第3話 鬱々な日々から抜け出します! その3
カチャリ
それはお湯を入れて1分も経っていない時になった音だ。
「!」
え? なんで? まだ4時半なのに。早退してきたのかな?……じゃなくて早く部屋に戻らないと!
慌ててポットのコンセントを抜き、ラーメンのお湯がこぼれないように、かつ迅速に部屋に戻った。
私が部屋に入るのとほぼ同時に玄関のドアが開いた。
「ただいまー」と母の声が聞こえる。
どういう理由で早退したか分からないが、せめてラーメンを食べ終えるまで帰ってきて欲しくなかった。
とりあえずアニメでも見ながらご飯食べよっと
ラーメンを片手に充電中のスマホを拾い上げる。電源ボタンを何度か押すがまだ電源がつかない。まだ再起動できるほど電気が溜まっていないようだ。
「はー、ほんと最悪!」
少し大きめの独り言を呟き、八つ当たりするように勢いよく椅子に座る。充電コードが抜けないようにスマホを机の上に置いた後、何分経ったか忘れたラーメンの蓋を剥がし、ズズズとすする。
ブー!
バイブレーションとともに先ほどまで真っ暗だったスマホの画面が白く光り出した。画面には『welcome』と表示されている。
あれ? こんな文字って表示されたっけ?
思わず食べる手を止め画面を見入る。
すると『welcome』の文字が消え新しい文字が現れた。
『おめでとうございます! あなたは異世界への転載者に選ばれました。転生を希望するなら今すぐ画面をタップ!』
「は?」
何これ? 新たな詐欺? 怪しすぎるでしょ。多分タップしたらどこかのサイトに飛ぶやつでしょ。とりあえず無視するか。
ブー! ブー! ブー!
再びラーメンを食べようとした私に催促するかのように再びバイブレーションが始まる。
画面に表示されるぐらいなら別に気にしないが音が出るのはまずい。異変に気がついた母が私の部屋に来るかもしれない。
慌ててスマホの電源ボタンを長押しする。
しかし、電源は落ちない。
ウィン! ウィン! ウィン!
さらに催促するかのように今度は地震が来たときのサイレンみたいなものまで鳴り始めた。
「あー! もうわかったから!」
半分キレ気味で画面を連打する。すると音が消え画面も暗くなった。
連打する手を止め画面をよく見る。しかし、どこのサイトにも飛んでいないし、周りを見ても異世界にも転生されていない。
「何なの? これで終わり?」
なぜか少し残念な気持ちになった私は、念のためもう一度画面をタップする。
バチッ!
指と画面の間に青白い電気が流れた。
「痛った!」
指先をドアに挟まれたような痛みがした。あまりの痛みに椅子から転げ落ちてしまう。
ゴン!
勢いよく転げ落ちた弾みに頭を床で強打し鈍い音がする。
最悪だ。本当に今日は最悪だ。
「痛たた……ん?」
頭を押さえながらゆっくり体を起こす。しかし、私が体を起こした場所は見慣れた自分の部屋ではなく、どこまでも広く暗い空間だった。