さっそくシナリオを脱線しました
下っ端女神様(?)に転生させられた私は、リディア・マイヤーズとして新たな生を受けた。
意識がはっきりしだしたのは5歳くらいで、鏡を見たときは煌めく美幼女に悶絶したものだ。
長くてふわふわした髪は、温かみのあるミルクココアみたいな茶色。澄んだ海のようなターコイズブルーの瞳は、きらきらと輝いている。
これがラクラク恋愛シミュレーション転生システムの力か……!と感動してしまった。
『お人形みたい!王子様と恋に落ちる運命なのも納得だわ~』
山と海に囲まれた自然豊かな辺境伯領。
日本人だったときとは雲泥の差で、領主の娘という立場は恵まれた境遇に思えた。
リディアとなった私の家族は、父、母、兄。
父・ジェイズは、辺境伯爵家の当主でありニース国を守る騎士である。
え、山賊ですか?
ちょっとイケてる顔立ちだけれど、筋骨隆々の太い腕、太い首、銀色の鎧に身を包んだ姿は畏怖の対象だった。
『おおお!今日も我が娘は素晴らしく愛らしい!!』
『お父様、お髭がジョリジョリするー!痛い!』
貴族である前に国境を守る騎士だから逞しいことは当然。でも、第一印象は"高貴な山賊"だった。
私には三つ上の兄・リオスがいて、どう見ても美少女な彼は私と同じく母親似だった。本当に父の子!?と、一瞬疑ってしまったけれど、私も兄もめずらしい瞳の色が父親似なのでどうやら本物の親子らしい。
母・アメリアは辺境伯爵夫人でありながら、代々薬師を生業にする家系の出身。私にその知識を惜しみなく与えてくれた。のほほんとした明るい人だけれど、仕事に関してはとても厳しく、患者には優しい。
私はそんな母が大好きで、とても穏やかな少女時代を過ごし、どんどん知識を身に着けていった。
『あぁ……”誰でも簡単!ラクラク恋愛シミュレーション転生システム”って最高』
女神様に感謝し、幸せな日々を送る私。
が、十二歳になったとき、私たち家族は悲しみのどん底に突き落とされることになる。
母が疫病の発生する地域での治療へ向かい、戻ってきて半月後に自らもその病に倒れたのだ。
しかもかなり無理していたらしく、病状は末期だった。
父は憔悴し、兄や使用人たちもつらそうで、私は何とかして母を救いたいと思った。
『どうか、お母様の病を快癒させてください……!』
私は女神様から授けられていた加護に縋った。
この力は一度きり、王子様のために授けられた力だとわかっていたけれど、私はあっさり母のためにそれを使った。
だってそうでしょう!?
迷いなんてない。
愛する母は、会ったこともない王子よりも何倍も大事だもの!!
そして見事、母は快癒した。奇跡だと誰もが歓喜に湧いた。
まぁ、そうよね。女神様の加護ってすごいから。
『あぁっ……!リディア』
『お母様!!』
母と抱き合い、家族がこれからも一緒に暮らせることに私の心は満たされる。
けれど、安堵したのも束の間。
(あれ、どうしよう……!このままじゃ王子様が死んじゃう!?)
いくら”誰でも簡単!ラクラク恋愛シミュレーション転生システム”でも、加護なしではそう簡単に王子様の病を治せないだろう。
さすがに見殺しにはできない。
今はまだ何とも思っていないけれど、自分と恋に落ちるかもしれない人が病気になるとわかっているなら、私が助けるしかない!
(やれるだけのことをやろう!)
何事もアクシデントは付き物だからね!
イベントプロデューサーの仕事でも、どれほど入念に準備を進めたって絶対に大小アクシデントは発生する。
大丈夫。きっとできる!
それから私は、これまでにも増して病やケガの研究、回復魔法の鍛錬に励むことにした。