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04.『この子となら』(麗

読む自己で。

「麗子、天崎の態度で気になるところない?」

「天崎さんの? 特にないかしら」


 天崎の態度について気になって聞いてみたが、結果はこんなものだった。

 私個人の考えとしては、あれは初対面とかほぼ出会ったばかりとかそういうのではない気がする。

 いや、初日や1週間くらい経過した頃は『普通』だったんだ。それがどうしてか急にあんな余所余所しく――間になんか壁みたいなものがあるようになってしまった。……つっけんどんな態度が悪かったとか? 少なくともふたりきりのときは普通でいたつもりだったんだけどな。


「なに麗、天崎さんのことが気になるの?」

「そういうわけじゃないけど、なんか遠慮されてたら気になるでしょ?」

「遠慮……ね。あ、抱きついてこないのが遠慮かしら」

「いきなり抱きつけるやつなんていないでしょ、ましてや麗子は綺麗なんだしさ」

「あら、あなただって綺麗よ?」


 こんな何度も繰り返したやり取りを続けたところで意味はない。

 私は自分の部屋に戻ってスマホ及びアプリを起動し彼女とのメッセージ画面を開く。

 広がるのは空白――交換したのになにも送ってきやしない。普通よろしく、くらいは送ってきてもいいと思うのだが。


「今、大丈夫? っと」


 送ったらすぐに『大丈夫だよ』とメッセージが返ってきた。……これなら最初から自分で送っておけば良かったんだ。……あ、ひょっとしてそれとか? 待ってたのに全然送りもしてこなかったから不機嫌になって壁を作っている、と。


『通話できる?』

『うん、できるよ』


 かけたらこれまたすぐに彼女は出て「なんか気恥ずかしいね」と笑っていた。


「あんたさ、私がメッセージを送らなかったから距離を作ってたの?」


 自分でもなに言っているんだとツッコミたい発言。どれだけ自意識過剰なんだって話だが、今はどうでもいい。


「ううん、違うよ。というか、距離を作ってないって!」

「その割にはメッセージとか送ってこないしさ」

「いつ送っていいのかわからなかったんだよ。はっきり言っておくと、学校でも似たような理由で行っていいのかなって不安になってさ」

「遠慮してんじゃねえわよ!」

「藤島さんはさ、どうして私に構ってくれるの?」


 どうしてか……どうしてだろう。麗子に好き勝手されている現場を見られたからかな。あそこでまさか人が来るなんて思わなくて、でも、麗子にやられていたから動く気にもなれなくて、固まるしかなくて。

 辱めを受けたからこいつにも同じ思いを味わってもらいたい――なんて考えではなかった気がする。

 確実にあったと言えるのは麗子を取られたくないという気持ち。

 だが、現実はどうだ?

 こいつは積極的に麗子といようとしているわけではないのに、私はなぜだか天崎が気になって一緒にいようとしているのが現状だ。


「藤島さん?」

「あ、ああ……なんでかな、分からないけど」

「それなら藤島さんが優しいということにしておこうか。これ以上、この話を続けても意味はないから、もう終わりでいいよね?」


 意味はないって勝手に決めつけやがって。

 だって結局、遠慮してたってことじゃねえかよ。


「藤島さんってさ、たまにあの子みたいな話し方になるよね」

「それは正解のようで間違い。麗子が私の真似をしたの、昔はあの子みたいな話し方を徹底していたんだよ」

「へぇ、それはどうして?」

「親にそうしろって言われてたから。でも、できなくなった、というか似合わなかった。で、麗子が生まれて、私と違って優秀に育ってさ、両親の期待した通りの存在になれた。それで両親は麗子ばっかり可愛がるようになった、あの子もあの子で演じるのが上手いから今も期待通りの人間でいるというわけ、分かった?」


 ただどうしてその喋り方になったのかを聞いてきただけなのに私ときたら。

 けれど、なんでもかんでも理想な生活とは言えないことを彼女にも分かってほしい。裏側を見ることのできない人間達が好き勝手に言いたくなる気持ちも分かっているつもりだ。しかし、その度にこちらが複雑な気持ちになっているということも――とにかく言いたかったのだ。

 同情でもなんでもいい、大変なんだねって、苦労してるんだねって、そうやって言ってくれるだけで救われる気がする。


「藤島さん」

「うん?」


 こいつ、この子ならそう言ってくれると思った。


「私はそれでも麗子さんみたいな妹がいたら嬉しいと思うけど」


 だが、結果はこれだった。

 言われた瞬間、なんか凄く寂しくなった。

 みんな麗子、こっちの気持ちなんかまるで考えてもくれない。

 家族から必要とされないなら余所の人間から必要とされないといけないのに、余所の人間でさえ妹の名前を口にし、あまつさえ嬉しいとか重ねてくる。


「……天崎も麗子がいいのかよ」

「逆になにか問題あるの? 美人姉妹でなにか不満があるの?」


 麗子ほどと言うつもりはないが、その点だけは救いか。


「なるほど、そういうことがあったんだね。だけどさ、私にとっては、あ、そうなんだ、くらいの感情しか抱けない。贅沢なんじゃないの? それが持つものの宿命なんじゃないの? あなたがはっきり言ってくれたから言うけど、私はあなた達といて劣等感しか抱かなかったけどね。それが距離があると感じていた理由だよ」


 劣等感、それは私も常日頃から感じていたこと。

 でもなんだ? 私達がそこまでこいつの前で引け散らかしたわけじゃないぞ。

 ……なんだこいつ……どれだけメンタルが弱いんだよ。ただいるだけでそんなのを抱くなんてどうかしている。責めたわけじゃない、自慢したわけじゃない、それなのにそう感じられていたら困ってしまうじゃないか。


「天崎……」

「あ、ごめん! ……えと、あ、でもさ! なんかちょっと似ていると思わない? 藤島さんが劣等感を抱えているなんて言うつもりはないけどさ、なんかこう難しい現状と戦っているというかさ! ……いや、ごめんね、私とあなたじゃ全然立場が違うのに……ちょっと八つ当たりしちゃった」

「や……私だって余計なこと言ったし」


 だけど真っ直ぐに言える強さを持っている。そう考えたら私とこの子は友達になれるのではないだろうか? 少なくとも他の人間よりかはよっぽど信用できる。


「初音」

「え、うん」

「私のことは麗かれーちゃんって呼んでほしい。昔は麗子がれーちゃんって呼んでくれたんだけどさ、両親に言われて呼び捨てに……」

「うん、れーちゃん」

「きょ、今日は切るな! ありがとな!」

「うん、ばいばい」


 通話を切ってスマホをベッドに置く。

 続いて枕で頭を覆って、


「あ゛あ゛……なにやってるんだぁ……」


 ひとりそう吐き捨てないとやっていられなかった。

 勝手にひとり余計な情報を吐露して、正直なところを言われたら悲しむとか自分勝手がすぎるだろう。でも、あの子が優しかったおかげで喧嘩にならずに済んだ。

 強いじゃないか、八つ当たりなんか必要ないくらいに。だって本当は私達と居づらかったのに、なにも言わずに一緒にいてくれたじゃないか。

 だというのに私は……初音に周りと同じ評価を下そうとしてしまった。こいつも結局、麗子しか興味がないんだなって早とちりしそうになった。


「どうしたのよ? やけに暴れているじゃない?」

「うん……ちょっとやらかしちゃったんだ……」

「天崎さんとなにかあったの?」

「う゛っ!?」

「ふふ、というかあなただけ連絡先を交換してずるいじゃない」


 あれ、どうして私は今、自分だけで嬉しいなんて思ったんだろうか。

 ……とにかく、なんか麗子に教えてほしくないような気がする。けれど、共通の友達を作って楽をさせてあげたいという姉心もある。


「あ、明日、謝れば大丈夫か。……ほら、これだよ」


 IDを見せると麗子は思ったより俊敏な感じでそれを登録した。すぐにスマホをベッドに置いて小声で「通話するわよ」とわざわざ説明してくれる、と。

 

「きゅ、急にびっくりしたよ、まさか藤島さんからかかってくるなんて」


 いちいちスピーカーモードにするな!

 というか初音のやつ、どこか声音が弾んでないか? 相手が麗子だから? 私が聞いていないと思っているから? ……なんか面白くない。


「麗子でいいわよ。それよりいきなり悪かったわね、麗から無理やり聞いてしまったのだけれど……許してくれるかしら?」

「う、うん、それはべつにいいけどさ」

「天崎さん、先程あの子とどんな会話をしたのかしら?」


 くぅ、こっちを見てニヤニヤとしやがってぇ……。


「あ……八つ当たりしちゃったんだ……れーちゃん怒ってなかった?」

「ふぅん、れーちゃん、ね」

「あ……そう呼んでほしいって言われたから」


 てかあれは八つ当たりだったのか? 正直なところをきちんと話してくれただけだ。それを責めるつもりはないし、どちらかと言えば余計なことを言った自分が悪い気がするが。


「初音さんで、いいわよね?」

「え、うん」

「私のことは麗子、いいわよね?」

「うん」

「ふふ、それならいいわ」


 な、なんで麗子のやつそこまで拘るんだ?

 いや、初音のやつがなにを勘違いしているのかは分からないが、麗子は暖かい人間ではあるけれど、興味のない人間にはとことん冷たい反応を見せるやつだ。

 でも初音相手にはどうだった? あの初対面の時、自分からPC室に連れ込んだくらいだ。……で、どうしようもないところを見られてしまったわけだし、少しだけモヤモヤしていたのだが……。


「初音さん、実は麗も聞いているのよ?」

「うぇ!? そ、そそ、そんなこと……」

「あら、どうしてそんなに慌てるの?」

「それは……だって怒っているかもしれないし」


 今、私は正に怒ろうとしたところだった。だって私の名前が出た瞬間に慌てるとか複雑すぎるだろう。けれど私は怒ってなんかいない。それどころか謝りたい気持ちでいっぱいだった。


「初音さん、本当にそれだけしかないの?」

「えっ? う、うん……申し訳ないことしちゃったなって……」

「ふふ。そう、なら安心だわ」


 なんで安心するんだよぉ!

 ……駄目だ、真に受けるな。麗子がおかしいことくらい常のことだ。だから彼女に深い意味はない、意味深な言い方をしているがそれだけのこと。


「それではもう遅いしまた明日、必ず、会いましょうね」

「うん、ばいばい。あ、れーちゃんにもばいばいって聞こえてるかな?」

「ええ、聞こえているわよ。それでは」

「うん、ありがとねー」


 なっ!? どうして麗子には感謝を伝えるんだっ?

 んー、私と麗子の違いってそんなにあるのだろうか? 周りも具体的に教えてくれれば直すんだけどな。


「麗、初音さんって魅力的な子よね」

「そ、そうかな? メンタル最弱やろうだけど?」

「いいじゃない、それなら支えてあげれば力になれるわ。抱きしめてあげれば落ち着いてくれるかしら? 一応、出るところも出ていて癒やし効果はあると思うのだけれど」

「わ、私のだって……」


 そこに関して負けるつもりはない。

 ま、まあ、不安というのなら、初音は自信を持って大丈夫って伝えていければいいと思う。そのためにだったら抱きしめたりだって……初音が拒まない限りはしても問題はないだろう。


「麗、どっちが初音さんを癒せるか勝負よ」

「ま、負けないっ、私だって」


 せっかく分かってくれるかもしれないって女の子に出会ったんだ。

 それをまた麗子に取られてたまるか!

あんまりチョロくはしたくないぞ。

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