01.『金銀髪むすめ』
10万文字を目指していく。
句読点が変なところについてる、くどいかもしれないからそこはまあ……。
「はぁ……」
私、天崎初音はタメ息をついた。
というのも、高校1年生の1月になっても恋人ができていないから。
小3のときの真里ちゃんには振られ、小5のときの希海ちゃんは取られ、中1のときの律ちゃんには引っ越され、中3のときのみかんちゃんには――とにかく、好きになった女の子は自分を好きな子じゃなかった。みんな、
「初音ちゃんのことお友達としては好きだけど、そういう目では見られないよ」
これの繰り返し。女の子を好きなのってそんなに悪いのだろうか。
「ハツ、帰らないのか?」
「ねえ満くん、女の子を好きになるのっておかしいこと?」
「俺は男だからそれが普通だが、ハツは男を好きになるべきじゃないのか?」
女=男の子と恋愛するという形が出来上がっちゃっている。それが当たり前なのかもしれないけど、万人に当てはまるわけではないとわかってほしい。
というか、振られた理由のほとんどはこの平田満――満くんのせいなのではないだろうか。真里ちゃんに振られたのも、希海ちゃんを取られたのも、全て彼のせいだ。1番、質が悪いのはお付き合いを始めても長続きしないこと。だからいま彼はフリーになっているということで、可愛い女の子がみんな彼のことを好きになって
……ああ、考えたくもない。
「いいから帰ろうぜ、純子さんが待ってる」
後輩、同級生、先輩とはうまくいかないので今度は私のお母さんを狙っているようで、彼のことを狙っている女の子たちに刺されればいいのにと思っている。
ふぅ、とりあえず帰ろう。
「ただいま~」
「お邪魔します」
母はこの時間にいないので家にふたりきりとなる。
それがとてつもなく嬉しくない。というか、当たり前のように家に来る彼が憎くて仕方がない。振られた原因を作ったのは彼なのに平気な顔をしているのがむかつく。……けれど母が甘くするから、それを助長させるというわけだ。
リビングのソファに寝っ転がってスマホをいじることに。
お客さんのために飲み物の準備? そんな可愛げのある行為は本当に1度としてしたことがない。
「ただいま! 帰ったぞ初音ちゃん!」
「おかえり~。お母さん、そこの追い出して」
「もう、せっかくみっくんが来てくれてるのに……」
「純子さん、お邪魔してます。今日も綺麗ですね」
「えっ……そ、そんなことないよ~」
やだやだ……母もあからさまなお世辞にいちいち照れるのをやめたほうがいい。
まあでも実の娘から見ても綺麗――可愛いのは確かなので、異性の彼がそう口にしたくなる気持ちもわからなくもないけど、人の母親を口説くな! という話である。
「初音ちゃん! いくらみっくんの前とはいえ、そんな寝転んじゃだめだよ!」
「え? いいじゃんべつに。大体、満くんは私のことなんて興味ないしね」
「そうだな、ハツのことを異性として見たことは1度もないな」
「えぇ、みっくんと初音ってお似合いだと思うけどなあ」
「僕は純子さんが好きなんです。ハツと関わっているのは純子さんとの接点を作りたいだけですね」
なにが『僕』だよ、いつもは『俺』のくせに。あと、堂々と告白なんかしないでほしい。
「こらっ、初音ちゃんが可哀想でしょ?」
「すみません。でも僕は純子さんが好――」
「初音ちゃん、お菓子食べる? ポッカーあるよ?」
幸いなのは母のガードが固いということだろう。こうして何度も告白しては振られるの繰り返し――くくくっ、私の恋路を邪魔してくれたからだ、ざまあみろ!
「うん、食べる」
「というわけで、みっくんは帰ってね~」
「そんな……は、ハツや、純子さんを説――」
「じゃねー」
「ぐはぁ……し、失礼します」
うっ、でもちょっと可哀そうだったかな? だけど母が帰れと言っているんだしそれはもう従うしかない運命。
「初音ちゃんはみっくんのことどう思っているの?」
「満くんは可愛ければ誰でもいいんだよ。それに私は女の子が好きだもん! お母さんを狙っちゃおうかな!」
「きゃー! 親子で恋……いいね!」
さすがに冗談だけど母が楽しそうならそれでいい。
ポッカーをポリポリと食べつつスマホをまたチェック。
……きてない、去年の10月頃からずっとなにもメッセージすら送られてこない毎日だ。……毎日連絡するって言っていたのに。タメ息をついてからスマホの電源を落とした。
「あ、そういえば梨帆ちゃんからお手紙きてたよ?」
「うそっ!? ど、どど、どこにある!?」
「机の上にあるよ~」
体を起こして見てみると、確かに机の上に可愛らしいお手紙が! だけど、
「え……」
内容を簡単に説明すれば、女の子とお付き合いを始めたからもう私と連絡を取るのはやめる、というものだった。
私は手紙を投げ捨てソファへとダイブする。
「……べつに連絡くらいいいじゃん」
いや違うか、多分その相手の子が他の子と連絡を取っているのが我慢できなかったんだろう。だから去年の10月頃からずっと連絡が途絶えていた、と。スマホの連絡先も消された可能性がある。そのため、わざわざこの時代にお手紙……。
谷上――梨帆ちゃんとはじっくりと仲を深めていたところだった。でも出会ったのが遅くて、あっという間に中学卒業の時がきて、そして他県の公立高校を志望するということもあり引っ越ししてしまったのだ。
まだ特別に好きとかではなかった。けれどいつでも心だけでも近くにいてほしかったからメッセージのやり取りを続けていたわけだけど、それが重かったのだろうか? 向こうで見つけたその子は重くなく、可憐で、元気で、魅力的だったのだろうか。
「お母さん……私が気に入った子って全員、取られちゃうんだよね。お母さんはどうやってお父さんを心を射止めたの?」
「うーん、諦めないで何回も告白した結果かな。あと、できるだけ毎日一緒にいるようにしたよ?」
「そっかぁ……」
ずっと引っ越されたとか距離を作られたとかで、できたことがないなそれは。
もういいっ。私も新しい女の子を見つけるんだから!
とは言ってもなあ……気の合う人なんて簡単に見つからないし、昔から自分のほうから向かうのが苦手なにもあり、学校に行っても普通に過ごすことしかできなかった。
お友達がいないということではない。しかし、過去のことがあり「女の子が好きなんだ!」とは言いづらい。
「ハツ」
「ん?」
やけに真面目な雰囲気の満くんがやって来た。
でも私にはわかる。しょうもないことを言おうとしているのがわかる。
「どうすれば純子さんは振り向いてくれるだろうか?」
「知らないよ、それにお父さんいるし!」
「不倫……良くないか?」
「いいわけないでしょ! 言っておくけどね、お母さんを傷つけたら刺すから!」
「おいおい、そんな物騒なこと言うなよ。それに冗談に決まっているだろ? 俺だって好きな人に傷ついてほしくないからな」
だからその友達の母を好きなのが問題なんだって!
だめだめ、こんなのに付き合っていたらせっかくのお昼休みを嫌な気分で過ごすことになっちゃう。私は席を立ち、教室を出ることにした。
階段を下り、廊下を適当に歩く。ただのお散歩だけど、どうしてここまで気持ちが落ち着くんだろうか。
そして反対側の校舎に行って誰もいないPC室の中を覗いた瞬間――私はパッと覗くのをやめた。だ、だって……中で女の子と女の子がちゅ……。
が、バレていたのかガラガラと音を立て扉が開けられてしまった。ギギギと音を立てるかのように振り返ると、そこにはニマニマと笑みを浮かべている金髪むすめさんの姿が。ちなみに、彼女がメインでしていたほうだ。
「天崎初音さん、よね?」
「えっ、ど、どうして……」
「ふふ、どうでもいいじゃないそんなことは。それより、どうしてこんなところにまで来たの? ううん、来ちゃったの? 人がいないからあの子を自由にしていたのだけれど……まさか人が来るとはね」
って、どうして私は連れ込まれてるの!? 鍵をしっかり閉められ、銀髪むすめさんの横まで移動させられる。……それよりこの銀髪むすめさんの顔がやけに蕩けていて、連れ込まれたことよりもそのことが気になった。
「……麗子、誰なのその子」
「天崎初音さんよ」
「ふぅん、麗子を取ったら許さないから」
「麗、余計なことを言わないで。ごめんなさい天崎さん」
「そ、それより……ちゅ……」
「ああ」
彼女はそこで舌なめずりをする。
その舌の動きをなんとなくぼうと目で追って、すぐにさっと視線を逸らした。
「ま、それは誤解としか言いようがないわね。この子は抱きしめられるとあんな感じになるだけよ。見せてあげるわ」
「ちょ、麗子っ!?」
……なんかただ抱きしめられてるだけなのに恐らく妹さんの方の顔がすごくえっちな感じになっているんですけど……。
「はぁ……れいこぉ……ちょうだい?」
「ふふ、ダメよ。天崎さんがいる前でそんなことできるわけないじゃない」
「もぅ……ばかぁ……」
「こんな感じね」
「あの、そんなこと、とは?」
「教えてあげるのはいいけれど、その場合はあなたのもなくなるわよ?」
な、なくなるってなにが!? これは多分、家では特殊なことをやっているのに違いない。……ずるい――って、なにを考えているの……。
「あなた女の子が好きなのでしょう?」
「うん……男の子よりかは」
「ま、この高校には沢山の女の子がいるから、一生懸命探しなさい」
「え……あ、うん……頑張るよ」
そもそも私がこの子と決めたら離れていく運命。大体、先程から会話しているだけで麗さんの雰囲気怖くなっているんだ。
それに麗さんと麗子さんは姉妹だけど想い合っている。私の入るスペースなど一切ないということはわかる。
私は挨拶をしてPC室をあとにした。
もっと違う、現実的な相手を探すんだ。あんな綺麗な姉妹ではなく、もう少しだけ自分に近いそんな相手を。
見つかるだろうか。同性が好きな女の子なんてめったに存在するわけではないけれど――弱気になるな、マイナス思考をしていたらダメになってしまうぞ。
一方その頃。
「なによあの子、絶対に麗子に近づけさせないから!」
麗に新しい目標ができたことを初音はまだ知らない。
麗(銀髪)がお姉ちゃんで麗子(金髪)が妹という設定に設定にしておこうかな。
お姉ちゃんみたいな麗子(金髪)と妹みたいな麗(銀髪)ということで。