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男運ゼロの薬師令嬢、初恋の黒騎士様が押しかけ婚約者になりまして。  作者: 柊 一葉


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もうおかしな男はこりごりです!

冬の間は三か月ほど雪に閉ざされるマイヤーズ領。

そろそろ雪解けシーズンで、今日は春らしい陽気な気候で気分がいい。


二度目の離縁から、約一か月。

私の暮らしは落ち着きを取り戻しつつあった。


長い髪を緩く編み込んだ私は、革のブーツに赤いチェックのワンピースを着て街に出かけていた。作った薬を、なじみの治癒院やお店に卸すためだ。


私は辺境伯の娘であり、薬師であり、この街の住人には毒姫とも呼ばれている。

なぜって、毒草を育てて薬を作っているから。


それに薬草の中には、葉は生薬になり、根は毒になるものもある。毒と薬は使い方によってその性質を簡単に変えることがあるのだ。


ただし人々にとって、私が育てている毒草は恐怖でしかない。

昔はそうでもなかったけれど、私が最初の結婚をした頃から「毒姫」なんて噂が突然流れ始めた。


多分、美しすぎる最初の夫に恋していた誰かが意図的に流したんだろう。幸せな結婚生活どころか、その本人すら私の元にいないのに、妙な噂だけが残るなんて迷惑極まりない。


あぁ、そういえば私が怖がられている理由はそれだけじゃなかった。

治療するときの行動が恐ろしいからだという理由もある。


国境で他民族との小競り合いが起こったときには、回復魔法が使えるのでケガ人の治療にも当たることもあり、ケガ人の治療に当たっていた私を見た騎士や下っ端の兵は、私の治療法を見て恐れおののいてしまった。


こちらとしては、正気を失ったケガ人を抑えつけることも、無理やり薬を飲ませることも医療行為なのだが、大男相手でもそんな治療を行う私を見たらとても普通のご令嬢とは思ってもらえないらしく……


そんなよくないイメージが結集した結果、あだ名が「毒姫」になったのだ。

一応、姫というのは辺境伯に対する敬いかしらね?


悲しいかな、お師様が冗談でいったように「立派な魔女」になってしまったのだ。


「こんにちは~。いいお天気ですね」


「こ、こんにちは……」


あぁ、今日も街の人の視線が怯えを含んでいる。声をかけて返事をしてもらえるだけマシなのか、それとも無視できないほど怖がっているのか。


うら若き女性に対して、一体何をそんなに怯える必要があるのかしら?

怒らせたら毒で始末されると思っているんでしょうね。


私が理性ある人間だというのは、二人の元夫がまだ生きていることで証明できると思うんだけれど。


人通りの多いにぎやかな大通りをいくと、時計台のある広場に到着する。

その広場に面したレンガの建物が、私がよくお世話になっている治癒院だ。


――カラン……。


扉を開けると、軽やかな鈴の音がした。

手前のテーブルや椅子に座っているのは、なじみのご老人方。


今日いるメンバーは、皆うちの騎士団を退団した初老の元騎士を夫に持つ奥様たちで、私のことは小さい頃から知っているのでとても優しい。


毒姫なんて噂を立てる人たちとは違って、「うちの孫可愛い」みたいなテンションで私を甘やかす人たちばかりだ。


しかし、奥方の一人であるマリア夫人が恐ろしいことを口にした。


「あら!リディアちゃん、いいところに来たわ!昨日、あなたのお父様がレグゾール子爵家を内密に訪問していてね」


内密に訪問したことが、奥様ネットワークにバレている。

そこはまぁ、置いておいて。


レグゾール子爵家といえば、三人のバカ息子を輩出……じゃなかった、騎士を輩出している剣の腕だけは確かな武門だ。


あああ、とんでもなく嫌な予感がする!


「多分、三男のウォルフィをリディアちゃんの婿にっていう相談じゃないかってみんなと話してたのよ~」


やっぱり!!

お父様、なんでじっとしておいてくれないの!?


私は倒れそうになるほど眩暈を感じたが、倒れている場合じゃない。


「昨日!?昨日ですよね!?わかりました、すぐに父と会って来て断ります!」


「「「そうした方がいいわ」」」


奥様たちが揃って頷いた。


レグゾール子爵家の三男・ウォルフィといえば、ワガママで気性が荒く、でも剣の腕は一流というやっかいな人物だ。


剣の腕だけで父が私の婿にしようとしていることは明らかで、そんなことをしようものなら私の三度目の離縁が決定したも同然である。


なんで二度も失敗しているのに、またおかしな男を縁組しようとするの!?いい加減にして欲しい。


わかってるけれど!

年頃でいい感じの婿候補の男子はみんな婚約者がいるって、わかってるけれど!


それにしてもウォルフィはないわ。

25歳でまだ一度も婚約者がいない理由なんて、性格が最悪だからに決まってるじゃない。


「このままじゃ、また変な婿をもらわなきゃいけなくなっちゃう!こうなったら最後の手段を使うしかない……」


私は急いで薬を売却すると、辻馬車を拾って他の治癒院や商家を回り、まだ午前中のうちに伯爵邸へと戻っていくのだった。




マイヤーズ家へ戻り、訓練場にいたお父様を捕まえた私は、開口一番で「もう縁談は要りません!」と言い放った。


いくら騎士として優秀でも、もう三度目の失敗はしたくない。

しかもまだ二度目の離縁から一か月だ。せめて一年は待ってもらいたい。


お父様は相変わらず筋肉質な巨人であったが、訓練場にまで乗り込んできた怒り心頭の私を見て半泣きだった。


「泣きたいのはこっちです!もう剣の実力だけでお相手を探すのはやめてください!」


キッと睨みつけると、お父様もその部下たちも直立して震えあがる。

こんな小娘一人に何をそんなにびびっているんだと、さらに腹立たしく思えてきたけれど、自分が握りしめていたものが痺れ薬の材料になる薬品の小瓶だったことに気が付いてそれを引っ込めた。


「とにかく!私はお父様の選んだ相手とはもう結婚いたしません!これからすぐに王都に向かい、お兄様に会ってまいります。そして誰か婿を紹介してもらいますから!」


そう宣言すると、私は邸にあった荷物をバッグに詰め込んで馬車に乗りこんだ。

幼なじみの女騎士・ノルンを護衛として連れ、すぐに王都へと出立する。


金髪美女のノルンは美しい容姿も特徴的だが、辺境伯領で五指に入るほどの強さ。そして何より、おしゃべりも楽しくて気が楽な相手だ。


王都までの道のりは馬車で三日もかかるから、ずっと一緒にいられる人でなければ護衛にしたくない。


「よろしくね!」


「とうとう家出するの?」


「違うわよ。王都でお兄様に会う、という口実でエドフォード様に面会しようと思っているの」


こうなったら最後の手段、王太子様に誰か婿候補を紹介してもらおう。私はそう思っていた。

エドフォード様と友情は芽生えているので、かわいそうな友人に誰か婿を紹介するくらいは快く引き受けてくれるはず。


それにエドフォード様は病が完治して以来、かなり自由奔放な女性関係を築いていると聞いている。

つまり、イイ男と悪い男の区別がつく!


「結婚が三度目にもなると、王太子権限でもふるってもらわないとまともな人と巡り合えない気がするの」


「まぁ、それはそうかもしれないけれど」


ノルンはちょっと不安そうだけれど、うちのお父様が連れてくる相手よりはいいと判断したのか納得してくれた。


「私が男であれば、リディアの婿に立候補したんだけれど……残念だわ」


荷物を積み込み、そんな冗談を言う。


「ノルンが男なら最初の婿があなただったはずよ。それで生涯幸せになれたでしょうね」


ちなみに彼女にはしっかりと婿がいる。ノルンも家を継ぐ立場で、二年前に従兄と結婚した。


「ごめんね、人妻を王都まで急に連れ出して」


「構わないわ。彼は砦の警備についているので、一週間は戻らないし。行って、戻ってきたときに事後報告でも大丈夫なくらいよ」


この夫婦は二人とも騎士だから、互いにあまり干渉しない暮らしをしている。でも関係性が希薄かというとそうではなく、信頼の上に成り立っている自由な暮らしが私はとても羨ましい。


「私にもノルンみたいな結婚生活が送れるといいんだけれど」


理想を口にすると、ノルンはにっこり笑って言った。


「私は、リディアが恋に落ちて右往左往する姿が見たいわ」


「ふっ……そんなことになって欲しいものだわ」


まったく想像できない。

まだ21歳なのに、二度の離縁で随分と心が枯れてしまったものだ。


「私が恋をするなら、素手で巨木モンスター(ブラックトレント)とは言わずとも、コモドドラゴンを仕留められるくらいの男の人を紹介してもらわなきゃ」


「は?どこの山賊を婿にする気?それとも魔王?」


お父様の目が節穴だっただけで、きっと顔の広い王太子様なら私と添い遂げられる強い男性を知っているはず。


こうして私は最後の賭けに出たのだった。




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