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城ヶ崎大輝

 俺の好きな人には好きな人がいる。

 それが例えば俺とは何の関係もない人だったらまだ良かった。


 どうして、自分の親友を好きな人を好きになってしまったのだろう。



 彼女のことは最初に会ったときから綺麗な女の子だと思っていた。人形のように綺麗で、だけど気の強いそのギャップに魅力を感じると言う男子をたくさん、女子を少しだけ知っていた。

 それでも俺が彼女をなかなか好きにならなかったのは、彼女が俺の中学からの親友、幸治を好きだと気づいていたからだ。

 よく目で追っている。話すときに明らかに楽しそうにしている。あいつが笑うと頬を染めて綺麗に笑う。

 証拠なんていくつも出てきて、逆に気がつかない人が多いのはなぜか不思議なくらいだ。

 それでも俺が恋してしまったのは……彼女がただの綺麗で強いだけの女の子じゃないと気がついたからだ。



 それは夏休み中のある日のことだった。

 剣道の練習試合が終わり着替えを済ませて帰ろうとしたところ、昇降口に人影を見つけた。


(……日下さん?)


 女子の試合はもう終わっていてとっくに帰っていて良い時間だったはずなのに。それとも幸治を待っているのだろうか。

 彼は顧問に捕まっていて時間が掛かるだろうと伝えるべきか迷っているうちに彼女の顔がはっきりと見えるほどに近づき……絶句した。


「日下さん、」


 どうしたのと続けることはできなかった。振り向いた彼女の美しい顔が、ひどい状態だったから。

 明らかに誰かに叩かれた頬も泣きはらした目元も赤かった。でも、何よりも痛々しかったのは引き結ばれた小さな唇だった。


 まるで、一言も弱音を吐くまいと自らを痛めつけているかのような。


「城ヶ崎くん。」


 覇気のない声を聞いて、これは放っておけないなと息をついた。



「はい、これ。」


 自販機で買った水をベンチに座った日下さんに渡す。「ありがとう。」と返す彼女の声は先ほどよりはマシなもののやはりいつもの気丈さのないものだった。

 むやみに大丈夫かなどと聞くのも憚られてその場に立ち尽くしていると、「何突っ立ってるのよ。」と睨まれた。少し理不尽な気がする。

 それでも言葉に甘えて彼女の隣、拳三つ分の距離を開けて座る。

 こっそりと盗み見ると日下さんは前を向いたまま頬にペットボトルを当てて冷やしていた。唇はまた、引き結ばれている。

 ぼんやりしていると不意に目が合ってしまった。


「……何も聞かないのね。」

「……聞いてほしかった?」

「まさか。」


 会話は長くは続かない。口調からも何となく何も聞くなという圧を感じた。それでも何故か離れがたく、じっと中庭の人目につかないベンチに二人で座り続けた。

 一分にも一時間にも感じた時間が終わったのは唐突だった。彼女はにわかに立ち上がると「ありがとう。」と微笑んだ。


「もういいのか?」


 余計な一言だったかと思ったが、彼女は気にした風もなく「大丈夫。」と返した。


「城ケ崎君のおかげ。」


 じゃあね、と手を振り歩き出した彼女の姿に気がついた。彼女は強くない。ただその弱さをさらすことが出来ない、弱い女の子なのだと。

 それから彼女が弱音を吐けるように気にかけたらもう、だめだった。

 


 俺には好きな人がいる。その人は俺の親友が好きで、彼女に幸せになってほしいから諦めるつもりだった。

 でも、これは。


「彼女は僕の前世からの恋人さ。」


 珍しく瞳を輝かせ、頬を紅潮させる親友の姿に期待が募る。


 もしかして、この恋は諦めなくてもいいのか?

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