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上沼幸治

 春風に吹かれて桜の花弁が宙を舞う。その美しい光景よりも心を打つ存在に僕は呼吸すら忘れていつの間にか見入っていた。


 髪が、随分と短くなった。


 それ以外にも変わったところはたくさんある。それはそうだろう、彼女は以前と同じ人物ではない。ああ、それでも。


 高校二年生の入学式、約二百年ぶりに恋人と再会することができた。



 前世と聞いて普通の人はどう思うのだろう。それはわからないが僕には生まれたときから前世の記憶があった。

 かつての僕は江戸時代、ある小藩の若様で愛してやまない恋人がいた。彼女の名前はお雪。それこそ雪のような白い肌を持った美しい女中だった。

 今より身分に厳しい時代、女中が藩主の息子の恋人など、下手したら家から追い出されてしまう。だからもちろん僕たちの関係は二人だけの秘密で、逢瀬はひっそりと行われていた。

 公には出来ない恋でも、相思相愛なことは疑う余地もなく、二人とも幸せだった。

 しかし、その恋の結末は家から追い出されるより悲惨だった。


 心中をしたのだ。


 きっかけはある縁談。大きな藩の娘との見合い話が何を間違えたのか舞い込んできたのである。

 当然家族は喜んだ。そして父上はあろうことか一言の相談もなしにその縁談を承諾した。

 否、わかってはいた。この縁談を受けることが皆の幸せにつながることも、こんな話がなくとも自分たちが結ばれることはないことも。

 そして僕たちは話し合い……首を吊った。愛しい彼女は身を引くとも言ってくれたが、結局死んだ。

 その時に約束したのだ。「来世では共に幸せになろう。」と。



 彼女は僕と同じ部活に入った。恋人の僕が誘ったから。やっぱり彼女は今世でも僕のことが好きなのだ。

 学年が違う分接点が少ないのは仕方がないが、その分二人の時間を増やしていこう。

 だけど目下の悩みは、照れ屋な彼女がデートの誘いに応じてくれないことだ。


「お雪、まさかとは思うが、僕への愛が冷めたのか?」


 かつて一度、彼女に拒まれたときのことを思い出して一人震える。

 そうだ、彼女のことを忘れたことは一度もない。笑う顔も暗闇の中赤く染めた頬も、泣いた顔も、照れた顔も。そして死に顔も。

 確かに今の彼女とかつての彼女が違う。それでも僕は変わらず愛しているというのに。


「ならばもう一度、もう一度わからせるだけだ。」


 そして約束が果たされる時は来た。ひどく長く時間は経ってしまったが時効というにはまだ早い。


「幸せになろう、お雪。」

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