鬼というただ一つ 1
…やってしまいました。
何個めだよ、って思った方、…だって、新しいネタばっかり思いつくんですもん…。
続きは書けないのに新しいのはかける。
しかも、全部二、三話しか投稿しないっていう…、ね。
いや、もう本当、ね?
私は、自分で読みたい小説を書いてるだけなのでアイデアが無かったら書けないんですよ…。
なので、このような事態になるわけであります。
「『 』を更新して」って言われれば更新しますので…何卒ご容赦下さい〜。
(土下座)m(_ _)m (のつもり)
ここは平安。
妖が住まい、帝が世を統べ、陰陽師が守る。
隠と陽の気が入り混じり、混沌と希望が相見える。
悪さを働いた妖怪や妖、霊に属するものは陰陽師に退治され、また、異形のものに悪事を働いた人間は、その怨念により苦しめられる。
陰陽師のトップは、安倍家と芦屋家。
妖怪のトップは、鬼、天狗、龍。
この繋がりは、秩序を守り、光と闇として、決して交わらない事で平安という、長い長い時間を歩んできた。
だが、今この時、この繋がりが崩れ去ろうとしていた。
ーーーーーーーーーーー
「親ぶーん、大変です、大変です〜」
トタトタと、木の床を歩く小さな足音が聞こえ、止まったかと思えば、一気に襖が開き、涙目の小鬼が助けを求める。
「…なんだ。骸」
「また、あの方が来てます〜」
「…分かった。いいぞ、下がれ」
「はいです〜」
親分と呼ばれた、この、黒い着物を着て、金に輝く一本のツノを持った美丈夫の名は、鬼瓦夜兎。
人の間で、酒呑童子と呼ばれている大妖怪である。
お酒が好きなことから付けられた名らしい、が。
「(…俺、酒飲まねぇんだけど)」
ふと、そう思考が飛んだことに気付き、夜兎は、とある人物がここに来ていたことを思い出す。
乱れた着物を少しだけ直し、腰に美しい妖刀と、ある呪具を巻きつけると、重い腰を持ち上げある場所へと向かった。
夜兎が向かったのは、鬼の住処である大きな屋敷の狭い部屋。
むしろ、倉庫…いや、倉庫とも言えないほどに荒れた部屋の中に、一人、長く黒い美しい髪と、白い肌、赤い瞳を持った美少女がいる。
ただ…額には二本のツノ。
夜兎のものより長く、金というよりは銀の光を浴びたそれは、どこか儚い彼女をより一層引き立たせる。
…まぁ、性格とは別だがな。
そう、夜兎は考えその少女に声をかける。
ピク、と頭が動いて、少女は夜兎へと振り返った。
「……兄様」
「また、抜け出したのか? お前、一応藤原姫だろう」
彼女の名前は、藤原桜月。
否、酒呑童子である夜兎の妹であり、つまり、鬼であり、真名を鬼瓦咲桜夜という。
「……人間の腹から生まれたというだけで、血筋はれっきとした兄様の妹です。当然、人と生きる年月は違いますし、いつ、晴明にバレるかもわからないあんな屋敷…息が詰まりそうです」
「(まぁ、それは分からなくも無い、が)…まぁ、せめて人として過ごせる間だけでも、さ」
「…兄様がそうおっしゃるなら、今日はもう帰ります。ですが、芦屋家が鬼退治をしようと動いています。気をつけて」
「ああ、お前もな」
ここは隠り世であり、人ならざる鬼が作った狭間の世界。
そこにあるのは、まさしく鬼屋敷と名高い城のような豪邸。
屋敷には、歴代の鬼の当主が強化し続けてきている結界がある。
現当主である夜兎も、その結界の強力さは、しみじみ感じてはいる、が。
「…(今年の安倍家…安倍晴明とか言ったか。あれは、何かが違う…結界、できるだけ補強しとくか)」
「では、兄様御機嫌よう」
「ああ」
咲桜夜は、それだけ言うと、鬼の姿からどんどん喧嘩していき、瞳は黒く、ツノのない…人間と化した。
そして、錦雲の狭間にできる、小さな門を通って現世へと帰って行った。
「氷矢、居るか」
しばらく経った後、夜兎は、誰かの名を呼んだ。
すると、数泊も開けぬまま、ヒヤリとした冷気と、それに比例するかのように現れた膨大な霊力が夜兎の後ろに現れる。
「…酒呑童子様、何用でございましょう」
現れたのは雪男。
肌も髪も瞳も、着物まで真っ白に着飾り、ただ一つ、後ろだけ長い髪を結う簪だけが、黒曜のように暗い。
きだるげな様子を隠そうともせず、美しい、と言う言葉を体現したような青年は、ただ一人の主人である夜兎を見つめていた。
「先程、咲桜夜が来てな。鬼化したから部屋がボロボロなんだ。雨だけは入らないようにお前の氷で屋根をつけといてもらえないか」
…そう。
あの、部屋が荒れていたのは、咲桜夜が鬼化…つまり、霊力を解放したことにより起こった現象だ。
小鬼が涙目だったのは、純粋な強さに怯えたから。
人で居るときに封じ込めている霊力を解放したから。
「桜姫様がですか……承知いたしました。今すぐ修繕に行ってまいります」
「ああ、それとな」
夜兎は、首を傾げる氷矢にさっき、咲桜夜と話していたことを語る。
陰陽師が、鬼を狙っていることも。
「…それは…わかりました。僕の部下の一人である夜天を姫の守護および監視に当たらせておきます」
「助かる」
「…いえ、我が主人である酒呑童子様のためなのですから」
「…そうか」
夜兎が返事をすると、氷矢は「では、これにて失礼します」と言って、部屋を出て行った。
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ーその頃、現世にてー
「晴明!」
「…桜月姫ですね」
「あたりよ! 今日はどんな用?」
兄である夜兎と一緒にいる時とは、考えられないほど、明るい笑顔と声で、咲桜夜は、安倍晴明へと話しかけた。
「貴方様のお父上である帝に頼まれて、各部屋の結界を強化しに来たのです」
そう、晴明に結界の強化だと言われ、咲桜夜は少し顔を強張らせてしまう。
晴明は、親切ごころで「貴方の部屋にもキッチリと術をかけておきました。安心してくださいね」と言ってくるのだが、それは、咲桜夜にとっては、全然嬉しくもない話で…。
霊力と言うものは、結界の中では外へ出て行ってはくれない。
つまり、一週間も部屋から出なければ、その分の霊力を自身の体に収めたままにしなければならないと言うことで……それは、未だ未熟で霊力を制御しきれていない咲桜夜にとって、大変な負担になることは間違いない。
だが、それを少しも表情に出さず、笑顔で会話を終え切った咲桜夜は、「では」と短い挨拶をして、自室へと急いだ。
部屋へと着いた咲桜夜は、真っ先に晴明の結界を弱める為の術を部屋全体に施し始めた。
流石に鬼化は出来ないので、少しだけ霊力を解放しつつそれをそのまま変換せず術へと変えていく。
確かに、晴明は若きエリートだ。
顔も整っている方であるし、声も低いテノールで、歌の才能もある。
そして、彼が支えているのが自身の父と呼ばれる存在であることも、そして…自身の母、と呼ばれる存在の、かつての愛人であったことも知っている。
咲桜夜は、生まれてくる過程で、記憶を読み取り、その全てを知った。
確かに、咲桜夜は、帝の正妻である藤原彰子から産まれた、が。
血の繋がりは無い。
可笑しな話ではある、が、真実なのだから仕方がない。
咲桜夜の本当の父と母は、純粋な鬼だ。
父も、母も、れっきとした鬼神。
だが、咲桜夜がこの二人に会うことは、未来永劫ないだろう。
何故なら、この辺りは咲桜夜と言う娘を藤原彰子と言う母体に入れると、とある戦へと赴き…そのまま帰っては来なかった。
そう、咲桜夜は夜兎に聞いている。
だから、咲桜夜の名は、夜兎が付けたものであり、母の名であった桜衣と、父の名であった、咲嵐と自身の名である夜兎から一文字づつ取って付けたと…。
「(…私は、そんなあったことのない両親を求めるよりも、兄様と居れるのならばそれで良いわ)」
だが、咲桜夜はそんなことを考え、それを自笑すると術を完成させて解き放った。
妖の仲間が来ても、私を見つけられますように。
そう、願いを込めて。
『鬼の子は、一つで言葉を話し、三つで歯が生えそろい、五つで走り、十つで成人』
誰だったか、こんな事を言ったのは。
鬼は、人間よりも生存本能が高い為、成長が早い。
だから、人の腹から産まれた鬼は、大抵が蔑まれ、疎まれるという。
人の、鬼の、なんと脆いことか。
危うく切れそうなその運命を、縋る思いで辿れ。
そうすれば、いつか、月が満ちる満月の夜、再び世界の調和が制されるであろう。