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第35話(そうですか、分かりました)

 エルダ伯爵はミストフィアが好き……だが、ミストフィアのあの様子では、と僕が思っていると、


「考えてみてください。ミストフィア様は極度のブラコンですから、普通ならば頼み込んだり助力をと言ったはなしであれば敵だろうが交渉する方です。なのにエルダ伯爵相手では、頼らないと頑なに言って、徹底的に逃げ回っているわけです。これが意地の張り合い以外に、何と言えばいいのですか?」

「いえ、勝てない相手だから逃げまわっている、とか?」

「昔から実力は拮抗しあっています。学生時代から好敵手で、よく競争していましたから」


 そういうスウィンの目がどこか淀んでいるのは、あの二人いい加減にしないかなと心の中で思っているのだろう。

 この人も大変だなと僕が思いながら、


「エルダ伯爵は、貴族としての地位は当家よりも低いものの、商売で成功を収める等をして今では当家よりも領地が広く豊かになっていますから。それもありミストフィア様のお見合いの話もあったのですが……こう、素直になれない者同士のこじれといいますか、ミストフィア様がそのお見合いを蹴って更にこじれた状態で」

「そ、そうなのですか」

「エルダ伯爵の方も、そろそろしびれを切らして強行な手段を取らなければいいのですが……いえ、愚痴になってしまいましたね。お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした」

「い、いえ、色々と分かりました、ありがとうございます」


 そう僕は答えると、スウィンと僕は別れたのだった。








 メルの部屋にやってくると、メルが布団の中でうーうー言っていた。

 先ほどのスウィンの話をしようかと思ったが、これまでの言動から考えると信じてもらえない気もしたので、僕は言うのをやめてしまう。

 代わりに、


「メル~、今日は僕、ソファーで寝たほうがいいかな? 毛布を借りていい?」

「! そうだ、今日は初めてお友達がお泊り!」


 メルがベッドから顔を出した。

 もう元気になってしまったらしく猫耳が嬉しそうに動いている。

 この生の猫耳の誘惑が僕を襲う。


 それを見ながら僕は、その誘惑に耐えつつ、


「やっぱり獣耳って普通は触らせないものなんだ?」

「! だ、駄目だからな! ここはすごく気に入った子しか触っちゃ駄目なんだ! 触られると変な声が出るし!」

「……なるほど」


 それを聞きながら僕はレイトには触らせていたなと僕は思った。

 次に、カイルはどうして触らせてくれたんだろうかと思って、もしかしたなら猫耳と狼耳では違うのかもしれない。

 そう納得した僕はその日、メルのベッドで一緒に眠ったのだった。







 次の日、僕の寝覚めはあまり良くなかった。

 ベッドの中で、レイト……とつぶやいたメルにもぞもぞとされて、


「そんな所触っちゃ駄目、あっ!」


 という羽目になった僕は、今度からカイルのベッドに潜り込むことにした。

 事情を話すと初め少し眉を寄せていたカイルが、すぐにもぐりこむと僕が言うと笑顔になり頷く。

 尻尾をふっているのを見ると嬉しいのかもしれない。

 

 それから朝食を頂いて(普通のパンとハムと卵と……といった見かけは普通の食事だった)、用意してもらった馬車に乗り込もうといった話になったのだが、そこで、


「ミストフィアはいるか?」


 知らない人物が訪ねてきた。

 白い猫耳の黒髪に赤い瞳のイケメンである。

 またも美形の男が出てきて、平凡な僕はこの世界にはイケメンしかいないのかと思っていると、


「エルダ伯爵か。残念だが今は貴様と話している暇はない」

「余裕がありませんね、どうされましたか?」

「……行くぞ」


 そう言って無視して歩き出そうとするミストフィアの腕を、エルダ伯爵が掴んだ。


「どうして俺を頼らない?」

「お前の目的が分からないからだ。……絶対にお断りだ」

「そうですか、分かりました」


 エルダ伯爵はそれを聞いてすぐに手を放す。

 ごねたりしなんだなと僕が見ていると、代わりにミストフィアが一瞬すがるような、悲しそうな表情でエルダ伯爵を見たけれど、すぐにいつもどおりに装い、僕達に、


「早く馬車に乗るといい。僕は案内だけして、すぐに屋敷に戻らないといけないから」


 ミストフィアはそう告げたのだった。


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