思い込んで……リディアを傷つけたか?」


「あああ、大丈夫よ!?そんな顔しないで!」


落ち込んでいるラウルを見て、私は焦った。傷ついてなんかいないのに、俺なんてことをしたんだっていう顔をされたら困る。


「ほら、婚約したんだからキスくらいは……傷ついてなんかないし、嫌じゃないし、えーっと」


変に積極性を見せてもな。

私はどうすればいいのだろう。


急激に恥ずかしくなってきて、シーツに視線を落とす。


柄にもなくもじもじと手遊びをしていると、大きな手がきゅっと指先を握った。


「嫌でなければ、構わないか?」


「え」


そう言うと、ラウルは顔を寄せて唇を合わせてきた。


「んっ……!」


角度を変えて何度もキスをして、私は目を回しそうになる。

熱を持った唇が交わり、心地いいと思ってしまう自分が怖い。


けれど初心者にはさすがにもう限界で。

私は息が切れる前に、手のひらで彼の唇を覆った。


「もうダメ、死ぬ!」


「キスをして死んだ人間はいない」


そうだろうけれど!

こっちにはこっちのペースというものがある。例え亀のようだとしても、昨日からの怒涛の展開で混乱しているのだ。


「も、もう部屋に戻るから」


そう言ってベッドから下りると、ラウルが私の左手首を掴んだ。


「そんな姿で廊下を歩くな。無防備すぎると言っただろう?俺が侍女を呼んでくるから、支度をここへ持ってきてもらえ」


しまった。ここは客室のある階だ。

私の部屋に戻るまでに、誰かに会ってしまう可能性はある。


「お、お願い……」


「あぁ、着替えが済んだ頃にまた迎えに来る」


彼は私の頭をくしゃっと撫でると、椅子にかけてあった上着を手にして部屋から出て行った。


ぽつんと一人残された私は、やけに淋しく思える部屋で反省を繰り返す。


飲みすぎダメ。添い寝ダメ。

婚約者の前ではなるべくかわいい女であれ。


3つめはもう挫折な予感がするけれど、それでも私は恋愛スキルの低さを克服しようと決めるのだった。





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