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06.『お義母様襲撃』

読む自己で。

 土曜日。

 私はあの別れ道でふたりを待っていた。

 とはいえ、デートをするというわけでもないし、所詮、家に来てもらうだけなので緊張するということは全然なかった。お部屋に入ってもらうわけじゃないし。


「初音ー、おはよ!」

「おはよー!」


 訪れた銀色さん、れーちゃんの雰囲気は明るくてキラキラしている。


「あれ、麗子は?」

「あー……いるよ、後ろに」

「え……あ」


 確かにいるけどキラキラしてない。それどころかどんよりしているような気がする。あの日からずっとそうなんだよなあ……なんかいまの状態ではすごくもったいないから直ってほしいんだけど。


「麗子、しゃきっとする!」

「うん……」

「え!?」

「ああ、この子の喋り方ってこんなのだから」


 まあでもれーちゃんを真似をしていたと言っていたし、そこまで驚くようなことでもないか。

 とにかく冷えて風邪を引いたら馬鹿らしいので、ふたりを家に連れて行くことにする。相変わらず麗子の様子がおかしいけど、直ってくれたらいいな。

 家に着いたらリビングで適当に自由にしてもらうだけだ。飲み物を準備したら私のやることはこれにて終了。


「綺麗ね」

「うん、お母さんと私で交互にお掃除しているから」

「あんたの心みたいね」


 な、なにを言われてるんだろう。これって口説かれた、ということだろうか。

 とはいえ、私の心が綺麗なわけない。もし綺麗なら多分だけど彼女ができていたと思うから。けれどあれだ、いまはまだ誰とも付き合ったことなくて良かったと考えていた。


「麗……お姉ちゃん」

「はいはい、どうしたの?」

「ごにょごにょごにょ」

「うーん、それはどうかしらね」


 お姉ちゃん呼びするの可愛い! ……少しだけ真似をしてみよう。


「麗お姉ちゃん!」

「ぶふっ!? な、なによっ、いきなり!」

「だめか~……いや、麗子のそれが可愛いと思ったから真似してみたんだけど」


 あまりに差がありすぎるせいで、特殊なプレイにしか感じられなかった。良く言えば義理妹レベル? 悪く言えば……勝手に他人を姉扱いする変質者といったところだろうか。


「初音……ちゃん、お姉ちゃんは私のだから」

「ねえ、れーちゃん、どうして麗子はこうなっちゃったの?」

「それが分からないのよねぇ……」

「あははっ、れーちゃんもすっかり以前の麗子みたいになってるじゃん」

「そうね、少しでもこの子の不安を失くせるように頑張っているのよ。違和感、あるかしら?」

「んー、逆のほうがやっぱり可愛いかな。れーちゃんが無理してるとなんか嫌なんだよね」


 可愛いけど麗子にも戻ってほしい。麗ちゃんにはいつもどおり真っ直ぐな感じでいてほしい。頑張るのは素晴らしいことだけど、無理したら精神が疲れちゃうし。


「麗子、戻って?」

「……近いわよ、あなたって無自覚よね」

「そうかな? でもやっぱり私は、その麗子が普通みたいに感じるからさ」


 あ……だけどこれも偽っている――強いられているんだっけ。そう考えたらさっきの本来の形らしい彼女でいてもらったほうがいいのか。


「いろいろ変えてごめんだけど、さっきのでいいよ。少なくとも私の前とかれーちゃんの前では偽らなくていいからさ」

「……麗お姉ちゃん、なんでこの子はこうなの?」

「知らない! 初音はこんなもんでしょ、いつもね」


 こんなのとはいいのか悪いのか、そこをはっきりしてくれないと今度は私がモヤってしまう。やはり私にとっては、麗ちゃん――麗のほうが一緒にいやすいようだとわかった。


「初音ー、ゲームとかないの?」

「ないんだよねー……。ごめんね、なにもなくて」

「仕方ないから麗子でも可愛がっておくかな」


 行われたのは、頭を撫でる、手を繋ぐ、抱きしめるの3つだった。

 今日は珍しく麗子のほうがなすがままとなっている。顔も蕩けて、前の銀髪さんのようにそこはかとなくえっちな顔を披露して。それをぼうっと眺めて、少しの羨ましさを感じつつも私は黙っていた。


「この子さ、両親の前ではなるべく完璧を強いられるから疲れちゃうんだよね。そういうのもあったのかもしれない。だから多分、初音の存在は本当にありがたいと感じているはずだよ、あたし以外に本当の自分を晒せるんだからね」

「いやいや、麗ちゃんがいてくれるからだよ」

「あたしはだめな姉だからさ……歯痒い状態だったんだよね。だけどそんなときにあんたが麗子を見つけてくれた、心から感謝しているんだから」


 ただのお散歩だったんだけど、こう言われて悪い気はしない。

 って、まるでずっと一緒に過ごしてきた者同士みたいな会話だけど、私たちはまだ2週間とちょっと一緒にいるだけだ。さすがにそれだけでいい人扱いされると困ってしまう。

 大体、私がいい人なわけがないじゃん。それこそ歯痒い現実を前に、他人に八つ当たりをしないと生きていけないような弱者なんだから。


「私は麗ちゃんみたいなお姉ちゃんがほしいな、だっていつも妹のために動いてくれそうだもん」

「動くって言っても声をかけるくらいしかできないけどね」

「十分だよ、それがきっと相手のためになるって思う」


 なにより大切な相談を持ちかけることができるのは大きい。

 母は基本的に家を空けがちではあるので、大事なときにいなかったりすることが多いからだ。

 そういうときにもし麗みたいな子がいてくれたら? それはもう心細さを感じずに済むことだろう。


「だから麗お姉ちゃん! 私にもぜひ抱きしめをっ」

「むりー」

「あああああ!?」


 ……冗談はともかく、ふたりが仲いいなら私も嬉しいと感じるから続けてほしいと思った。


「冗談だよ、姉なら妹達を平等に扱わないとね」

「あ……うん」


 うん、姉妹で同じように温かいふたりだ。

 触れてる場所がポカポカして、それがなんとも眠気を誘う。


「麗お姉ちゃん……」

「よしよし、いい子ね」

「うぅ……ねむくなるぅ……」

「膝枕をしてあげるわ、それで寝なさい。毛布もしっかりかけてね」


 案外、ノリがいいんだな麗は。

 冷たい床に正座をさせるのは申し訳ないので、広げた毛布の上に座ってもらう。

 そして私は彼女の柔らかい太ももに頭を――な、なんだこれはぁ!?


「やーらかすぎるぅ……」

「スポーツをしているわけではないもの、動かないとやばいけれど」

「そんなのことないよぉ……」

「というかあんた、さっきから様子がおかしいわよ?」

「お姉ちゃんパワーに負けちゃったの……」


 後に引けなくなった、とも言うが。

 だんまりを決め込んでいる麗子の存在も気になる。


「麗子ー」

「なに?」

「一緒に寝よ?」

「うん……寝る」

「あ、でもどうしよ――ぐぅぇ!? どうして私のおなかに頭を乗っけるのさ!」

「我慢してあげて、麗子はそうするのが好きなのよ」


 ……これでは寝られないような気がするけど。でもまあ温かいし、できるだけ気にしないようにしよう。


「麗、重くない?」

「大丈夫よ」

「えへへ。今度、私がしてあげるからね」

「ええ、楽しみにしているわ」


 うーん、見方を変えればこれは私のハーレムかもしれない。それも満くん取られることも、他の女の子のところに行ってしまいそうな気配もない。私がふたりを自由にできる――なんとも理想の状態じゃないか、くくく。


「そういえば麗のお父さんとお母さんはよく許可したね、今日のこと」


 とはいえ、積極的になりすぎて嫌われてるのは避けたいので、私が聞きたかったことを質問してみることにした。


「別々に暮らしているのよ、一緒に住んでいると思ったかしら?」

「え、それじゃあ、普通でいいんじゃないの?」

「んー、それが時々不意に来たりするのよね。もしかしたら今、この時にも来ているのかもしれないわ」

「これがもしバレたら?」

「少なくとも麗子の方は『やめろ』と言われるでしょうね」


 かたっ苦しい両親のようだ。私の母と父は明るさ全開! まるで同年代の子と接しているような感じなので、私は逆に会いたくなってしまった。どんな人たちなのかどうかをチェックしたい。


「麗、あなたのお父さんとお母さんに会いたい!」

「そうは言ってもいつ帰ってくるのか分からないのよ」

「私にはわかるよ! 今日、家にいるはずだから!」


 そのタイミングで鳴る我が家のインターホン。

 リビングから来訪者を確認できる画期的な機械があるため確認してみると、


「あ……あたし達の母よ」


 聞いた瞬間、よっしゃあ! と叫びそうになったのを抑えつつ、私はお義母さまを迎えるべく玄関へ。

 この扉の向こうに彼女たちの母親がいる。1回だけ手をぎゅっと握って、でも喧嘩をするわけではないからすぐに力を抜いて扉を開けた。


「お義母さ――」

「こんにちは、天崎初音さん」


 あ、これは調子に乗ったらまずいやつだ。急く気持ちを抑え込んで、んんと喉を鳴らし流れを一旦切らせてもらう。

 それからすぐに整えて、


「はい、こんにちは。あの、どうして家がわかったのですか?」


 聞きたかったことを真っ直ぐにぶつける、と。


「あの子達の居場所はスマホに仕込んだマイクロチップで分かるのです」

「あ、えと、それは標準搭載されているものではないということですか?」

「ええ、そういうことになりますね、行方不明とかになったら嫌ですから。親なら娘の居場所を気にすることはおかしくないですよね?」

「そ、そうですね、はい。それで今日は娘さんを連れ戻しに来たということでしょうか? それならリビングにいますので……」

「いえ、女の子のお家に遊びに行っていることは分かっていましたので。今日は単純に、あなたが見てみたかったのです。あ……」


 お義母さまはさらさらとなにかを紙に書いて、それを手渡してきた。


「私のIDです、良かったら登録してくれると嬉しいのですが」

「あの、どうしてですか?」

「え? だって娘の大切なお友達なのですよ? その子と関わりたいと思うのは普通ですよね? え、あれ、おかしかったですか?」

「いえ! 私もお義母さまとの接点がほしかったものですから! 今日、会いに行こうとしていましたからね!」

「ふぅん」

「ひぃ!?」


 いまの瞬間にわかった。この人は麗や麗子が私といてほしくないと考えているだろうと。……それに変なチップを仕込む時点で普通ではない。親だからこそより異常さが目立つわけだ。


「いやですね、どうして私の顔を見てそんなに驚くのですか?」

「あの、素直に言ってくれていいですよ?」

「ふふふ、なにがですか?」

「あのふたりに私といてほしくない、ってことですよね?」

「いえ、そんなこと考えていませんよ? ただ、初めてなことなのです、誰かの家に行くことなど、ふたりはいつも自宅にいましたからね。そういう風に強いてしまったというのもありますけれど……とにかく、親としては嬉しさしかありませんから安心してください。今日はこれで失礼しますね、ふたりのことをよろしくお願いします、初音さん」


 未来のお義母さまに会釈をしてから扉を閉じた。

 うん、少し危なそうな雰囲気を伴っている人だけど、娘思いでいい人なのでは?


「麗、帰ったよ?」

「はぁ……あんた凄いわね」

「えへへ、そう?」

「褒めてないけれど。はぁ……面倒くさいことにならないか不安だわ」

「え……」


 当然だけど表裏で差があるということか。

 初対面の人間に本性を晒す人はいない、ってことかなぁ。

 心から認めてもらえるように頑張ろう! 

うーん、やっぱり麗の方かねえ。

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