第51話(お酒で頭がぼんやり(重要なことを聞き逃す))
カイルが夜風に当たっている僕の近くにやって来た。
「タクミ、どうした?」
そう問いかけられたので僕は、
「お酒にちょっと酔った気がする。だから風に当たりながら飲もうかと思って」
「確かに今日は涼しくていい風が吹くな」
カイルが答えた所で、さぁっ、と葉のこすれる涼やかな音がして風が頬をなぜる。
お酒で熱くなった頬が少しひんやりして心地いい。
空を見上げると、楕円形のような形をしたお月様が見える。
わおーん、と叫んでみたい衝動に駆られる月だなと思って、また一口お酒を飲む。
マタタビの影響は僕にはないけれど、普通にお酒を飲んで酔うような感覚はある。
お酒は人の心にある“枷”を、緩めるものらしい。
でもその“枷”に気付いていない場合もあって、でもそれが緩まってしまったならどうなるのだろう?
そこまで考えた僕は、なんだか面倒くさいなと思って全部放り投げた。
そして、なんとなくカイルのそばに居たいなという気持ちになって、僕はカイルにくっつく。
「タ、タクミ……」
「やっぱり、カイルの傍にいると落ち着く。幸せな気持ちになる」
「そうなのか?」
「うん。もしカイルに僕は出会えなかったら、どうなっていたのかなって思う」
こんなよく分からない異世界に連れてこられて、僕はカイルに出会えた。
そう考えると、優しいカイルに出会えたのだからこの異世界も良い物のようにも思える。
メルやレイトもいい人だし。
メルの兄達の件も、驚いたけれど、結果は良好だ。
そう思いながらカイルにくっつきつつお酒を一口飲む。
果実の甘みとスパイスの香りが心地の良い味だ。
そう僕は思いながらカイルに、
「明日からまた、旅なんだよね」
「そうだな」
「ここからだとどれ位、時間がかかるんだろう?」
「俺の城までか?」
「うん。どれくらいかな……」
何か不思議な事を聞いた気がしたが僕はよく考えられない。
ぼんやりとした頭でカイルに問いかける僕の頭を、カイルが優しく撫ぜた。
「ここからなら一週間程度だな」
「え? そうなんだ……あと一週間しか僕はカイル達と居られないんだ」
「寂しいのか?」
「うん」
僕は素直に頷いてカイルに抱きつく。
そんな僕にカイルが諭すように、
「城に行けば元の世界に戻れて、そして俺達に会いたくなったならいつでもタクミが望めばこれるようになるから。だからタクミが望めばすぐに会える」
「……本当? それに、カイルはお城にいるの?」
「ああ、タクミがこの世界に来る時はいつでもその城で待っている」
「そっか……そうなんだ……ならいい、や」
「タクミ?」
そこで僕の意識がふっとなくなる。
そんな僕を抱きとめたカイルが困ったように、
「こんな無防備になって、どうする? 俺は今もタクミに触れたくて堪らないんだぞ?」
そう呟いたことなど、僕は知る由もなかったのだった。
次の日、ミストフィアがエルダ伯爵と喧嘩していた。
首筋にある赤いキスマークを見る限り、酔った勢いでエルダ伯爵がミストフィアを襲ってしまったらしい。
「このケダモノが! どうして僕にこんなことをした!」
「いえ、服をはぎ取って着替えさせようとしたらそのまま、むらっときて」
という言い訳にもなっていない言葉にミストフィアが怒っているとそこでエルダ伯爵が、
「駄目かと聞いたらいいって言ったじゃないか」
「だ、だってあれはお前が、悲しそうな顔をするから……」
「お前ではなくそろそろ名前を呼んでほしい、ミストフィア」
「う、うぐ……フィス」
どうやらエルダ伯爵の名前はフィスというらしい。
またスウィンとリーフィアはこれからデートなどをして互いの愛を深めていくらしい。
とりあえずは薬のおかげで今の所は、リーフィアは大丈夫そうだった。
それから僕達は彼らに見送られて……ミストフィアはメルが行くのをしぶしぶ了承して、ようやく僕達は旅を始めることが出来たのでした。
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