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03.『偽ってないよ』

読む自己で。

 放課後。

 私は金と銀の色の囲まれつつ帰ることになった。とはいえ、基本的には姉妹が楽しそうに会話しているのを眺めるだけだ。

 ふたりとも背が自分より10センチくらい高い――多分167センチくらいあるので、単純に自分のちっぽけさが露呈し始める。

 この見ただけで仲がいいと感じるふたりの間に入る? ……そんなことを考えた自分がバカだったと考えを改めなければならないようだ。


「2月になったら私立受験ね」

「それよりバレンタインデーでしょ! 受験なんて関係ないし」

「酷いわね、去年は私達がその立場だったのよ?」

「そうだけど、私達はもう高校1年生なんだし」


 受験か。すごく緊張したなあのときは。

 幸い本命は私立、公立受験も大して失敗なく終えられたし、こうして無事に通えているわけだから良かったけど。高校に入学してからもう8ヶ月も経ったのか……実に早いものだ。


「麗子は誰かにチョコ渡す?」

「そうねえ、義理チョコとしてみんなに配るかしらね」

「て、天使っ。私は市販のしかあげられないしなー」


 そういうのは気持ちが大切なのでないだろうか。それに市販のならみんなも食べたことがあるし受け取ってもらいやすい気がする。よくあるのがチノレチョコを手渡し「あくまでぎ、義理なんだからねっ?」とツンデレな態度で――いけない、つい麗さんで再生してしまった。素直になれなさそうな人だからね、本命チョコを作っていても渡せずに終わりそうだ。


「でも困るのがさ、そういう形で貰っちゃうとホワイトデーで返すべきかどうかってことなんだよなー」

「そうね。けれど私は無理して返さなくていいと説明してから渡しているわよ?」

「なっ!? い、妹が天使すぎて困るぅ……」


 私だったらそれでも例え市販の物であったとしても買って返すけどな。貰いっぱなしではいられない。その気がないならそもそも申し訳ないけど受け取らない。そうやって決めてやってきた。

 ただ問題だったのは――実は1度も貰ったことがないことだ。同性からすら……

違う子にはあげていたというのに私だけにあからさまに避けられていた。

 あれかもしれない。私にあげると調子に乗って告白してくるという噂が出ていたからかもしれない。私が女の子好きなことは周知の事実だったわけだし、面倒くさくなるだろうからと判断し避けたということなのかも。


「って、なにか話しなさいよ、天崎初音」


 んー、私だって誰にでも告白するわけじゃないんだけどな。 

 それに私が気になったり好きになると他の人のところに行かれてしまう。相手は可愛い、格好いい男の子だったり、可愛い、綺麗、格好いい女の子だったりとそういうの。……女の子に取られるのは複雑なものではある。

 私が可愛くないし綺麗でもないから魅力的な子の方に行きたい気持ちはわかるけど、こちらの複雑にも少しは気づいてくれたらなあと思いつつ、泣き寝入りをするしかないというのがこれまでの常で。


「天崎初音ー!」

「ぐぅぇっ!?」

「無視してんじゃねえわよ!」

「だ、だからって……おなかを叩かなくても……」


 お姉ちゃんの方は包容力なんて微塵もない。おなか痛い……。


「天崎さんに意地悪したら、もう抱きしめてあげないわよ?」

「……ど、どうして天崎初音の味方するの?」

「どうしてって、だってこの子は可愛いじゃない」


 というかそろそろ天崎か初音でいいと思うんだけどな。あと、麗子さんから「可愛い」とか言われてもあんまり嬉しくないことがわかった。あまりにお世辞すぎてやばい。


「……ごめん、天崎初音」

「麗、名字か名前で呼びなさい」

「天崎……って呼ぶ」

「天崎さん、ごめんなさい」

「ううん、聞いてなかった私が悪いんだし、藤島さんが謝ることないよ!」

「……このままじゃ申し訳ないから、抱きしめでいいかしら?」

「あ……」


 これをされたら体から力が抜けてしまうんだ。あとは麗さんの顔や雰囲気が怖くなるからやめてほしいんだけど――もっとしてほしいという気持ちもあって、私はなすがままとなっていた。


「な、長すぎ!」

「ふふ、麗はすぐに嫉妬するわね」

「お、おかしいからっ、私にするのとこいつにするのでは意味が違うし……」

「どう違うの?」

「な、なんか……特別みたいじゃんか」

「そういうのは一切ないわよ。ね、天崎さん」


 ……ま、わかっていたけど、こうして真っ直ぐに伝えられると少し悲しい。やっぱりどれだけ頑張ってもこの姉妹の間に居場所は作れないんだ。

 一緒にいることでみじめな気持ちにしかならないなら……あんまり関わりたくはないかな。


「うん、そうだよ! ふたりは両想いなんだしね~」

「両想い、かしら?」

「うん、それにお似合いだからね! 金色と銀色で綺麗だから」


 そこに黒色はいらない。まあ私の髪の毛は茶髪寄りではあるけれど。

 

「ま、麗のことは気に入っているわけだし、そう言われて嫌な気分にはならないけれど。だそうよ麗、あなたはどうなの?」

「わ、私に聞かないでよ! ……そりゃ麗子のこと大切だし」

「麗さんは素直じゃないなあ」

「名前で呼ぶな泥棒猫!」

「いや、紛らわしいからさ、ごめん。っと、私はこっちだから」


 キシャァ! とこちらを威嚇してくる彼女に苦笑しつつ私はそう答えた。


「さようなら。また明日、会いましょう」

「うん、またね!」


 また明日、か。 

 麗子さんはともかく麗さん的に私の存在は邪魔なわけだし多分そのときはこないけど、うんまあ上手な対応を心がけよう。




 さらに1週間が経過。

 満くんは特定の女の子といる時間が増え、こちらに来る頻度が少なくなった。

 そうなるとあとはあまり親しくないお友達といるか、ひとりでぼうっとするかの2択でしかなくなる。彼が離れるとわかる、結構重要な存在だったということを。

 私はいつものように窓の向こうへと視線を向けて、冬の澄んだ綺麗な青い空を眺めていた。が、綺麗すぎてなんか薄ら寒く感じる景色で、すぐに見るのはやめた。

 新しいお友達を作ろうという気分にはならない。作ったところで同じような結果になると勝手に考えているのかもしれない。


(はぁ……全然楽しくないなあ)


 高校生になったら下校中に買い食いをしたり、仲のいい女の子と休日に出かけたりできるかと思っていたのに結果はこんなもの。休日どころか平日に出かけるような仲の子もいない。悲しいなあ。

 ちなみに、あのふたりは普段は全然来ないんだ。あちらにとっても同じなのか、用があるからなのかは知らないが、それっぽいことを言っておきながら結局来ないのかと考えてしまうのはそれこそ、妬み、なのだろうか。

 いくら学生の本文とはいえ、お勉強が趣味というのも学生として終わっている気がする。そりゃ時間つぶしには使えるけど、他の子は仲のいい子と遊んでいるのに私だけなんでって思っちゃうんだよね。


「天崎」

「あ、藤島さん」

「今日は無視しなかったわね。ここ女子の席?」


 こくりと頷いたら彼女が席に座った。

 窓の向こうの景色を見て「綺麗ね」と口にしたので私も「そうだね」と返して。

 この子はどうして来てくれるんだろう。1番、嫌みたいな態度を示しているのは彼女だというのに。

 でもまあ、せっかく来てくれたんだから邪険に扱う必要はない。ただこうして外を眺めるだけでも楽しいものだ。というか、彼女のひとりのほうが大人しくて気が楽と言える。


「あんたさ、基本的にひとりなの?」

「うーん、お友達がいないわけじゃないけどね」

「私は麗子と違うクラスだし、ひとりなのよ」

「え、お友達たくさんだと思ってた」

「どこの世界の私よそれは」


 寂しいなら麗子さんに甘えればいいんじゃないかな。私じゃあなにもしてあげられないし、むしろストレスしか与えないのではないか、そう思うんだけど。


「あんたはひとりでいるの好きなの?」

「ううん、なんかつまらないなって。同じ世界、空間にいるのに、私だけひとりぼっちなったみたいで嫌なんだ。でも、自分から動きたいとは思わない。藤島さんは違うのかな?」

「行こうと思えばすぐの距離に麗子はいるわけだし、つまらないとは思わないけどね。あんただって麗子に会いにいけばいいでしょ?」

「そうかもね」


 そうやって甘えられたらどんなに楽だっただろうか。それにおかしいみたいな言い方をしたのも彼女だ。本当にふたりのときとひとりのときで、差がありすぎて困ってしまう。


「というかさ、妹さんと帰らなくていいの?」

「別にいつも一緒に帰るわけではないわ。あの子にはあの子の付き合いがあるの、それを率先して姉が邪魔できるわけないじゃない」

「なら大人しくひとりで帰れば良かったんじゃないの?」

「なによ、そんなに来てほしくないの? 麗子じゃないから? みんなそうなのよね、必要とされるのはいつも麗子なんだから」

「べつにそんなことは言ってないよ」


 優れた妹がいると困ることもあるということか。何事もメリットばかりではないとそう言いたいのか。……それすらも贅沢な悩みではあるけれどね。


「あんたこそ残ってどうするのよ」

「あ、というかもう放課後か……なんで残ってたんだろ」


 そりゃ人もいなくなるわけだ。寂しく感じて当然なんだ。


「一応言っておくけど私的にはあなたといるほうが気が楽だけどね。あの子に『可愛い』とか言われても嫌味にしか聞こえないからさ、言えて良かった。ばいばい、話しかけてくれてありがと」


 嫌味もいい発言も真っ直ぐこちらに伝えてくれるから。

 教室を出てひとりで歩いていく。

 あーあ、私にもっと強い心があれば「綺麗な子が近づいて来てくれた!」とハイテンションになるだけで済んだのにな。

 ところがどっこい、過去のゴタゴタとかがあって、どちらかと言えば遠慮気味になった。お、恐らくそうなってる。

 あ、いや、すぐに諦めるタイプになったと言うのが正しいだろうか。これを頑張っても得はないとやる前から切り捨て、見なかったフリを続けていて。だから私のところには寂しさしか残っていないんだろう。

 満くんはどんなに失敗しても諦めず前へと進んでいる。そこだけは羨ましい、私もそうでありたいんだけど。

  

「待ちなさいよ」

「どうしたの?」

「なに逃げてるのよ、一緒に帰ればいいじゃない」

「藤島さんがいいなら」


 学校を出て家の方角へと向かっていく。

 が、一緒に帰っているのに会話らしい会話はなく、あっという間に別れ道へとやってきてしまった。


「ばいばい、また明日ね」


 別れようとしたら急に腕を掴まれて困惑状態に。

 ……なんか熱いけど大丈夫なのかな? 麗子さんに気づかれたくなくて一緒に帰るのをやめたとかではなければいいけれど。


「あんたさ、なんか遠慮してない?」

「遠慮? してないよ」

「だって全然クラスに来ないじゃん」

「自分の教室を出たらそこは未開の地だからね」

「茶化さないで!」


 というか私は、彼女とあの子が何組に所属しているのかわからないままなんですが、そこは理解してくれているのだろうか。


「な、なんでそんなに真剣な感じなの?」

「あんたがそんな態度でいるからでしょ!」

「ごめん、あの子に近づいてほしくないって言うならやめるからさ」

「違う!」

「藤島さんは以前といまの私を知らないだけだよ。偽ってないよ、だってそんなことしたってみじめな気持ちになるだけでしょ? ほら、あの子も待っているだろうし早く帰ってあげなよ。また明日、会おうね」


 びっくりしたぁ! 麗子さんの前でだってバレたことないのに、まさか麗さんにバレるとは思っていなかった。やりかたが甘いのかな? いちいちひとりで帰ろうとしたりするのが問題なのかもしれない。

 それなら徹底的に、誘われたら自分の気持ちを抑えて一緒にいればいい。べつにお世辞を言われたりしなければ嫌な気持ちにもならないんだからね。

お姉ちゃんなんだから金髪の方がいいのかもしれないけど、麗はなんか銀髪娘って感じするんだよなって。

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