第55話(この人を信じていいのだろうか)
入ってきたその人物。
人のような姿をしている彼だが、僕には見覚えがあった。
「貴方は、確か以前馬車がぶつかった時の……」
「覚えていてもらえましたか」
嬉しそうに目の前の彼は言う。
確か竜族の人で、メルの家の馬車とぶつかって大変な事になっていたはずだ。
その人がどうして今ここに?
というか彼が僕をここに連れてきたのだろうか?
そもそも僕をここに連れてきてどうするつもりなのだろう?
そう僕が不安を抱き、何も言えずにいるとそこで、
「いきなり連れてきて申し訳ありません。ですがどうしても私は貴方が欲しかったのです」
「え?」
突然、僕が欲しかったんだという彼。
何の話だ、そもそも彼は男で僕も男で、そしてここは男同士の……。
その話を聞いて僕は震えてしまう。
カイル達はどこだろう?
そもそもここが何処なのか分からないから、カイルのいる場所が分からない。
逃げ出しても、何処に行けばいいのだろう。
だから僕は震える声で目の前の人物に、
「ぼ、僕をカイル達の所に帰してください」
「ん? それはあの銀色狼の獣人達の所かな?」
「は、はい……」
誘拐した人物が、素直に元の場所に連れて言ってくれるとは思えないが、言うだけ僕は言ってみた。
それに目の前の竜の人が、
「申し訳ありませんが今は無理ですね」
「今は、ですか?」
「ええ、実は貴方のお力を貸していただきたいと思って、こういった形になってしまいましたが、我々はこの場に貴方をお連れしたのです」
「僕の……力?」
それは僕の、“鑑定スキル”の事を言っているのだろうか?
だがそれを聞いて僕は、この人に会った時に、
「確か、『それで、先ほどの“鑑定スキル”は素晴らしいものでした。ぜひ我が国にいらっしゃいませんか?』と言っていましたよね?」
「はい、実は貴方のその力を他の方に話した所、その力を使えば何とかなるのでは、という話になりまして」
「? そうなのですか?」
「はい。そしてその……色々と急ぐ面もありまして、ご一緒に居る方々は貴方をこちらに連れてくる“障害”になるかと思いこのような事に」
どうやら急ぎの用であったために僕を攫ったという事らしい。
でもそうきいてしまうと、
「カイル達、僕が居なくなって心配しているはずだから連絡だけ取りたい」
「そうですか? では我々の方から、“説明”をしに人を送りましょう」
「そうなのですか?」
「ええ。但し我々に力を貸していただけるなら、という条件付きですが」
そう答える竜の人。
でも僕は、この人を信じていいのだろうかと迷ってしまう。
だっていきなり話し合いをせずにこんな場所に連れてきたのだ。
僕の不安はもっともなはずなのだ。
そこで目の前の竜の人が僕をじっと見つめる。
その視線が何処か、カイルが僕を見つめているそれと重なる気がする。
本当に。
本当に、僕の能力だけが目的なのだろうか?
そんな不安を覚えるけれどそこで竜の人が、
「おや、靴が片方ありませんね。こちらに連れてくるときに落としたのでしょうか?」
「本当だ。どうしよう……」
「では新しい靴は用意させていただきましょう。それで、お力を貸していただけないでしょうか?」
「それは僕に出来る事ですか?」
「ええ。我々は貴方に“ある物”を鑑定していただきたいのです」
そう目の前の竜の人は僕に告げたのだった。
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