第5話 鬱々な日々から抜け出します! その5
「決まったー?」
ラーメンを食べ終えたロベリアは食べ終えた容器と箸を片手に満足げな顔でこちらに来た。
頭の中でキャラメイクと転生先の内容については大体決まっているが、問題は無双スキルだ。
私が学校に通っていた頃、授業中によく特殊能力を使って無双する妄想していた。けれども、いざそれが実際に行えるとなると迷ってしまう。
「も、もう少し待ってください。あとちょっとで終わりますから」
あー、本当にどうしよう。剣とか武器を使う系の能力は憧れるけど私体力ないしな。そう考えたら魔法系の方がいいかな。でも、やっぱり……
ポン
「へ?」
夢中になりすぎて気がつかなかった。いつの間にかロベリアが私の目の前まで来て、私の頭に手を置いていた。
「ヒール」
そうロベリアが呟くと私の体が淡い緑色の光に包まれた。そして、徐々に光が弱まっていった。
「頭、大丈夫?」
私の頭から手を離したロベリアは、少し首を傾げ心配そうに私を見つめた。
あ、そうか。そういえば、ここに呼ばれる前に思いっきり頭ぶつけたんだった。それを治すためにロベリアは回復魔法をかけてくれたんだ。
うん、言われてみれば頭の痛みが完全になくなった。びっくりした。一瞬馬鹿にされているのかと思った。まさか、こんなかわいい子が暴言なんて吐くわけないか。
「で、これが転生先でのあなたの姿だけど」
戸惑う私を気にする事なく、ロベリアは自身のすぐ隣に少女を召喚した。
腰まである金髪に大きな目にキラキラ輝く金色の瞳。身長や顔立ちからして中学生ぐらいだろうか。服装は冒険者の初期装備のような感じだ。顔といい身長といい、全体的にロベリアとどことなく似ていて並ぶと姉妹に見える。
しかし、願わくばもう少し身長と身体の凹凸がほしい。でも、神がせっかくキャラメイクしてくれたのにわがままを言うのもバチ当たりな気もする。
「おっけー。問題なさそうだね」
問題あるような顔をしていたはずだがロベリアは気がつかなかったようだ。金髪の少女にラーメンの容器と箸を持たせてから距離を置いた。
ロベリアがパチンと指を鳴らすと目の前に死んだ目をした私が立ち尽くしていた。
「……すごい」
中身が入れ替わったのに気がつくのに時間がかかった。いつもより見える世界が少し低い。しかし指の綺麗な手にすべすべの肌。髪もつやつやでいつまでも触っていたくなる。その場でくるりとターンすると遅れて髪がなびく。ラーメンの容器が雰囲気をぶち壊すが、いつか見た海外映画を思い出させる。
「あ、ありがとうございます! で、転生する世界はいろんな種族の人達がいてイケメンや美人さんがいいです。あ、あと、私は最強だけど何もしなくてもイケメンがお姫様扱いしてくれる生活がしたいです! で、特殊能力ですけど、万能天才魔法使い見ないな感じで。何しても最強みたいな感じにしてください」
「…………」
隠キャ独特の早口で要望を全て伝えるが、ロベリアは何も返事をしない。それどころが全く興味がないのか、指に髪をくるくる巻きつけている。
あれ? 私、怒らせた? それにさっきまでのかわいい雰囲気とは違う気がする。
「あ、あの……ロベリア、さん?」
「あ、ごっめーん! 話聞いてなかった! じゃあ転生するよ」
悪びれた様子もなく、ロベリアは転生の魔法陣らしきものを展開する。
「あああ! ちょ、ちょっと待っ……」
「good luck〜(笑)」
光に包まれる中で最後に見たのは、無駄にいい発音の神の人を馬鹿にした笑顔だった。