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男運ゼロの薬師令嬢、初恋の黒騎士様が押しかけ婚約者になりまして。  作者: 柊 一葉


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それは語弊です

「命の前借り」によって復活を遂げたラウルは、驚くほどの回復力を見せた。

私がこれまでに診てきた一般人とは、基礎能力が違うのだろう。彼の回復速度は、一般人の2~3倍かもしれない。


「腕が治ったのは何よりだけれど、あの動きは羨ましいを通り越して腹立たしい」


「ノルン、仕方ないわよ。あの人は黒騎士様だった人なんだから」


ライバル意識を燃やすノルンを宥めることしばしば。

彼は目を覚ましてから三日で剣を握って素振りをはじめ、さらに二日後には見舞いに来たノルンやうちの騎士を相手に双剣で模擬戦を行っていた。なまった身体を早く戻したいのだとか。


休憩で戻ってきたラウルを見て、私はタオルを渡して苦笑する。


「全然なまっているように見えないんだけれど」


あれかな、アスリートが「本調子じゃないです~」って謙遜するあれかな。こっちからすれば、異次元の動きなんだけれど。


ラウルはしばらく黙って汗を拭いていたが、私を見下ろしてぽつりと口を開く。


「感覚がまだ戻っていない。今、大軍勢に奇襲を受けたら数に押し負けると思う」


「いや、奇襲とか受けないから。うちは平和な薬屋だから」


「左腕がもう元通りにはならないとわかってからは、ひと月ほど剣を握っていなかった。剣が重く感じる」


そうだろうなぁ。悲しいかな、三日も訓練を休めば筋力は減ってしまう。

ラウルの場合は動かすこともままならなかったんだから、左の腕力は毎日鍛えているノルンよりも劣る状態だろう。


こればかりは地道にトレーニングをしていくしかないので、焦らずじっくりやって欲しいと思った。


「私の手伝いの時間も訓練に当てていいのよ?やりすぎはダメだけれど」


ラウルは薬や道具の運搬、ギルドまでの護衛をしてくれていた。護衛なんて大げさだな、と思ったけれど、夕方や夜に出かけるときには頼もしい。


「いや、ただ世話になるのは気が済まない。この身体を好きにしてくれていいと言っても、リディアは嫌がるのだろう?」


「その言い方やめてくれない!?」


私がイケメンを弄ぶみたいに言わないで!彼はいつでも薬の実験台になると言っているのだが、この身体を好きにしてくれていいなんて言ったら周りは勘違いするに違いない。


わかっているのか、いないのか、ラウルはかすかに口角を上げた。


「あ、笑った」


「?俺だって笑うことくらいある」


そうかな。

ここに来て笑ったことってあったっけ。皮肉るみたいに嫌味に笑うことはあったような気がするけれど……。


「「…………」」


じっと観察していると、ラウルも目を逸らさず私を見返してくる。

そこに甘さはまったくなく、互いに観察し合っているだけだったのだが、ノルンにはそう見えないみたいで私たちの間にずいっと割り込んできた。


「リディア、お父上からお手紙を預かってきたの」


「お父様から?」


ラウルがここで治療を受けていることは、父には伝えている。万が一、何か起こったときに責任を問われるのは父なので、知らせないわけにはいかない。


ノルンから手渡された手紙を読むと、そこにはおそろしい言葉が書き連ねられていた。


『愛しい娘 リディアへ』


書き出しはまぁ、普通だ。


『この間は父が悪かった。子爵家へはお断りをいれておいたから心配ない。リディアによき伴侶をと思うあまり、先走ってしまった。だがもう安心だ。あの黒騎士様がおまえの婿に来てくれるなら、うれしいこと限りない。絶対に、絶対に治療して恩を売ってリディアから離れられないようにしておくんだよ』


とんでもない内容だった。

お父様!ラウルは婿ではありませんからね!?


しまった、父が「黒騎士様」の名声を知らないわけはなく、強い男ならいい男に見えてしまう病を患っているのだから、私との縁談を望むのは当然だった。


……教えなきゃよかった?


しかも恩を売って離れられないようにしろって、そんなことできるわけないじゃない。


「はぁ……」


ため息をついて、父からの手紙を小さく折ってポケットにしまった。

あとで燃やしてやる。






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