たまに見る転生場所のピンク色のモヤってなんだ?
――気が付くと俺は、まどろみの中にいた。
ああ~超きもちいい~、なんも言えねぇ~。
体が重いんだかだるいんだか、いや気持ちいい…じっとしてたい。
さっきまでどうしてた~だとか、煩わしくて考える隙もない。
……あ、でもなんだ。
そうそう、確かここで渾身の力を振り絞って目を開けるんだよ。
そしたら異世界に行けるって五輪の書に書いてあったんだ。
目を開くと、ピンク色をした雲の群れとLEDみたいな小粒の光達がゆらゆら漂う世界にいた。
「……なんか、エロい空間だな」
◇ ◇ ◇
というわけで、多分俺は異世界転生に成功した。
「あー……、ずっとぬるま湯の中にいるみたい。息も多分してないよな、これ」
俺が喉を触ったりしてると、女性がパッと目の前に現れる。
でもダメだな。正直繋いだだけでエフェクトかけてないのが全くエモ感ない。
「ようこそ、第二の人生へ…」
で現れた女性はにっこり微笑んで俺に話しかけてきた。察するに年は18歳ぐらいだろうか。
容姿は……んー、服装とか顔とか全部どうでもいい。
「えーと、誰?」
俺がそう言うと、その女性は一呼吸おいてわざとらしくコホンと咳き込んだ。
「……え?」
咳……何かに気づけと? えーと……いや、わからん。
とりあえず笑って返してみると、女性は溜息をついた。
「……成程わかりました。改めましてようこそ、私はナビゲーターのルビィです♪」
「ナビゲーター……もっと色々言いまわしたりして世界観を大事にする気はない訳?」
彼女は舌打ちをし、その後すぐ笑顔に戻った。
「……ところで、ここはどこ?」
「ここは新しい世界の為の自分を想像す♪ ……やっぱりめんどくさい。キャラクリステージです♪」
「声色だけ艶やかなまま言われても……」
「早く異世界に行きたくないですか? 黙ったらすぐ行けますよ♪」
笑顔の奥に凄みに気づいて、俺はすぐ口を閉じる。
彼女は笑顔のまま、また舌打ちをした。
◇ ◇ ◇
「それでは説明いたします♪」
ルビィの話では、キャラクリには二種類あるらしい。
レベルが1から始まって能力が低いが、初期ステ値が何度でも吟味できるコース。
全能力値を一回限りのダイスロールで全部決めるコース。
「ていうか数値って…まるでゲームみたいなんだけど」
「見えないより見えるほうがわかりやすいって評判ですよ♪ 努力の甲斐があるって皆さん仰います♪」
「そうかなー、そうかも」
「ちなみに二つ目はあんまり期待しないほうがいいですよ♪ 桃鉄の一年目みたいな感じで考えてみてください♪」
「完全ランダムじゃないのか。ていうかいちいち何その微妙な説明」
「私が日に何匹捌いてると思います? 察して貰えれば幸いです♪」
……えーと。
「一つ目は、あくまで初期ステでしかないんしょ?」
「そうです♪ 以降はレベルアップ毎に経験分のステ上昇を致します♪」
「じゃ、あんま意味ないな。皆ダイスロール一択でしょ?」
「あなたの様な方のほうが少ないです♪ 自意識過剰ですね♪」
そうかー、皆結構ビビりなんだなー。
……あれ? 俺今ディスられた?
「さっさと決めて異世界に行け♪ どちらにしますか?」
「チッ、ダイスロールで」
「はい、じゃあボタンを押してください」
ボタン押すのかよ。
俺がそう思うタイミングと同時に、まんまアーケード筐体が現れた。
「うわぁ…色々あるけど一言で表すと不安。大丈夫か俺の行く異世界」
「事あるごとに一々グチャグチャと♪ お時間かかる様なので次のお迎えに行ってますね♪」
「え!?」
俺が呼び止めようとする前に、彼女はパッと雑に消えた。