五話 「ラブコメさん、いらっしゃいでこんにちは」
翌日。
今日から早速授業のスタートらしい。
「ふぅー……」
僕は相も変わらず、いつもの───いつもの、と言うにはまだ早すぎるかな?───通学路を歩いていた。
(昨日は眼福だった上に、友達もたくさんできて結構良い一日だったんじゃないかな?)
そう、あの後隆真を皮切りに僕の周りにも次第に男子生徒が集まり、会話に興じた。
中西さんではないけど、彼らを通じてなんと女子とも少し会話した。
(まぁ中西さんは初日からもう高嶺の花認定を受けているみたいで、どの男子も彼女に話しかけることは叶わなかったようだけど)
ただ、男子同士で彼女の話は尽きなかった。ファンクラブとかできそうな勢いだ。
僕も彼女に憧れるかどうかと言われれば、そりゃかわいいとは思うけれど。
久しぶりの集団トークに自身のコミュ障っぷりを思い知った僕に、色恋沙汰は早すぎる。
まずは高校一年生、普通に友達をたくさん作ろう。
◆◆◆
つらつらと昨日の出来事に思いを馳せながら歩いていると、いつの間にか校門を過ぎて校舎の入り口までたどり着いていた。
「……あれ?」
下駄箱を開けて靴を取り出すと、ピンク色の封筒がヒラヒラと足元に滑り落ちた。
「……ッ!!」
状況を察せず数瞬の間硬直していた僕は、可能な限り素早く封筒を拾い上げて胸元にしまうと、周囲の気配を探った。
(前方の廊下の曲がり角の先に気配が二つ……両名とも男性、身長は165cmと171cm、体重は71kgと68kg……戦闘の経験は無さそうだ。背後には校門に続く120メートル圏内全て、気配なし。また、2Fの階段に昇る気配が四つ、足音から察するにいずれも女性……、身長は……)
とりあえず、見られている気配が無い事を察すると、僕は急いでトイレに向かった。
「……えっと、これはもしかして、もしかすると……? …………ラブレターなのでは……いやいや、まさかそんな」
トイレの個室に逃げ込んだ僕は、謎の封筒を片手に震えていた。
封筒を裏返すと女性らしい丸っこい文字で“M・M”と書いてある。
最早これは確定なのでは───僕は期待を胸に封を切る。
“おはようございます、M・Mです。
名前を伏せて便りを出す無礼をお許し下さい。
どうしても貴方に話したい事があります。
今日の放課後、校舎裏のポプラの木の下で待っています。”
「……フフフ……フハハハハ……!! キタァーーーーーーーーーーーーー!!」
早すぎると思っていたラブコメ展開が、なんとアチラからいらっしゃいでこんにちは!
テンションうなぎ登りな僕は、外から聞こえる不信がる声にも気づかず、朝のSHRが始まる鐘の音が聞こえるまで、はしゃいでいた。