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07.『きちんと向く』

読む自己で。

「んん……あ、初音さん、おはよう」

「うん、おはよ。あはは、ずっと寝てたね」

「ごめんなさい……足、辛くなかったかしら?」

「うん、大丈夫だよ」


 麗もソファに寝っ転がって寝てしまっているので実は少し暇だったけど、美人さんの力になれたのなら私はそれだけで疲れが吹き飛ぶというものだ。

 麗子は体を起こして目をこする、まだ眠たいのかもしれない。


「麗は……寝ているのね」

「そうなんだよ。帰って寝たらどうかって言ったんだけど、麗子を起こしたくないからって言われてさ。私も同じだったから、ずっとああしていたというわけ」

「なんか今日は私、あなたに恥ずかしいところばかり見せているわね……」

「ううん、可愛かったよ? べつに私たちの前では無理しなくていいんだよ! あれが楽ならそうすればいいし、いまのが好きならそのままでいいし、麗子の自由だから!」


 あと私にも甘えてほしい! ……言ったら嫌われないかな?


「麗子、私にも甘えて?」

「あなたに膝枕をしてもらっていたじゃない」

「えへへっ、そっか! でもさー、私もお姉ちゃんって呼ばれたいなー」


 完全完璧妹モードで言ってくれたら浄化できる。麗には悪いけど姉妹だからって独り占めは良くないと思うんだよね。


「ふふ、おかしなことを言うのね、初音お姉ちゃん」

「はわっ!? ……麗子に言われると特殊なプレイをしているみたい」

「……叩くわよ?」

「ご、ごめん! 私ね? 目標ができたんだ! それは、ふたりのお母さんに気に入られること!」

「どうして気にいられたいの?」

 

 どうしていって、魅力的なふたりのお母さんだからだ。それにもしかしたら麗子が強いられるようなこともなくなるかもしれない。私にできることをしたいと考えるのは悪いことばかりではないだろう。

 ただし、それが押し付けがましくなってはいけない。おまけに迷惑しかかけない結果になりかねないので、適度な距離感で関わりを続けていくつもりだ。


「えと……ふたりのお母さんだから、かな」

「ふぅん、なんで私達のお母さんだから仲良くしたいの?」

「あ……さっきまでの弱気麗子はどこ行ったの?」

「あなたが悪いのよ? こうして抱きしめたくなるようなことを毎回言ってきて」


 それに後ろには麗だっているのに……って! なんか彼女が寝ている横で他の女の子といけないことをしているみたいじゃん、これじゃあ……。


「……れ、麗ちゃんが起きたらどうするの?」

「起きてるけどね」

「ひゃあ!? こ、これはちがっ……」

「丁度いいや、ふたりで抱きしめてあげるわ」


 前後から伝わる柔らかい感触。鼻腔をくすぐるふたりのいい匂い。

 やばい、本当にやばいこれは。このままだとどうにかなりそうになる。


「や、やめて……」

「本当はこうされたかったんでしょ、あんた」

「せ、せめてひとりずつじゃないと頭が……」

「だそうよ麗子、どうする?」

「そうね……この子、自分の発言や行動がどのような結果を招くか全然分かっていないようだから、きちんと分からせておく必要があるわ。このまま続行よ」

「ざまあみろだね、天崎初音ー」


 わからせておく必要があるってこのまま抱きしめ続けるってこと……? むりだよそんなの、いまだって追い込まれててやばいのに!


「……もうむりぃ……」


 完全に力が抜けて座り込みそうになっても、彼女たちは解放しれくれなかった。

 美人は性格がきついというのは本当らしい。幸せな時間であるはずなのに涙が零れて、ひたすら彼女たちの服を握ることしかできなくて。


「はぁ……そろそろやめてあげるか」

「麗が言うなら私もそうしようかしら」


 解放されてぺたりと床に座って、私は俯くことしか自分はできなかった。


「あんた、その涙はどういう種類のものなの?」

「……うるさい」


 申し訳無さそうな顔してるかなと思って見てみたらニヤニヤとして! いつも麗子と比べられて傷ついている的なことを言っていたのは嘘だったんだ。

 それよりなんで涙が出たんだろうか。女の子に愛されることは昔からの願望だった。私が求めれば離れる連続だったのだから、こうしてこちらに意識を向けてくれるのは嬉しいはずなのに。


「……わかんないよ……気づいたら出てたんだもん」


 私を見つめる青と赤色の瞳。いまはもうどちらも無表情で、だからこそ背中が寒くなるくらい恐ろしい。

 そんな調子に乗っただろうか? 甘えるなということだろうか? ……どちらにしても、このふたりといるのはいいことばかりではないと強く思った。

 毎回、事が終わってからでないと気づけない弱さに、意味のない水滴が頬を伝って、床に小さな水たまりを作る。


「麗、帰るわよ」

「え、でも初音は?」

「今はそっとしておきましょう」

「……うん、分かった」


 ふたりはなにも声すらかけずリビングと家から出ていってしまった。


「えぇ……」


 そりゃ面倒くさく感じたのかもしれないけどさ……だからってそのまま放置しなくたっていいと思うけど。とにかく、涙をグシグシと拭って立ち上がる。


「というかあれじゃ麗子に抱きつきたかっただけじゃん」


 ふたりに比べれば小柄だし、ふたりとも私の奥の相手を抱きしめるためにそうしていたんだ。涙の理由はそれか、麗子も麗もこちらに意識を向けてなんかいなかったということか。

 よし、そうと決まれば話が早い。名前も知らない彼女たちの母親に聞いてみることにする。


『よろしくお願いします』


 送ってから数秒後、『よろしくお願いします』とそのまま返ってきたので、そのままぶつけて再び待機時間へと突入。


『あなたがあのふたりのどちらかを好きだということですか?』

「違うっ!」


 なんでそうなるんだ……。


『違います、麗さんと麗子さんがお互いに想い合っているんです。親としては反対かどうか聞きたくて……』

『特に反対ではありませんよ? けれど、それならせめて身内以外の子を好きになってもらいたいものですね」


 やっぱり堅苦しい母親のようには感じない。となると、父親が微妙だということだろうか、……考えただけでぶるりと震える。それに、あの双子が怖いんだ、怖くないわけがない。


『教えてくれてありがとうございました!』

『いえ、満足してもらえたのなら幸いです』


 あのふたりのためになれたのではないだろうか。これで……あんな冷たい顔で見られることもなくなるというわけで、私の心は子どもらしく弾んでいた。だけど、


「余計なことするんじゃねえわよ!」


 数分後にかかってきた電話で一気に沈む。


「よ、余計なことって……え、怒られたとか?」

「怒られてはない」

「だ、だったら、なにが不満なわけ?」

「もういい!」

「え? あ……もう!」


 通話が切られて私はスマホを床に置く。

 これで余計な不安も消すことができたわけなんだから、あとはただ麗子との仲を深めていけばいいだけじゃないか。


「余計なことをしないでくれないかしら」

「麗子も……」


 電話がかかってきたから出てみればいきなりな言い草だ。


「あなたがやっていることは逆効果よ、気をつけなさい」

「なにが不満なの? ふたりが想い合っているのは事実なんだからさ。え、もしかして母親とID交換したから怒っているわけ?」

「とにかく、もうしなくていいわ、さようなら」


 自分勝手さ極まれりだなぁ。障害になるかもしれない母親を説得してくれたんだみたいな考え方にはならないのかな。

 なんでも自分が決めたタイミングどおりじゃないと気に食わないとかかな? それだったら悪いことをしたと思うけど。


「はぁ……ま、あのふたりが幸せになれるならそれでいいや」


 ふたりでひとりなんだ、どちらかが欠けたら魅力がなくなる。

 大切、好きだと感じてもなんらおかしくないんだから素直になったほうがいい。

 よし、応援してやるぞっ。




 1週間が経過した。

 私が大人のつもりなので関係がなくなるとかそういうことはなかった。

 ところが、来るのはやはり放課後だけであり、一緒にいても口数が少なくて。


「麗子と帰ったら?」


 学校ではなぜかふたりきりでいようとしない。素直にならないと他の子に取られてしまうというのに、余裕者ぶってる場合だろうか。


「誰が誰といようと勝手でしょ」

「そりゃそうだけどさ……」


 他の誰かに取られたら複雑なんだ。他の子と結ばれるくらいならさっさと付き合ってもらいたいものだが。


「……ごめん、初音」

「どうして急に?」

「泣くなんて思わなかった……嫌だったんじゃないかって不安だった」

「その割にはニヤニヤ笑っていたけど」


 私だってまさか泣くなんて考えてもいなかった。求めていた理想、綺麗な子がこちらを向いてくれているじゃないか、そう勘違いできるくらいには最高だったというのに、あのときの私はどうかしていたんだと思う。


「ニヤニヤなんかしてないわよ……」

「ま、終わったことはもういいからさ! 麗子、帰っちゃうよ?」

「あたしはあんたと帰りたいのよ、だめ?」

「いや、だめじゃないけどさ……」


 押してダメなら引いてみるというのを実行しているのかもしれない。双子でも四六時中、一緒にいたら疲れちゃうだろうしね。

 ま、学校にいつまでも残っているわけにはいかないので、私たちはふたりで帰路に就いたんだけど、


「あのさ、本当に怒られなかった?」


 私はどうやら気になったことを逐一聞かなければ落ち着かない性格なんだと気づいた。


「ん? うん、そうね、寧ろいきなり『お付き合いしても構わないですよ』とか言われて驚いたわよ」

「あはは、ごめん!」

「そんなに付き合ってほしいの?」


 彼女はこちらの腕を掴みながら真剣な顔で聞いてきた。


「うん、お似合いだと思うから」


 だったらこちらも真面目に答えるのが礼儀というものだろう。


「それは無理ね、悪いけれど」

「ど、どうして?」

「んー、確かに麗子は理想の存在と言えるわね。けれどあんたには吐露したじゃない、内にある劣等感を抱えたまま生活するのは嫌だもの。これはあの時あんたが涙を流した理由と一緒だと考えているわ」

「勿体ないなあ、麗ちゃんは全然気にせず麗子といるのに」

「色々あるものなのよ、複雑な気持ちを抱えてばかりよ……」


 ふたりきりのときにどんな会話をしているかどうかすら、わからないからね。これ以上、好き勝手に言うこともできないか。余計なことをするなと再び怒られるのは堪えるわけだし、大人しくしておこう。


「初音、抱きしめてもいい?」

「え、どうして?」

「あの時のを上書きしたい、複雑な気持ちのままでいたくないのよ」

「麗ちゃんが満足できるなら」


 ふたり足を止めて、銀髪むすめさんが抱きしめてくる。

 柔らかく温かい、冬だからか余計にそう感じる魅力的な時間。


「温かいね」

「そうね」


 誰かが通るかもしれない場所でなにをやっているんだか。カップルのようには見えないだろうけども、やはりひとりにされているときは幸せしか感じなくて。


「麗ちゃんは甘えん坊なの?」

「どうかしらね」

「私は甘えてほしいかな」


 こちらを必要としてほしい。自分から動くと失敗するなら、相手に動いてもらうしかないのだ。


「どうすればいいの?」

「って、これ以上は特にないよね」


 麗は体を離して「んー」と考えていたようだったが、思いつかなかったのかすぐに歩きだしたため慌てて追う。


「初音、麗子と向き合えばいいのよね?」

「うん、それがいいよ」

「分かったわ、なるべく頑張ってみるわね」

「うん、応援するよ」


 私を抱きしめたことで麗子への想いに気づけたのかもしれない。

 とにかくこれがもう私の理想の形――できることは少ないけど協力していきたいと心から思っていた。


「それじゃあね」

「ばいばい」


 応援、協力するということを口実にして側に居場所を作る。

 べつにあわよくばなんてことは狙っていない、それでも友達ではいたいだけだった。

金髪より銀髪の方が綺麗に感じそう。

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