お勤め果たしてまいります
「……よし、あとは壊れた噴水の中心に立って待つだけだな」
全身に泥をまとって噴水の前に戻ってきた。
今は4時、夜明けまでもうすぐだ。
恐らく人通りがチラホラと増え始めるのが6時ごろ、そこを乗り切って8時半まで何とかしのぎ切るんだ。
「体の泥が固まり始めたな。この後動いてしまうと土がポロポロ落ちてしまうから、その前にポーズを……」
俺は噴水の中心にあるせり上がった場所に立ち、ダビデ象っぽいポーズを取った。
よし、これならイケるだろ。
ダビデ象だったら皆ち〇ち〇には何の違和感も感じない筈だ、だって芸術なんだから!
◇ ◇ ◇
そして6時になった。
まず町娘風の子が桶を持って通りがかりる途中、此方を見て立ち止まる。
首の角度が変えられないからハッキリとは分からなかったが、芸術を楽しむ様な眼差しでなかったことは確かだった。
次にその子は、どうやら自分のお母さんらしき人を引っ張ってきた。
それを皮切りに、新聞配達のお兄ちゃん、早起きのおじいちゃんも、後から徐々に増えていく。
やばい……やばいが今更後には引けない。
そしてとうとう、最も恐れていたポリスメンがやってきた。
「あれですポリスメン、気づいたら噴水の前に……。でもアレってもしかして…人…間?」
「はいはい落ち着いて、ポリスメンの私が調べよう……あーそこの銅像君、もしかして喋れちゃったりする?」
やばい、なんて答えればいい!? いや答えちゃダメだろ!! じゃあどうする、どうする!?
ゴーン ゴーン
悩んでいた今まさにその瞬間、目の前の時計塔が鐘の音を鳴り響かせた。
俺もびっくりして動いてしまうが、皆もその音に一瞬気が逸れた。
しめた、逃げるなら今この瞬間しかない。
そう思って一歩動こうとした瞬間、足元から大量の水が一気に噴き出す。
「はぁっつ!!!」
恐らく六時半になると自動で動くようになっていたであろうその噴水が、俺のアスタリスクを見事に直撃。
そのダメージで俺はまた教会に戻った。
◇ ◇ ◇
「おお、五郎様よ。死んでしまうとは情けない」
「助かったのになんだこの敗北感……初めてが人間でさえないだと…」
「あなたを次のレベルにするには0の経験が必要です」
「忘れろ、忘れるんだ俺。さっきは何もなかった、俺は今起きたんだ…」
「それではさらに高みへと上るのです……ィ゛エ゛イ゛メ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ン!」
「あ……なんか今泣きそう。俺は広場に何をしに? いや広場なんて俺は行ってない……夢だったんだ」
「何があったか知らないけどさー、これで涙を……」
「それパンツじゃねーか! ……ぐぅっ」
勢いで足を踏み鳴らすと、さっきもらった痛みがもう一度俺を追いかけてきた。
さすがだ異世界生活、二日目だっていうのにド派手なイベントだったよ。
じゃあ、もう今日はもう大人しくしてよう……そう腐りかけたその時だった。
まだだといわんばかりに教会の扉が開いて、光の向こうから奴が来た。
「……そこの全裸の君、さっき噴水の上にいたね?」
ああ……そうだったな、と気づく。
俺にはやるべき仕事が待っているんだ……。
「どういうこと……君は一体何を……」
心配した声の神父に、俺は優しく微笑みかけるとポリスメンのほうに向かって歩いた。
「はい、私がダビデです……」
「うん、殊勝な心掛けだね。ポリスメンちょっと感心したよ」
「じゃあ、連れて行ってください……」
「いや、その前にポリスメンとしてはパンツを履いて欲しいんだけど……」
何も言わずに両手を前に出すと、ポリスメンは戸惑いながらも縄をかけ始めた。
「……お勤め、果たしてまいります」
振り返らずに、別れの言葉だけを残す。
「五郎様ー!!」
俺の名前が、教会の中にとどろき響いた。
「外に出るならせめてパンツをー!!!」