禁断の完熟メロン
足を骨折して入院中の兄。お見舞いにやって来た妹。
病室にはメロンが置いてあった。
※少しエッチな世界観です。苦手な方はご注意下さい。
「美味しそう……」
妹が静かにそう呟いた。
俺は脚を骨折して入院中で、妹は俺の見舞いに来ている最中だった。
妹の視線の先には、友人から入院見舞いとして貰ったフルーツ入りのバスケットがある。
床頭台の上に置かれたフルーツバスケットの中には、メロンやバナナやリンゴなど、色とりどりの果物が綺麗に盛られていた。白を基調とした殺風景な病院の個室において、それは華やかな花のようにも思える。
「なんか食べようか? じゃあ、切っちゃうね」
俺の返答を聞くまでもなく、妹はメロンにしか興味がないらしい。他の果物には一切手を付けずに、メロンだけを手早く取り出す。
妹が持つフルーツ用のナイフが、蛍光灯の光を鈍く反射していた。
ナイフを握る彼女の姿は、愛らしく可憐な顔立ちとは対照的で、どこか怪しげな印象を与えてくる。
脚を骨折している俺の代わりに、妹はナイフの刃をゆっくりとその実に入れていった。その光景を俺はただぼうっと眺めていた。
ザクッ、じゅっ。というような、豊かな果汁を感じさせるわずかな音が鼓膜に伝わってくる。
可愛らしい形をしたメロンが、妹の鋭利なナイフによって容易く分断されていく。
徐々に中身が露わになるメロンに対して、妹は我慢をしきれない様子だった。舌で少しばかり唇を舐めていたからだ。
なんだか、嫌な予感がする。
そして、半ば雑に切り分けられたメロン。それが皿に乗って俺の前に差し出された。
「はい。これがお兄ちゃんの分で、こっちが私の分ね」
切り分ける時に果汁で指がベタついたらしく、妹は猫のように自分の指をペロペロと丁寧に舐め取っている。
俺は何も言わず素直に皿を受け取った。妹のメロンと見比べてみれば、妹の分の方が形は大きい。明らかに量も多かった。
だが、既に妹の目の中に宿っている艶やかな色を見ると、俺は何も言う気にはならない。
皿の上で生け贄のように乗せられた食物。彼女はメロンをうっとりと眺めたあと、吐息を放った。
潤いを滲ませた禁断を思わせる果実が、小さく可愛らしい口の中に次々と運ばれていく。
つられて、俺もメロンに口をつける。口の中でメロンを優しく咀嚼する。
美味だった。
「――ごめんね。これ食べ終わったら、次はお兄ちゃんの食べてあげるから」
イタズラっぽい微笑を浮かべて、いやらしく俺のものを見つめてくる。
先ほどメロンを切っていた時と同じように、妹は舌で唇を舐めた。
嫌な予感が的中した。
忘れていた禁断という名の感覚が、果汁の甘みと一緒に口の中で徐々に広がっていった。