勇者召喚に巻き込まれたおっさんが少年勇者を癒すだけの話
書きたかっただけ。
「おじさんおじさん!」
「おや勇者くん、どうしたんだい?」
いつものように、少年はおじさんに抱き着いて褒めてもらいたいオーラを出しながら声を弾ませる。
「僕ね、今日オーガ倒してきたんだよ!」
ここに来る前に体を洗ってきたのだろう、少年からは花の香りがしている。
「おおー、強かったのかな?」
「えーっとね、騎士の人は『我々5人でも歯が立たない』って言ってたよ!」
オーガは非常に狂暴であり、戦闘に慣れた大人5人でも歯が立たないとなると相当な強さであることがうかがえる。
「でも僕が一切りしたら倒れちゃった」
不思議だねーというかのように少年は首を傾げる。その姿は戦闘行為をしてきたとはとても思えないほど無邪気で、可愛らしい。
「そうなのか、きっと勇者君が頑張ったからだね」
偉いね、そういいながら少年の頭を優しく撫でる。
「えへへー」
少年はまるで少女のように、顔を綻ばせた。ここが彼らの部屋でなければ、鼻から血を噴き出す犠牲者が後を絶たなかっただろう。そんな笑顔に耐えるおじさんマジ鋼の心。
別日。
「おじさーん…グスッ」
「おやおや、どうしたんだい?」
少年が泣きながらおじさんの元に駆け寄り、いつものように抱き着く。おじさんは涙や鼻水で服が濡れようとも構わず少年を抱き留め、頭を撫でながら何があったのかと問う。
「あのね…エルフのお姉ちゃんと戦ったんだけどね…」
「うんうん」
少年が戦闘行為をするということには最早何も言うまい。おじさんは慣れているのだ。
「僕もやられないように倒したんだけど」
「頑張ったね。それで?」
慰めながら褒めるおじさん。褒められた少年は一瞬嬉しそうにするが、再び顔に暗い影を落とす。
「…マオウって人に無理矢理戦わされてたみたいで。ドレイ?って言ってた」
「…そうなのかい。それは、悲しかったね」
「うん…でも、エルフのお姉ちゃんに「平和な世界を」ってお願いされたから。頑張らなくちゃ」
「子供にそんな…いや、なんでもない。偉いね」
「えへへ」
やっぱり少年の笑顔は輝いている。おじさんの胸の中では。
おじさんは中々部屋から出ないから知らない。少年が『笑わない天使』『冷酷勇者』と呼ばれていることを。
「おじさん、久しぶりに少し外に出てくるね」
「うん!行ってらっしゃい!」
少年は眠そうな顔をしておじさんを見送った。
後日、魔王軍から奴隷兵が消えた。死んだとかではなく、きれいさっぱり人っ子一人としていなくなっていた。
ついでに少年が『最高の天使』『救世主』と呼ばれるようになった。皆の顔が少し引き攣っていた。
あと、『勇者には過保護な守護神が付いている』という噂が立った。誰なんだろうなー。
別日。
「おじさんおじさん!」
「おやおや、どうしたんだい?」
いつにも増して笑顔が輝いている少年が、おじさんに抱き着いてくる。最近はレベルがあがったのか、おじさんも少し押され気味になりながらも抱き留める。頭も撫でる。
「マオウって言う人倒してきたよ!」
ついに少年は己が役目を果たしたのだ!
「おお、よくここまで頑張りましたね」
おじさんもこれにはにっこり。思わず少年をぎゅっとする。
「えへへぇ~」
少年もおじさんの熱い抱擁には耐えきれなかった。笑顔が溶けた。おじさんの理性も溶けた。
ふぅ…