巨乳娘と貧乳娘
どこにでもある昼下がり。
とあるオープンカフェで勃発した、巨乳娘と貧乳娘にまつわるお話。
午後の麗らかな木漏れ日の中。
私は、お洒落なオープンカフェで気分の良い一時を過ごしていた。
「なんかおっぱいがデカい女って、ムカつかね?」
ミルクと砂糖入りのコーヒーを啜っていた私の耳に、若い女の声が飛び込んできた。
歩道にせり出して置かれているいくつかのテーブル席。その一つに独りで座っていた私は、声のした方へ目をやった。
同じ形をしたテーブル席の一つに、女の子二人組が座っている。
「私は羨ましいよすごく」
胸元がまな板のようなその子がそう言うと、
「脱いだら垂れてるって絶対」
推定Bカップらしき貧乳の娘が、まな板みたいな娘に反論した。
話のテーマは、胸の大きさらしい。
「でかくてごめんね?」
彼女達の隣テーブル席に座っていた二人組の一人が、突然笑い声をあげた。推定Gカップの巨乳の娘だった。
「はぁ? 普通が一番いいんじゃん」
Bカップ娘が負けじとすかさずそれに反論する。
そうしてBカップ娘とGカップ娘の間に火花が散って、あれやこれやと鞘当てが始まった。
「私はAAカップです」
Gカップ娘と同じテーブルに座っていた子も、いきなり会話に乱入してくる。
彼女の発言を受けて、まな板みたいな娘の表情が変わった。
「私もAAだよ。体は太らないけど代わりに胸も全然太らない」
「私も太らないですけど女としてはかなり悲しいですよね」
まな板娘とAAカップ娘が貧乳同士で共感したようだった。二人の顔が輝き出していた。
貧乳が――巨乳が――、と罵り合っているBカップ娘とGカップ娘の不毛な論争を差し置いて、貧乳の悲哀話で盛り上がっている。
「うん、色々と悲しいね。食べても太らないのは羨ましいとかよく言われるけど、食べるのは自分で我慢すればいいだけだし。やっぱり胸はいくら頑張っても無理だ」
「夏も嫌ですよね、可愛い服を着てみてもハンガーに干したみたいになって。最近のキャミは胸元が△△になってるのもあって。お互い大変ですね」
「すごいわかる。貧相に見えるのがイヤだから最近はふわふわしたシフォンの服をよく着てるよ。上手くやって可愛い服が着れるようにガンバろ!」
「ですね! AAでもなんか勇気出ました!」
ダブルAAカップのシンパシーは密やかに続いていた。悩みを持つ者同士、健気な工夫話に花が咲いている。
片や、Bカップ娘とGカップ娘の口論が激しさを増していた。
その時だった。
「乳輪が大きい人は嫌だ」
歩行者だったスーツの男が急に立ち止まり、突如として無表情で意見を挟んだ。
スーツを着ているにも拘わらず、如何にもオタクを思わせる風貌の男。真面目そうではあるが、トカゲみたいな顔立ちはお世辞にもハンサムとは言い難い。
「あ、すんません」
Gカップ娘が笑いながらあっさりと返す。
スーツの男はそれを聞くと、何事もなかったかのように無表情でスタスタと歩き去った。
「ムカつくから寝る」
Bカップ娘はそう言うと、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
「何でむかつくのか気になるな」とGカップ娘が不思議そうに口にする。
それは……。やはり嫉妬じゃない? 男の人の興味の行き方からしても。
私は素直にそう思った。
――時間にして数分。
テーブルに伏せていたBカップ娘が、顔を上げた。
「我慢してた寝てみたけど、眠れない! 一人でムカついてごめんなさい」
シュンとしているBカップ娘にGカップ娘は笑顔で応えると、Bカップ娘の頭を優しく撫でていた。
どうやら、和解をしたみたい。
すると私のテーブル席の近く、後方のテーブル席で誰かの声がした。
「……体型に合わせると胸が入らない。胸に合わせると次は体型はブカブカになる……。伸縮するデザインでも胸を締め付けて……胸下は汗だらけになる……。ブラのデザインも可愛くない……」
振り向くと、太った娘がボソボソと一人で呟いている。
――私は自分のEカップを見て、胸を撫で下ろした。