第6話 めちゃめちゃな神に振り回されます! その1
1人の女性が殺風景な部屋の中で机に向かっていた。
肩甲骨まである炎のように赤い髪に、エメラルドのような緑色の瞳。少しキツそうな顔つきだが紛れもない美人だ。
そんな美人が机に置いてある水晶を退屈そうに頬杖をついて見ていた。水晶には緑髪の少女と金髪の少女、あと立ち尽くしている黒髪の女性がいた。
すると次の瞬間金髪の少女の周りに魔法陣が現れた。そして、絶望した表情のまま光に包まれ消えていった。
あーあ、かわいそうに。
「あははは!」
広く暗い空間に高らかな笑い声が聞こえる。
「アル、見てるんでしょ。おいで」
そう呼ばれ、アルこと私、アルベラは立ち上がり、空間に円を描き門を生成する。生成した門をくぐると私が見ていた暗い空間に出た。
「先輩、どうかしましたか?」
「ううん、呼んだだけー」
そう、認めたくはないがこの人を馬鹿にしたような笑みを浮かべる緑髪の少女こそ私の先輩のロベリアである。
遡ること20分前
コンコン
静かな部屋で読書をしていた私の部屋にキツツキの如くノックする者がいた。
「はーい!」
コンコンコンコン!
返事したがノックは鳴り止まない。それどころか、さっきより加速している気がする。
「どうぞー! 開いてますよ!」
コンコンコンコンコン!
ノックはもちろん鳴り止まない。こういう時は無視しておけば相手の方が飽きてくるはず。耐えろ、アルベラ。我慢の先に勝利はある。
コンコンコンコンコンコン!
「…………」
コンコンコンコンコンコンコン!
駄目だ。我慢できない。
「あー! もう、何なんですか!」
遊ばれていると分かっていても思わず扉を開けてしまった。
「あー、86回か。せめて100回はやりたかったな」
予想通り扉の前には緑髪のちんちくりんの少女がいた。途中で謎の挑戦を阻止されたのが嫌だったのか、先輩は少し残念そうな顔をしている。
「先輩、何してるんですか?」
「あ、そうだ。次の転生者呼びたくて。水晶借りるよ」
「あっ! 先輩、ちょっと待って!」
私の言うことなど一切聞かず先輩はズカズカと部屋に入っていった。
私の仕事は水晶を使い様々な世界から適性者を見つけここに呼び出す事と、その人と関わりがあった人達の記憶操作。先輩の仕事は呼び出した人への願いを聞き、それにあった世界へ転生させて全力でサポートする事だ。
けど、この先輩ときたら――
「可愛い子いないかなー?」
気に入った子を見つけたら呼び出し、ある程度会話して飽きたら異世界に転生させる。それの繰り返しだ。
「おっ! アル、この子がいい」
食い入るように見つめていた水晶から顔をあげた。そして、まるでお菓子売り場で気に入ったお菓子を見つけた子供のような笑顔をでこっちを見る。
無視したい気持ちはあるが、放置していたら床に寝そべって喚き始めるかもしれない。はーっとため息をつき仕方なく水晶を覗き込む。
「ん? この子ですか?」
先輩が見つけたのはごく普通の女の子だった。なぜこの子だけがこんな暗い部屋にいるのか不思議だが、それ以上になぜこの子を選んだのかが気になった。
「アル、これ何?」
水晶を指差し女の子が机の上に置いてある容器を指さした。
「あー。カップラーメンですね。熱湯を入れるだけで料理ができる物です」
「おお! じゃあ、あの子と一緒にあれも転生させて! なんならあの子いらないから」
はー、本当にこの先輩は自由だな。でもちょっと心配だ。あの子にどうして呼び出した理由を聞かれたとき、『カップラーメンがあったから』なんて答えないよね。
そんな不安を胸に抱きながら、仕方なく召喚を始めた。